11.「ここは?」-何故! そんな事を!!-
全52話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
「ここは?」
カズは現実世界に戻っていた。ウトウトしていたアイザックがそれに気が付いて、
「あぁ、所長。やっと目を覚まされたのですね」
そう言って手を握る。カズは一瞬だけその手を反射的に避けようとしてしまった。先ほどの死人たちがフラッシュバックしたからだ。
だが、それもほんの一瞬で姿を消し、
「そうか、アイザックさんと話をしているうちに倒れて……」
そう言いながら手を握り返す。
当たり前だが、倒れたあとのそれ以上の記憶がない。
アイザックは事の顛末を一つずつ端折らずに言って聞かせた。突然倒れた事や、クスリが効かなかった事、ゼロゼロこと恵美がいま研究所にいる事、三日は寝ていた事。
そして、
「所長の体内にあった[子供]を摘出しました」
そうアイザックは締めくくったのだ。
――それ、は……!!
「何故! そんな事を!!」
自分でもこんな声で怒鳴ったのはいつぶりだろうか。少なくとも十年はくだらないだろう。気が付けばアイザックにそう怒鳴りつけていたのだ。
それでもアイザックは身じろぎ一つせずに、
「それが貴方の命を救う唯一の手段だったからです。いいですか、よく考えてください、貴方の命は既に貴方だけのものではないんですよ、所長」
と言われてハッと我に返る。直ぐに[すみませんでした]と詫びて、
「それで摘出したというのは」
冷静になってカズがアイザックに問うと、
「クスリに耐性が出来たからです」
と告げられた。
カズは頭がよく回る。それは外交的なものも含めて、である。自分を俯瞰で見られると言ってもいい。だから一瞬で現実に戻れたのだから。
「彼女がそれを?」
カズはそう聞く。それはそうだろう、恵美が今いるという事実を鑑みれば、彼女が助言したと考えるのが妥当だ。だが、カズも恵美との付き合いは長い。果たしてそんな選択肢をすぐに提示するだろうか?
それにアイザックだ。彼はハッキリとものを言う人間であると同時に責任の取り方というものをよく知っている人間だ。
だから、現にこうやって聞いても、
「私が最終判断を下しました」
と返って来るのがカズには言う前に分かるのである。
――これは、それ以上言っても水かけ論だな。
そう考えたカズは質問の仕方を変えた。
「こうするメリットは?」
アイザックだって何も無下に[子供]の摘出という手段を選んだとは考えにくい。それは恵美にしても同様である。何か策があっての事なのだろう、と。まぁ、実際は半分希望的観測も含まれるのだが。
「実際に生命の危機にあったのは事実です。一時は初期ロットのクスリを使用するのも考えましたが、耐性という問題を考えればそれは不適と判断したんです」
確かに、初期ロットを使用すれば収まるのだろう。そこで目覚めた自分に[これからどうするか]と聞かれれば、その時のカズなら迷わずに[このクスリでしのぐ]と即答していただろう。
だか、現実的にそうさせなかった理由というのがあるはずだ。何も無策でただ単に摘出というオプションを取ったとは考えにくいのだ。
――それを知りたいんだよ。
そんなカズの顔色を見たのだろう。アイザックが、
「所長、折り入ってお話があるのですが」
そう切り出してきたのだ。
全52話予定です




