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9.今から緊急のオペを行います-オペ、ですか?-

全52話予定です


曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)

※特に告知していなければ毎日投稿です


 研究所の中央室が少しあわただしくなったのは、恵美とアイザックのやり取りが終わってすぐである。


「今から緊急のオペを行います」


 アイザックがそう宣言する。もちろん対象は、カズだ。


「オペ、ですか?」


 事情の分からない医師たちは困惑するが、


「所長の身体に埋め込まれている[子供]を摘出します。現在、所長の命を最優先に考えなければなりません。その為にはある程度の犠牲はやむを得ないと考えます」


 ――所長の命が最優先だ。そのあとの問題はその時考えればいい。


 とアイザックは医師たちに言って返したのである。彼は副所長だ、前述の通り、現況で言えばここの最高責任者に当たる。その彼が[摘出手術をする]と言っているのだ、それはもちろん覚悟があっての決断なのは間違いない。


 彼らは直ぐに、


「分かりました」


 そう言ってアイザックを含めて五人での手術が開始されたのである。


 遡って話せば[子供]の埋め込み手術も大変なものであった。


 それはそうだ、腹部に本体は埋め込むものの、その信号を伝達する為の神経を脳の近くまでもっていかなければならなかったのだから。今でこそ脳に生体コンピューターを取りつけるのに数時間程度で終わらせる、そのスタッフたちにしても十時間以上の時間がかかった。


 時間がかかる理由は手術が難しいから、だけではない。カズは他の被検体とは違う、無くてはならない人物なのだ。彼の代わりが利くものではない。必然的に慎重にならざるを得ないのである。失敗しました、は決して許されないのだ。


 今回の手術も、とても慎重に行われた。特に脳近辺の、神経が接続されているところはそれだけで数時間という時間を取って行ったのだ。同時に腹部の[子供]も摘出された。そしてその跡から順を追って神経の筋を丁寧に剥していったのである。


 手術は十時間以上かかってようやく成功を収めた。


 四人がかりで十時間以上の長丁場はそれは大変なものである。だが、摘出は無事に終えた、とCTやレントゲンの結果が教えてくれていた。


「終わりましたね。これからどうされるおつもりですか?」


 気が緩んだのだろうか、一人の医師がアイザックに尋ねてくる。


 それに対してアイザックは、


「もちろん本人への説明が一番でしょう。異物が除去されたという点を鑑みれば麻酔が切れてしばらくすれば意識が戻るはずです。そうしたら真っ先に私が事の次第を説明しますよ」


 ――それが私の責任ですから。


 アイザックは恵美と話した内容を精査していた。それは楽観論が入っているものの、現実可能な選択肢として最終的に自分が決めた結論である。


 実際、カズの命というのはカズ本人だけのものではなくなりつつある。それは研究所にとってもそうだし、もっと言えば同盟連合にとっても失ってはならないものになっている。


 カズの個人的な感傷に付き合ってはいられない、それほどそのカズという存在は重要なのだろから。


 ――それでも、私はきっと怒られるのでしょうね。


 アイザックは、自分の責任の取り方についても考えていた。カズから[子供]を摘出したらどうなるか、それはカズでなくとも分かる話だ。当然、次はどうするんだという話に繋がって来る。そこでアイザックは副所長としての責務を果たした、と申し出るつもりでいる。


 それでも許してもらえるかどうか。いつも冷静なカズだ、そうそう荒げるような真似はしないと信じたいが、


 ――こればかりはな……。


 アイザックは少しため息を漏らした。


 この手術には、もう一人の命の問題が関わっているのである。


全52話予定です


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