25.三人だけだよ襟坂さん-えっ! これかあたし!?-
全52話予定です
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千歳は状況がまだ呑み込めていない。そこで、とりあえず周りを見回してみた。すると、
「カズ!」
と声をかける。思わず抱き着きたくなる衝動に駆られるが、体が重い。とにかく鉛のように重いのだ。
次に見えたのは看護師がいるという事だ。どうやらここは個室のようである。そしてこの部屋にいるのは、
「三人だけだよ襟坂さん」
――えっ? 何を言って……。
そう思っている千歳にカズは手鏡を渡した。
「えっ! これかあたし!?」
思わずそう声が出る。それはそうだ、鏡の中には、忘れもしない、親友とも呼べる襟坂恵美の姿があったのだから。
「そう、ここには三人しかいない。まずは状況説明をしたいんだけど、その前に」
そう言ってカズは看護師を前に立たせた。
――?
疑問符の取れないその千歳に、
「申し訳ありませんでした」
と看護師は深々と頭を下げたのである。
「どういう……」
という言葉の続きに、
「あの日、私は博士の使っていた実験装置のバキュームを止める事を偶然にも知ってしまったのです。そして、それを知ったクリスチャンさんに固く口留めされていたのです。[もしも喋ればお前を生体標本にするぞ]彼はそう言って私を見下すような目で見たのです。本当であれば、貴方が実験室に向かわれる際に声をかけたかった。でも、でも……」
看護師は震えている。どうやら看護師の話では、銃を突き付けられてわざわざ生体標本の写真を見せられ脅されたのだという。典型的な脅しのパターンだ。[本人に言えばどうなるか]というやつである。
「じゃあ、何故今それを?」
と先ほどから事情の分からない千歳に、
「クリスチャンさんはオレが殺したんだ」
と経緯をかいつまんで説明した。盗聴器が仕掛けられていた事も、バキュームを止めた事も全部。
「だから彼女はきみに謝ることが出来たんだ。本当ならオレときみの二人きりにしてもらおうと思ったんだけどね」
そう言ってカズが受け取った手紙の事を話した。そこには謝罪の言葉と、もしも本人に謝ることが出来たなら、まず真っ先に謝らせて欲しい旨の事も含めて。
「だから時間を作ったんだ。幸い、彼女は麻酔医でもありながら看護師だ。それにオレは医師だ。それが術後の立ち合いにちょうど良かったんだよ」
――術後?
まだ分からないでいる千歳に、
「そうだね、一つずつ説明していこうか」
そう言って今まで起きた出来事をカズは説明し始めた。
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