3.回想-そろそろ乗せるつもりでいるんだけどね-
全52話予定です
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それ以上カズは表情を変えるような事はなかった。いつもの微笑みに戻り[そう言えばクリスチャンさんとは上手くいっていますか?]と気遣いをしてくれたのだ。
そしてカズの手術は成功に終わる。
これによってカズは、名目は男性であるが、レイドライバーの運用上は女性と同等の器官を有する事になったのである。
そこからのレイドライバー実験も順調に推移した。起動試験を経て運動制御などのテストをこなしていった。
しばらくはそんな状態が続いたが、サブプロセッサーを乗せるという試験をしないといけない段階になっても、カズは自分の機体にサブプロセッサーを置こうとしなかった。その頃にはレイリア、トリシャ、クリスの機体は出来上がっており、テストパイロットとしてクリスが本州の研究所でテストを行っていた。
そんな中でアイザックは、
「所長の機体にはサブプロセッサーを乗せないんですか」
と面と向かって聞いた記憶がある。その時のカズの困惑した表情は印象的だった。
「そろそろ乗せるつもりでいるんだけどね」
そう言って頭を掻いていた。
そこで耳にしたのが、恵美が自我のあるサブプロセッサー候補として名乗りを上げている、という話だった。
――元所長と現所長は結婚していたと聞く。多分それが影響しているんだろうな。
くらいには考えが回っていたし、では自分がカズの立場だったら? と考えると一理ある、と思ったのも事実だ。
だが、それと実験を前に進めるというのは、また別の話である。いくら身内が乗っているから大切にしたいとは言っても、それをずっと続けるわけにはいかないのも事実だ。
そんな中の恵美の立候補。そしてそれをカズが受け入れたという話が回って来るのにそう時間もかからなかった。
そして恵美は、人間という姿を捨ててゼロゼロという存在になったのである。
だが、千歳と違うのはその扱いである。千歳は完全に研究所から存在を抹消されて品番で呼ばれる存在になったのに対して、恵美は確かにコードネームで呼ばれるのだが、籍は研究所勤務という扱いになったのである。
そして恵美はゼロゼロというレイドライバーに乗っていながら研究を続けていたのだ。その脳にはとても頼りがいのあるコンピューターが設置されている。人間だった頃よりずっと演算も出来るようになった。
そしてカズはカズで自分の身体に細工をした器官に拒絶反応が出ないように、恵美の開発したクスリで症状を押さえながら現在まで至っているのである。
――――――――
アイザックは数値を見ながらそんな昔ばなしを思い出していた。それは単に昔を懐かしんでいた訳ではない。恵美の開発したクスリの重大な欠点の可能性を考えていたからである。
この、恵美の開発したクスリには、投与された人間の寿命を削る以外にもう一つの大きな特徴がある。それは拒絶反応を抑えるという効果が、ごく稀にではあるが発揮しない、つまり効果が出ない可能性があるという点だ。その現象は定期的にクスリを投与していてもは起こりうる副反応なのである。
それは、通常の薬剤であれば追加投与で収まるのだが、
「反応しない?」
追加で投与しても免疫系の異常が収まらないのである。
全52話予定です