教育ゲーム GENZITSU
※ネタみたいな短編です
「GENZITSUってゲームプレイした?」
海の上にあるテラス席で天使の友達が言った。
人間界生態系部門に、つい最近所属し始めたやつだ。
「俺はちょっと前にしたよ」
確か100年くらい前にリリースされたシリアルゲーム。
天界で不祥事が多発して、神議会の決定で多くの部署が解体されたのがきっかけで、作られた教育ゲームだったはずだ。
天界、魔界、冥界の3界にとって、人間界は経済を回すために欠かせない産業の一つだ。
"人間界を経験してもっと理解を深めよう!"
そんなキャッチコピーで最近一般向けに最リリースされたのは聞いていた。
「それどうなの?」
悪魔の友達が退屈そうに聞いた。
「クソゲー中のクソゲーだよ!それが逆に気になるって周りで流行ってるんだよね!」
天使が人間界をクソゲーと例えるなんて、それでいいのか・・・
「でもそのおかげで同僚は昇進出来たって喜んでたよ。
冥府の門番してたやつなんだけどさ。まだ死ぬには早いのにやってくる霊魂が結構多くて、その相談に乗るようになったんだって。
じゃあ人間界の一部生産能力が上がった報告があったらしいんだよね」
その同僚は元々、彷徨ってきた霊魂を虫でも追い払うように返してた。
GENZITSUをプレイしてみて、人間の話を聞こうと思えるようになったらしいーー
あの時、相談乗ってくれたおかげで人生を変えることが出来ました!と、感謝される喜びを知った同僚は、昇進しても未だに門番を続けてる。
「まじで?俺もプレイしてみようかな」
万年窓際席の悪魔が話に食いついた。
「お前、自分のこと職業的悪魔って言ってたじゃん。もう天使に転職すれば?上司に頼んで推薦できるか聞いてみようか?」
確かこの天使の上司は、それなりに有名な大天使だったはず。
不可能な話ではなさそうに思える。
「考えたことはあるんだけどさー。俺、騙すとか唆すとか向いてないし。
でも俺みたいな悪魔が一人くらいいてもいいと思うんだよね」
嘘のつけない正直な悪魔。
悪魔として育ち、教育を受けたけど、向いてないからと他に転職する人も多いこのご時世に、こいつは頑なにそれをしない。
全く理解不能な友達だ。
「まぁ、やってみたら?
そろそろお前、誕生日だろ?プレゼントしてやるよ」
それなりに値が張るソフトだけど、人間界を模して発行された、3界では特に使い道のない紙幣の貯蓄は十分にある。
「お、まじ? やるわ! 今すぐ買いに行こうぜ!」
悪魔の友達は真っ黒な羽を伸ばして立ち上がる。
確かゲームをプレイする前に、やたら大きな警告が出てたなぁ。
俺も立ち上がって、それを思い出していた。
確かこんな感じだったはずだ。
ようこそ、プレイヤー様。
ここは同時接続数80億を超える超人気フルダイブ型VRMMORPG「GENZITSU」です。
広大なオープンフィールドと高すぎるほどの自由度を誇るこの「GENZITSU」の説明をさせていただきたいと思います。
まずリアルさを追求するため、スタート地点はランダムとなっております。
また国籍、人種、性別、アバター、初期ステータスも同様、ランダムとなっておりお選びいただけません。
このゲームは自由にお遊びいただくために、メインクエストは存在しておりません。
しかし、ランダムスタート地点においての生まれや環境によっては時期的、偶発的に起こるミッションは存在します。
挑戦するかどうかはプレイヤー様次第です。
「GENZITSU」には数多くのジョブをご用意させていただきました。
そこに縛りはなく数種類のジョブを兼業していただくことも可能であり、ゲームバランスを保つための特定下以外ではどのような場面であってもスキルの行使ができます。
特定条件を満たせば新しいジョブを作っていただくことも可能です。
ステータス能力値の上限はプレイヤー様によって異なります。
HPが0になると「死亡」となり、蘇生は実装されておりません。また、今後も実装される予定はありません。
「GENZITSU」では物理的な戦闘ダメージ以外でもスタミナ不足やデバフによるHP減少が起こります。
そのため食事、睡眠などの自己管理能力もステータス値に表示されるようになります。
HPが0、つまり死亡になるとゲームオーバーとなり、強制的にログアウトと共に「GENZITSU」のアンインストールが実行されます。
※ゲームバランスを調整するためにGMによる強制イベントが起こる場合があります。ご了承ください。
『警告』
このゲームは一度ログインするとゲームクリアするか、ゲームオーバーになるまでログアウトできません。
本当にゲームをスタートしますか?
→Yes →No
それでは一度きりの人生を「GENZITSU」で心ゆくまでお楽しみください。
ゲームスタッフ一同、プレイヤー様のご武運をお祈りいたしております。
あー思い出しただけで、うんざりする。
だから、もう俺は2度とプレイしようと思わないーーー
悪魔の友達の反応が楽しみだ。
俺は青白い火を召喚してそれに乗り、遠くなった白と黒の羽を追うことにした。