8.貴方はどう思いますか-私としては第三の提案を支持します-
全52話予定です
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アイザックは[貴方ならどうするべきだと思いますか?]とは聞いて来ない代わりに、
[貴方はどう思いますか]
と聞いて来た。その聞き方は責任者としてのそれであり、暗に恵美には責任を押し付けないという表れでもある。
だが、
[私は可能性を提示しか出来ません。よりよい手段があればいいのですが]
と返した。
カズの命を取るか、チトセの命を取るか。恵美自身は間違いなく機体から降ろされる事はないだろうと想像はつく。それは、それなりの実績も残した機体だ、そうやすやすと[あなたは要りません]とはならないだろうし、現に自分には人間としての籍もある。
ではカズの命を優先したらチトセは一体どうなるか。
アイザックはしばらく文字を返してこなかった。恵美のインターフェースは現在、アイザックとのやり取りのみである。当たり前だがカメラを接続していないので相手の表情や、周りの様子も分からない。その中でのやりとりなのだ。
――そう、決めるのは貴方。私はただ提案するだけ。
現在の恵美はその立場上、思考ログを取っているもののほとんどの人間がその情報にアクセスする権限がない。それはカズとのやり取りがある為だ。
思考ログというのは、本来であれば反乱の予兆を知る目的で取っているのである。それが研究所付きの、しかも指導的な立場の人間ともなれば、いくら脳だけの存在であるサブプロセッサーになったとはいえ話は別である。だから恵美は自由に思考を巡らせる。
先の通り、カズが意識不明である以上、研究所で行うすべての決定権は現在、アイザックにある。
前者を選んだ場合はどうか。
より副反応の強い初期のロットのクスリを使えば、確かに一時的でも収まるかもしれない。だが、それとて一時しのぎでしかない。そこでカズが意識を取り戻せば、カズにこれからの方策について聞く事だって出来るだろう。
ではカズはその時、一体どんな答えを出してくるか。
恵美の予想では十中八九[このクスリでしのぐ]と言い出すだろう。だが、クスリは現在まで使用して来たという時間経過を見れば、初期ロットを使えば、彼の寿命はもうあと十年そこらくらいしか持たないだろうと推測される。
それに耐性の問題については目を向けていない。そう、いくら初期ロットを使えばいいとはいえ、完全ではないのだ。
それでも、後者を選ぶ可能性は限りなく低いと予想される。何故ならチトセの命が危ういからだ。少しでも[廃棄処分]の可能性がある選択肢は、まず候補にあがらないだろう。
――だけども。
恵美は思う。今までこれだけの成果を、戦績を残したカズから、その最愛の女性であるチトセを奪う可能性は本当に高いのか。千歳が所長をしていた時代だって研究は着実に進んでいたし、カズたち日本組が来る前よりも随分進んだものだ。その功労者を、果たして簡単に処分するだろうか?
だとしたら。
なかなか回答の帰って来ないアイザックに、
[私は二つの選択肢を提示しました。どちらも簡単に選ぶことが出来ないのは重々承知しています。そこで第三の提案をしたいのです。ただし、これは非常に難しい選択になるでしょう。しかし、今から私の言う話を聞いて頂いて、それでも良いというなら、私としては第三の提案を支持します]
恵美はそう言ってのけた。
[第三の提案、ですか?]
当然だ、まず分からない。
そんなアイザックに、
[それは……]
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