31.コックピットには[子供]を置く-とりあえずは現状のシステムで行こうと-
全52話予定です
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それからはというと、急ピッチで作業が進められた。とりあえずゼロゼロの改修を急がないといけない。それはアルカテイルのパワーバランスを崩しかねないというのと、指揮官機が不在という二つの要素があるからだ。
低重心化、それに伴うサブプロセッサーの配置の移動。装甲回りもアップグレードを続けているのでそれに変更し、
「では、コックピットには[子供]を置く、で良いんですか?」
とアイザックに尋ねられれば、
「とりあえずは現状のシステムで行こうと思うんですよ。どれだけ上手くいくかは分からないけど、まずはゼロゼロで試験運用してみようと思います」
とカズが返す。
カズの考えは前述の通り、疑似パイロットとして基地に置かれたコックピットから遠隔で動作の指示を出す。基本はそのモーションに連動してレイドライバーのコントロール系に信号を回して自機を操る。しかしながらサブプロセッサーは常に全方位警戒をしているので、もしも不意の攻撃があった場合は独自に動く、と。
確かに、これなら無人機の良いところと、パイロットシステムの良いところを合わせていける。感じとしては半自立型とでいうのだろうか、まずはゼロゼロでどこまでやれるのかを見極めて、順次パイロットの無線化を実装していく、そんな構想である。
実際に彼女たちパイロットが操縦する、となった際もスムーズに移行できるだろう。何故ならサブプロセッサーとの子宮のリンクで動けるから。それも含めての無線化なのだから。
ゼロゼロという機体は少し特殊である。プロトタイプというのもあるし、元々が自我のあるサブプロセッサーを搭載していた。コアユニットという存在はあったものの、実際にゼロゼロがコントロールを握って動いたりもしているのである。そういう意味では無人機の先駆けとも言えるだろう。
「しかし、盲点でしたね」
アイザックがそう言ってくる。
言葉の通り無人化したければ、現存している航空機のそれに倣って別の場所からコントロールすればいい。
だが、もしも行動不能に陥った場合はどうするのか。
順序だてて考えればパイロットが自爆装置を起動という運びか、部隊長が起爆を実行という流れになる。それだって何もその場で行う必要はない。無線さえジャミングされなければそんな芸道だって可能である。
遠隔起爆、それは一つだけ良い側面を持っている。サブプロセッサーが自分で自分を処さなくて済むというものだ。もしも起爆をサブプロセッサーに任せれば、すなわちそれは自害と何が違うのか。[動けなくなったからお前は自害しろ]と言っているようなものだ。それはあまりにも酷というものである。それならばいっそ、遠隔で起爆した方が良い、そういう話になるのである。
ならばいっそ、サブプロセッサーも遠隔で、と行きたいところではあるが、これは不可能である。何故なら拿捕の可能性がある場合、自爆処理をしなければならないのと、そもそもそこまでの無線の帯域の余裕が無いからである。
レイドライバーは各所に[子供]を配置している。その[子供]との信号のやり取りも無線で、となると帯域に乗せる情報量が巨大になり、現行の無線では全然足りないのである。
「実際、子宮のリンクが大きかったね。まさかの手元落ちだった。信号である子宮のリンクだって送受信が可能なんだから」
元々、同盟連合のレイドライバーのキモの一つが[子宮リンクによる独特の間の低減]なのだ。それさえも遠隔が可能という、その一点に気が付かなかった。しかし、千歳はそれをあのくらい閉ざされた中でずっと考えていたのだろう。この研究の行く末を、自分は[無いもの]として扱われていたその時もずっと。
「流石は元所長、というべきなんでしょうか」
アイザックはそう言ってから[すみません、今は恵美博士でしたね]と訂正して、
「あの姿になってからもずっと考えていたのでしょうね」
と付け加えたその言葉はまさにカズが今抱いている感想そのものなのである。
――千歳は、どこかで自分が復帰できると考えていたのか?
そう思えるほどすんなりとこんな案が出てくるとは。コアユニットとサブプロセッサーの間には、直接の意思疎通は出来なくても感情の起伏のようなものは互いに感知できる。ゼロゼロが黙っていたというのは、つまり……。
――止めよう、それ以上は邪推だし、第一襟坂さんに意思があったとしても、それは、それこそ邪推だ。
カズはそんな事を考えながら作業を見守っていたのだ。
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