13.どうしてそこまでしてくれるの?-本当に、それでいいんだね?-
全52話予定です
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カズが横になっているベッドの傍に恵美が運ばれてきた。
こうしてみるととても人間には見えない。四十センチ四方の半球体状の箱に、生命維持装置である台座が付いている。例えて言うならば、昔のスペースものに出てくるアレによく似ている。もちろん、何もしないまま台座から取り外せば、ものの数分で死に至る。恵美はそういう存在に、自分から志願してそうなったのである。
「おはよう、よく眠れた?」
――三日、だもんね。意識が戻らなかったらと思うとゾッとするよ。
外部スピーカーに接続しているのだろう、極めて自然な声で語りかけてくる。
「ああ、今回は心配させちゃったね」
と言ったあと、
「ありがとう、とまずは感謝を。きみの提案がなければオレは今頃我を見失っていたかもしれない」
事実、アイザックから[[子供]を摘出した]と聞いた時、瞬間的に火がついたかのように彼に対して怒鳴ったのだから。
そんなカズに対して、
「ううん、こちらこそゴメンね。本来であれば所長であるきみの意見を聞かないといけないのに勝手に進めちゃって」
と謝られる。
カズはそこからの話の持っていき方に苦慮していた。そんな前に進まない会話を肌で感じて気が付いたのだろう、
「私の躰、使ってくれないかな。そして、研究所では[襟坂恵美]として働いてもらえれば一応の筋は通ると思うんだけど」
恵美からそう切り出した。
「どうしてそこまでしてくれるの?」
カズから、ずいぶん昔の、学生時代に尋ねられた質問をもう一度投げかけられた。
今日のカズは少しだけ言葉が先に出るようだ。いつもは仕舞っておくべきものも口を衝いて出て来る。それはこれからの事を考えるうえで必要なプロセスともいえる。恵美の真意が知りたいのだろう。
「どうして、かな。自分でも[これっ]っていうのはないんだけど」
と前置いたうえで、
「私の躰に千歳ちゃんが入って、表面上は[恵美]って呼んでもらえる。多分、これだけの時間を別々に過ごしてしまったんだ、好きだよとか、その……キスとか、その、それ以上の事もするんだと思う。だけどね、それは私の躰に対して言ってくれて、してくれてるんだ」
区切り区切りに話をする。カズから異論が出ないのを確認しているようだ。
「もちろん、私の躰は千歳ちゃんにあげるって決めてるし、実際に千歳ちゃんが使い始めたらどんな風に使ってもらってもいいんだ。だけど、ね、たとえ脳は千歳ちゃんになっても、きみが[好き]って言ってくれるのは、キスを、その、それ以上の事をしてくれるのは私の躰なんだ。それがどんな意味を示しているか……」
――卑怯だよね、冒涜と言ってもいい。罵ってくれて、いいよ……。
恵美は泣いていた。それはインターフェース越しにも伝わっている。
カズは、
「恵美」
と一言いうと機械の姿の恵美の筐体にキスをして抱きしめた。それは恵美には部屋のカメラ越しに見えている。
「カズ君……」
それ以上言葉にならない。だが、たとえ機械の姿になってもカズに抱きしめて、キスをして貰ったという事実は変わらない真実だ。
「本当に、それでいいんだね?」
カズから出た最終の確認。それは[躰を自由に使っていいのか]という意味を含んでいるのは、あえて言われなくとも分かる。
そしてその答えは、
「うん、好きにしてくれていいよ」
――千歳ちゃんの為、とは言っても本当は自分の為でもあるんだ。本当に自分でも嫌になるよ。でも、それでも、ね……。
ラグなしでそう答えたのである。
全52話予定です




