12.襟坂さんが、提案?-彼女と二人で話がしたいんですが、いいですか?-
全52話予定です
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「所長が今怒ったのは、前所長である現在のゼロゼロのコアユニットの命を心配しての事だと思います。恵美博士との話の中でもそれは出てきました。実際、我々が何も手を打たずにこのまま行けば[廃棄処分]の可能性が高い、と。ですが、そこで恵美博士から提案があったのです」
アイザックはそう言って聞かせた。
――襟坂さんが、提案?
それがまず信じられなかった。恵美は可能性は提示するにしても提案はして来ないと思っていたからである。その恵美が敢えて提案をしたというのだ。
現に、
「襟坂博士が、提案ですか?」
思わず声が出る。その声にアイザックは、
「そうです。彼女からの提案、それは現在冷凍保存されている自分の身体を千歳博士の為に使えないだろうか、というものです。確かにこれは所長の身体に埋め込んだ[子供]と同様の、免疫の問題を孕んでいます。クスリを投与しながら生活していてもいずれはリミットが来る可能性が高い。それならば」
アイザックはそう言うと、もしも薬剤耐性を起こした先の話をしたのだ。
それは千歳もサブプロセッサーとして脳だけ摘出し、生体コンピューターを埋め込んでみてはどうか、というものだった。
それまでは恵美の躰を使用して、もしも手に負えなくなったら脳だけの存在になる。そうすればそこから更なる延命が可能なのではないか。もちろんそれまでクスリを使用するのだから長生きは望むべくもない。しかし、現況からの生存の可能性が出てくるのではないか。
「それに、この手を使用すれば政府や軍上層部と折り合いが付けそうではないか、と」
確かに、一度失った存在が研究者として戻ってくれば、上層部にしてみればそれは歓迎すべき内容だろう。
しかしか、ここで一点。
「問題は、一度コアユニットになった存在を政府が認めるか、という点です。しかし、これにも解決策がない訳ではありません」
アイザックの言った解決策、それは恵美の躰を使用している間は恵美として振舞ってみてはどうか、というものである。実際に恵美には研究所に籍がある。そこで恵美として働いて、もしもサブプロセッサーにならなければならなくなったら、その時までの研究成果を盾に籍を認めさせてはどうか、というのだ。
――そこまで考えてくれていたんだな。
確かにこれなら実現可能なプランに見える。カズは前述の通り、同盟連合内でもだいぶ発言権が出てきた。それでなくとも上層部はカズの事を信頼しているはず、であると思う。そのカズが[どうでしょうか]と言ってきたら向こうはどう対応するか。おそらく直ぐに[ダメだ]とは言わないであろうと想像がつく。
だが、これにはまだ解決すべき事項もある。実際に実績を上げないといけないという点だ。もしも目立った実績がなければサブプロセッサーになった時点で戦場のコマとして使われるのは、使わなければならなくなるのは目に見えている。
――でも、それは心配ないかな。
カズがそう思う理由。それはカズの前に所長をしていた、という実績である。実際、千歳が功績を上げた研究というのも数多く存在する。それらを引き合いに出せば、今のカズなら上層部に対して[うん]と首を縦に振らせる事だって出来るだろう。
「そうです、ね。それが一番かもしれません。オレだけならこの答えは導き出せなかった」
とカズが言えば、
「私も同意見です。恵美博士の機転、というべきでしょう」
と続いた。
そこで、
「彼女と二人で話がしたいんですが、いいですか?」
カズはそう続けたのだ。
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