22.そっちは慎重に、あとでこっちの三番と接続だ-よし、第一段階は良い感じだ-
全52話予定です
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「そっちは慎重に、あとでこっちの三番と接続だ」
そんな声が飛び交う。
コアユニットは既に麻酔で眠った状態なのが脳波で確認されている。
まずは[入れ物]からである。首当たりの部位を局所的に作業可能温度まで上昇させる。この状態はあまり長くは維持できない。それはその部位から壊死が始まるからである。心臓が動いていないのだから至極当然と言えばそうなるのだが。その壊死が起きない程度の温度まで上げて神経や血管の[つなぎ目]と呼べるコネクターを取り付けていく。
だが流石はこの医師たちである。それもテキパキとこなして直ぐにまた温度を下げて凍結させる。解凍した、と言っても触っても指がくっつかない程度の温度までである。それ以上温度を上げると再冷凍した時に組織が壊れてしまう。だからそれが起き得ないギリギリを攻めて取り付けを行った。
――よし、第一段階は良い感じだ。
医師でもあるカズにはそう見えるのである。実際、今この部屋の中には医師が三名と、麻酔医兼看護師が一名、それにカズとアイザックの六名だけである。この六名が心臓部、と言っていい布陣なのだ。もちろんこの研究所には他にも医師はいるし、看護師もいる。だが、最重要機密といっても過言ではないこの現実に触れられるのはせいぜいがこの程度の数なのだ。
ちなみにカズは執刀医の中には含まれていない。それは医師としては良い腕を持ってはいるものの、脳を弄るとなるとそこまでの経験が無いからである。
それに、そもそもカズの主な仕事は責任を取るという点である。指示し、その結果生まれたものに対して責任を取る。それが最高責任者たる研究所所長の主な仕事なのだ。
そうしている間にも次の作業へと移っていく。コアユニットへの処置だ。コアユニットは、中身は四肢のない人間である。当然呼吸もしていれば、心臓だって動いている。その状態で脳だけを取り出して、末端部にコネクターを取りつけ、一時的にサブプロセッサー用の生命維持装置へとつなぐ。これも相当難しい作業ではあるのだが、流石はこれだけのサブプロセッサーを作った人間たち、というべきだろう、実に手慣れている。それこそ開頭から摘出、端子つけまでをササっと作業をしてしまう。そして生命維持装置へと移される。この際に脳本体は薄い膜で覆って収納される。それは先々の事を考えての話である。
クスリが効かなくなったら、今度はサブプロセッサーになるのだ。その際の手術をより簡素化、かつ確実に行う為の処置である。
「所長、このコアユニットの躰はどうしましょうか?」
医師からそう問われたので、
「念の為冷凍保存してください」
と指示を出す。
――まぁ、取り出された時点でもう元の姿には戻らないのは分かるんだけど、一応ね。
今回、脳と躰の接続に端子を使用している。これは、簡単に外す事が可能という裏返しでもある。そう、クスリで免疫を押さえられなくなったら、今度はサブプロセッサーになるのだから。
今は[襟坂恵美]として、次はサブプロセッサーとしての生を得られた、それだけでも良しとしなければ話は進まない。だからカズはこの、現在考えうる方法の中で一番最善と思える決断をしたのだ。
「では脳の取り付けに入ります」
という言葉と共に[入れ物]の方の温度を上げていく。解凍が終わりかけたところで心臓に電気ショックを与えて賦活させる。
次に、脈は戻ったかどうかのところで、取り出した脳を頭蓋に収納しつつもコネクターを嵌める。
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