26.対話をしていた相手は襟坂さんだったんだよ-殴られそうな話もしておかないとね-
全52話予定です
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それは人間関係が主な話になる。まずは躰の持ち主である襟坂恵美だ。彼女はサブプロセッサーになって、ゼロゼロと呼ばれている件。
「きみと対話をしていた相手は襟坂さんだったんだよ」
そう告げた。
次に、自分は正規のパイロットとしての適性が無くなった件。そのいきさつも含めて話をした。
「つまり、ゼロゼロの機体のコアユニットは不要になったんだ」
そこでカズが上層部と掛け合って[襟坂恵美]として勤務できないか? という話に持って行った件。これにはいずれはサブプロセッサーになる可能性も話をした。
「本当はもっといろいろな話をしたいんだけどね。おいおい話すから、今は現実を受け入れてくれると有難いかな」
そして。
「きみには殴られそうな話もしておかないとね」
研究所でパイロットやサブプロセッサーからマスターと呼ばれている件と、
「第一世代のパイロットは、オレが全員隷属を求めたんだ。つまりは」
「ハーレムって事?」
「そう。だからオレはきみに対して謝らなければならないんだ。既婚しているというのに、そんな事になっていて、すまないと思っている」
カズは素直に謝った。
――確かに浮気は良くない。でもそれって。
「浮気してるんじゃあないんだよね?」
罵声よりまず疑問が先に出てくるのは頭が冷静な証拠なのか、それとも研究者としての資質がそうさせるのか。
それに対してカズは、
「言い訳がましく聞こえるけど、女性だけという部隊をまとめ上げるのに必要だったんだ。第一世代は今の世代の娘たちより規制が緩く出来てた。それはコアユニットという人質がいたからなんだけど」
その辺りの経緯も話して聞かせた。ゼロワンの時もゼロツーやゼロスリーの時も戦線にいたからその辺りは分かる話だ。
「なるほどね。で、カズはあたしに何がご希望?」
と返したその言葉に棘が無いか、と言われれば棘とも取れるし、疑問とも取れる、そんな曖昧な返しを千歳はしたのだ。
「正直、浮気のような関係性ではないと信じて欲しい、かな。浮気は対等な立場の人間がするもんさ」
――そうだよね、隷属って言ってたから。
「そこに特別な関係はないと?」
「もちろん、関係を持ったこともない」
ハッキリと返って来る。
千歳は少しだけ黙った。時間にして数十秒か。次には、
「いいよ、あたしがいない間に成果出してくれたんだもん。あたしがこうして生きているのがその証拠かな」
――今更どの口が浮気なんて言うものですか。
「すまない。理解してくれると助かる」
その顔にはいつものカズの表情とは違う彩が見える。
「でも、看護師さんを同席させたのはもしかして」
「いや、それは何というか、成り行きというか」
明らかに動揺している。それは演技なのか、それとも真意なのか。
「いいよ、それで」
千歳は笑って見せた。麻酔が効いていたからかも知れない、他人の身体だから動かしにくいのかも知れない。その表情はとてもぎこちないものだ。だが、確かに笑顔を見せた、それだけは紛れもない事実である。
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