30.つまり遠隔で指揮を執る、と?-確かに盲点だった-
全52話予定です
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「つまり遠隔で指揮を執る、と?」
アイザックが尋ねる。その問いに、
「そう、遠隔で指示を出す。それにはコックピットと同等の設備が必要になると思う。状況が掴めないからね。そこで」
千歳の案というのは、コックピットを一つこしらえて何処かに設置する。そしてその動きをゼロゼロのサブプロセッサーとリンクさせてはどうか? というものだ。つまりは疑似パイロットである。
直接の操縦も遠隔で行い、補助としてゼロゼロが行えばどうか、というものだ。
それに似たシステムというのは、実際に航空機では一部採用されている。だが、レイドライバーに採用されなかったのはシステムが複雑、かつ機密事項だらけだから、という前提があったからだ。
千歳は、その部分に触れて[遠隔でも可能なのではないか]と言っているのである。
コントロール信号すべてをレイドライバーに接続し、例えば左を向きたければスティックを左に持って行く。それをダイレクトにコントロール系に流す。だから左を向けられる。
だが、実際の戦闘などの瞬時の判断が要求される場面ではもしかしたら操縦のリンクというのは難しいかも知れない。
だが、
「それって、場合によってはパイロットを搭載しなくても良くなる可能性がある?」
――子宮のリンクだって元をただせば、ただの信号伝達でしかない。なら、その信号伝達をワイアレス化してしまえば。
カズの言葉待ってから、
「あたしはコアユニットとして前線に出てきた。その経験からすれば、何もこの中にいる必要はないんじゃあないかって。ただ、それが実現したとしてもサブプロセッサーは載せないといけない。それはとても心苦しいものではあるんだけど」
千歳はゼロゼロの、恵美の事を思って言っているのだろう。たが、それを差し引いてもパイロットの無線化というのは、
「確かに盲点だった」
アイザックも頷く。
この方式ならパイロットは前線に居る必要はあっても、レイドライバーの内部にいる必要はなくなる。それが実現すれば確かに[無人機構想]と並んで画期的な事だ。
「無線の帯域ですが」
アイザックが話を出すと、
「あたしは衛星通信がベストではないか、と考えてるの。ジャミングにも強いし、複数の衛星を介して通信を行えば単一の無線局から出した電波よりも確実性が上がるし。衛星を複数使う危険性は、今の暗号化技術があればほぼ問題ないと思うんだ」
と一区切りつけて周りを見渡し、
「これは戦争なの。だから戦地に兵士が出向くのは仕方のない事。それでも一つのユニットに対して命を二つ使うのと、一つで済ますのとでは全然違う。サブプロセッサーのみんなには酷な話だとは思う。でも」
とまで出た言葉を、
「サブプロセッサーは人間としてカウントされない。それはサブプロセッサーになったものであれば皆が叩き込まれている話なんだよ。もちろん私も、ね」
とゼロゼロが続ける。
――二人とも……。そこまで考えていたんだな、なら。
「隊長機の事は少し置いておいて、オレはその方向性で研究を進めても良いと思っている。実際、一機失ったとしてパイロットとサブプロセッサーを同時に失うより、サブプロセッサーのみで済むのであれば。さらに撃破されたパイロットは無傷で別の機体に乗れるんだから」
千歳は、やはり千歳だ。それは無慈悲、という意味ではない。あの暗闇の箱の中で、自由の利かない躰で、そんな研究の行く末をずっと考えていたのだろう。
「分かりました。その方向で検討、試作をします。試作に当たってはゼロゼロの機体を使う、という流れでいいんですか?」
とのアイザックの問いに、
「差し当たっては。それで上手くいけばコントロール系も少しずつ組み込んでいって、最終的には一機体に仕上げましょう」
そう答えたカズは少しだけ心の靄が取れていた。
――これならお偉いさんも無人機にこだわらなくなるかもな。
カズはふとそんな事を考えていた。
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