5.現況はどうなっていますか?-丸二日以上経っているのに意識が回復しない-
全52話予定です
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それは数日を要した。
ゼロゼロこと恵美博士がゼロゼロという機体から降りて専用の車両でエルミダス基地まで約二日、そこから半日をかけてやっと研究所にたどり着いたのである。その理由は言うまでもない、機密保持の為にわざわざ迂回して、偵察衛星の間隙を縫って走るからである。
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サブプロセッサーとなった恵美は、当然一人では日常生活は送れない。食事一つとっても、脳髄液に補給されない限りはそれこそものの十分もあれば死んでしまうだろう。酸素供給に至ってはもっとシビアだ。供給が絶たれれば、ほぼ間違いなく数分もかからずに死に至る。そうならないようにヤマニであったり、レイリアであったりが整備という名のメンテナンスを日々行っているのである。
当然、その存在はまだ秘匿されているはずなのだが、人の口に戸は立てられないもので、サブプロセッサーの存在自体はそれほど秘密というものではなくなっている。だが、自我があるかないかという話になって来るとまた別だ。
おおかたの[噂]を知っている人間は、サブプロセッサーと呼ばれるモノは人の脳が元になっていてコンピューターが積まれているものの自我は存在しない、と思われているのだ。
実は、それにはある程度の人間の関与が関わっている。その噂だってここ最近流れたようなものだ。
それまでは[噂の噂]、つまり誰も知らない存在だったのだが、第二世代を運用するようになって、たまにピクピク動くレイドライバーを見たという人間や、[他の整備士から聞いたんだけど]と、まことしやかに人の脳みそが使われているという話が流れるようになった。
それはカズの知りえるところであり、カズが整備士の中に紛れさせた話でもある。
カズは、ゆくゆくはサブプロセッサーの存在は、自我の有無を含めて開示しようと考えているのだ。もちろんそれには上の許可を得ないといけない。
だが、上は上で隠しきれないと感じてはいるようである。現にカズにはそんな話が降りて来ていた。それは[それとなく噂話でも]というやつである。
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恵美には研究所付きの整備士が付き添っていた。それはアルカテイル基地に数名存在するうちの一名である。どうしてもまだ秘密がある以上、機体数が増えた現在、整備主任のヤマニだけでは賄いきれないというのがある。
それに、こうやってサブプロセッサーを運搬する必要性が出てきた、という昨今の事情というものもある。直近で言えば、ゼロフォーの例がそれに当たる。あの時はカズが付き添ったとはいえアルカテイル基地からエルミダス空軍基地まで出向いたのだから。
「現況はどうなっていますか?」
研究所に到着して中央室のアクセス端末に繋がれた恵美がアイザックに問う。
「状態は今のところ安定してはいるのですが、その、検査項目の数値が戻らないというか、意識が戻らないというか」
丸二日以上経っているのに意識が回復しないのである。
「検査値をこちらに回してもらえますか?」
そう問われると直ぐに看護師の一人が端末を操作する。こういう時はサブプロセッサーの身である今の恵美にしてみれば便利そのものだろう。何と言っても項目を読み上げる必要もなければ、なんなら正常値と異常値を色分けする事だって出来る。そして、もしもおかしな点があれば、それが以前に行った検査であれば、それがコンピューターに残っている限りいくらでも一瞬で参照が可能なのだ。
「これは……」
恵美は言葉を失った。
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