27.愛してると声をかけるその相手というのは-この躰? それともあたし?-
全52話予定です
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「私は少し席を外します。外にいますので良かったら声をかけてください」
そう言うと看護師は病室の外へと出ていく。
この空間にはカズと千歳。おそらく[どんな事]があっても許されてしまう、そんな空間に二人だけでいるのだ。
「説明した通り、今のきみの身体は襟坂さんのを使用している。元の身体は、念のためにとってはあるけどもう元には戻れない、と思っていて。そこで、だ」
カズは自分に課された枷の説明をする。
今回、コアユニットの生命を守る為にカズが上層部と行った話し合い、それが[襟坂恵美として働く]というものだ。そしてクスリで拒絶反応を押さえつつ、不可能域まで達したら脳だけ取り出してサブプロセッサーになる。その段階で前線に送り出すのか、それともサブプロセッサーという存在でも研究所に残るのか、それを判断しなければならない。
その判断はカズに一任はされているものの、かなり厳しく公正な目で見られるのは間違いない。
それはまだ先の話だから少し横に置いておくとしても、
「千歳、きみの事を公の場では[襟坂さん]と呼ばなければならないんだ」
それが前提条件だから。
――それはそうだわ。しかしよくこの躰をあたしにくれたよね。もしかして。
「二人でいる時はあたしの名前を呼んでくれるの?」
千歳は疑問に思っている内容を伝えると、
「ああ、それは間違いない。だが、たとえそれが知り合いの看護師という第三者であっても、人がいるところではオレは[襟坂さん]と呼ばなければならないんだ。そして、二人きりでいる時、その時に、その、愛してると声をかけるその相手というのは」
「この躰? それともあたし?」
――意地悪だよね。でもそれが恵美の狙いだったりして。
千歳には、この状況は理解出来ているつもりでいる。開頭手術をして、自分はサブプロセッサーとして前線に出ている。そしてその躰は千歳の[入れ物]になった。
中身は千歳、でも躰は恵美。その相手に[愛してる]と言ってキスをする行為、それはどちらの人物に対して言っているのか。もちろん、冷静に考えれば脳みそ本体である千歳に言っているのは間違いないが、それでも姿形は紛れもない恵美なのだから。
「ああ、ハッキリと言っておくよ。オレはきみの結婚相手だ。だからいくら外見が襟坂さんだとしても、その言葉はすべてきみが受け取ってほしい。そして、そんな行為も」
それ以上は言葉にしなくても分かる。愛し合うその躰は紛れもない恵美なのだから。言葉でいくら繕ってもその事実だけは変わらない。
――それでもあたしは。
「いいよ、あたしの事助けてくれたんだもん。それくらいはさせてあげないと」
今現在、恵美はどう思っているのか。三者での会話が欲しいところだ。そしてそれは現在、可能な範囲にある。
カズは一度千歳をギュッと抱きしめてキスをしたあとに、
「それじゃあ、その本人を呼んでこれからの話をしよう」
そう言ったのである。
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