4.これはもしかしたら-貴方に研究所に戻ってほしいのです、博士-
全52話予定です
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――これはもしかしたら。
アイザックは直ぐにアルカテイル基地に連絡を繋ぐ。するとそれは直ぐに目的の相手へと渡された。
「ゼロゼロですが、どうされましたか?」
相手はゼロゼロである。
「緊急の用事が出来ました。貴方に研究所に戻ってほしいのです、博士」
最後の一言ですべてを察したのだろう、
「それは所長になにかあったのですか?」
と返って来たので、
「その通りです。例の、例のクスリが効かないのです」
と告げた。ゼロゼロ、いや博士と呼ばれたからには恵美と呼ぶべきだろう、彼女は、
「クスリの追加投与したのですよね? だとしたらやや古典的ではありますが、シクロスポリンとタクロリムスの併用でまずは症状の緩和に勤めましょう。直ぐにそちらに向かいます、エルミダスで合流を」
と指示が出る。恵美はゼロゼロの機体から降りて車でエルミダス基地まで向かう予定だ。そして研究所からも迎えの車を出す。そして合流してことに当たる、という算段が出来上がったのだ。どんなに急いでいても研究所の場所という秘密は絶対なのである。
――これは博士の領分、とりあえずは保存療法をしなければ。
アイザックはとにかく容体の安定に全力を務めた。言われた通り、二剤の薬剤を投与して様子を見る。もちろん、それまでに投与したクスリの効果も多少はあったのだろうか、とりあえず見た目の容態は安定して来た。
「現時点で、所長の生命維持を最優先課題とします。この中央室はその目的で使用します、権限のない方は……」
アイザックはそう言ってから、既にそういった人間は退避していた事に気が付く。
――流石は所長、というべきか。
カズが関与している事柄というのは皆、自分からは積極的に触れようとしない。それはやはり以前に行った[人員整理]が関係しているのかも知れない。
[人員整理]とは、カズが行った代表的な改革の一部だ。
お互いにより情報共有するという制度を設けたのだ。お互いにより情報共有する、と一言でいうが、実際には毎日の日課として日々の業務に取り入れられた。
毎日の朝にはそれぞれのセクションの人間が、極力専門用語を使わずに他のセクションの人間がいる場で説明する、というものである。そして質問を受けるのだ。勿論その質問にも極力専門用語を使わずに説明して返す。
そうする事で研究所全体のポテンシャルが先代の所長である千歳の時と比べても上がったのだ。そしてそれは皆が皆の研究を知っている、つまりは不正の防止にもつながる。功を焦って研究データを捏造されては困るのだ。
もちろん知っていい情報と知ってはならない情報というものがある。その問題はグループ分けで解決した。
実際に功を焦ったという事例が無かったわけではない。もちろん不正にかかわった人間の末路は言うまでもなかろう。
ある時期までは一人、また一人と研究者は減っていった。当然政府からは[大丈夫なのか]と問われた事もあった。
だが、カズはこのやり方を曲げなかった。
毎日、職員全員が集められて時間をかけて昨日行った研究を発表しあう。そして研究成果が出ない、出せない人間は被検体として実験に供される。
それは研究者たちにとって相当プレッシャーだったであろう事は容易に想像がつく。実際に気がふれた研究者もいた。リボルバーで笑いながら自分の頭を打ち抜いた人間もいた。
それでもカズはこのやり方を曲げなかったのだ。
そのせいもあるのだろう、いつしかカズの周りには人が寄らなくなった。研究所に来て、たまたま食事をしようとしても、すぅーっと人が遠のく。もちろん皆がカズの事を嫌っている訳ではない。皆が、ほとんどの研究所職員が彼の事を[恐れて]いるのだ。もちろん、[人員整理]が終わった現在では、恐れという感情はなくなっているのかも知れない。現に少数精鋭とも呼べる布陣になったのだから。
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