33.ここで研究を止める……のはないよな-オレに[モグラ]になれ、と?-
全52話予定です
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マタルが同盟連合達の戦果を知るのはそんなに時間もかからなかった。どうも共和国の考えたシナリオ通りには行なかった、という事実である。
[どうやら敵は行動予測をして撃破に当っていたらしい]
そんな話が入って来たのだ。
――さて、どう出るかね。ここで研究を止める……のはないよな。
そう思っていたマタルにある日主任が声をかけてきた。
「きみはエルミダスやアルカテイルという土地は知っているよね、行った事は?」
そう尋ねられて正直、マタルは生きた心地がしなかった。バレたか、それが頭を回る。
――でも、もしもバレているならとっくに殺されているはず。そうなっていないという事はもしかして。
「行った事はあるが」
と答えてみる。すると、
「どんな用事で?」
と返って来た。
「元々の稼業が稼業だからな、まぁ、その、人さらいとか色々と。軍人にも何度か会った事がある」
とカマをかけてみる。これで乗って来なければ不発、そこから変な話に発展しなければよしだし、もしも発展したとしてもタバコがバレたとは思いづらい。
「稼業が、と言ったが、エルミダス、アルカテイルの両方に同盟連合の基地があるのは知ってるよね? そこに出入りする業者に紛れて情報を漁ってほしいんだ。何なら雇われるのが一番いいんだが」
と主任はタバコを一本箱からひょいと出して差し出す。
「おお、ありがたい」
と言ったが心の中はかなり動揺していた。
――このタバコはどんな意味があるのか。
とも思ったがどうやら杞憂に終わりそうだ。主任は[ここで吸ってくれていい]そう言って自分も吸い始めた。
マタルも元々愛煙家だ、火を貰い一口吸う。久々に吸う時の頭が締め付けられる感覚と同時に頭が冴えてくる。
「オレに[モグラ]になれ、と?」
そう返す。それ以外考えられないからだ。そんな話をマタルにする主任、その求めているのは恐らく、情報。共和国には技術が足りていない。だが、こと[モグラ]に関して言えば土地柄もありそれなりのものを持っている。だから帝国が旧イエメンに駐屯する情報や、同盟連合がちょっかいをかけてくるという情報も手に入ったのだから。
――なるほど、弱い部分もあれば強い部分もあるというところか。
そう思いながら二口目を吸う。肺に煙が染み渡る感覚がする。
「そう、モグラ。正直、このまま研究所に残って手伝いを続けてくれた方が良いのか、とも思ったんだがね、もっと先の情報が欲しいんだよ。そこでヒトを生業としているきみに白羽の矢が立ったという訳だ」
そうまで言われれば話が分かる。確かに裏稼業を生業にしていた自分だ、そういう話が舞い込んできても不思議ではない。何なら基地の人間を拉致して、なんてのも考えられる。それにしたって経験が無ければ出来ない話だ。マタルはその点で行っても問題が無い。
「それは今回の戦績と関係が?」
「ああ、今回の戦いはちょっと残念な結果に終わった。実際にあれほど簡単に撃破されるとは思ってもみなかった。そしてどうやら同盟連合は帝国と共闘したのではないか、という分析が出てね」
主任はそう言って事の次第を説明してくれた。
共和国の目論見では、帝国と同盟連合の人型がやりあってくれて、ある程度の損害が出た時点で満を持して登場した、はずだったのだが、その相手がどうも一緒になって攻撃して来た、というのだ。
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