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第7話 元暗黒騎士はチートスキルを披露する

「ダークマター? なにそれ。それがあなたのスキルなの?」


「ああ。このスキルがあれば、たとえ死の大地だろうと死にはしないだろう」


「自信があるようだけど一体どんなスキルなの」


「言っただろ。未知の物質を生み出すスキルだって。この世界には存在しないモノを作り出すスキルさ」


「なにそれ。この世界にないものって、一体どんなものよ」


 まぁ当然そんな反応になるよな。

 説明するよりも、見せたほうが早いか。


「スキル【ダークマター】発動!」


 この世界には存在しないものを生み出す俺のスキル。

 これはチートスキルと言っても差し支えない。

 生み出すものは自由自在。ただし俺の想像力に依存している。


 逆に言えば、俺の想像力さえあれば生み出すものは何でもいい。


「よし、上手くいったみたいだ」


「これは……扉? こんなものがこの世に存在しないものなの?」


「ああ。俺の【ダークマター】が成功したなら、この扉は間違いなくこの世界に存在しない扉だ」


「一体どんなモノを生み出したのよ。見るからに安っぽい、玩具みたいな扉よ」


 そう。アリアスの言う通り、俺が生成した扉はシンプルなデザインの扉だ。

 だがこれこそ、俺の想像力の賜物だ。

 正確に言うと、前世の知識の賜物だ。


「この扉は、どこへでも転移出来る魔法の扉だ」


「なんですって? 冗談でしょう?」


 冗談のように聞こえるだろう。

 だが俺が前世で見たアニメで、こんな道具が登場していたのだ。

 国民的アニメで子供ならみんな知ってる、あのアニメだ。


「これならすぐに死の大地へと行けるはずだ」


「信じられないわね……」


「扉を開ければわかるはずだ。開けるぞ」


「あ、ちょっと待ちなさい!」


 アリアスの静止を待たず、俺は扉を開けた。

 その瞬間、俺は後悔した。扉の向こうからものすごい熱気が吹き込んできたのだ。


「あっつ!」


「バカね、死の大地なんて呼ばれてるような土地にいきなり転移しようとするなんて自殺行為だわ」


「た、確かにそうだな。今のは俺が考えなしだったかもしれない」


 死ぬかと思った。

 ものすごい熱気だったぞ。

 ほんの一瞬しか扉を開けてないのに、頭がクラクラする。


「だがこれで分かっただろ。俺の【ダークマター】は本物だってことがな」


「ええ。確かに凄いスキルね……」


 アリアスは感心するように魔法の扉を観察している。


「あなたのスキルは何でも好きなものを生み出せるのね」


「少し違うな。俺の想像の範囲で、この世界に存在しないものを生み出すスキルだ」


「じゃあこの扉はこの世界には存在していないモノってことかしら」


「【ダークマター】で生成出来たってことは、そうなるな」


 いくら異世界といえど、無条件で転移出来る扉は存在してなかったようだ。

 俺の読んでたラノベだと、転移の魔法陣とかよく出てきたのだが。


「やっぱりあなたって凄いのね……流石ユグドラの黒き剣だわ」


「その呼び方はやめてくれ。なんだか恥ずかしい」


「あら、照れてるの? 案外かわいいところもあるのね!」


「人に褒められるのは慣れてないんだ。暗黒騎士をしていた時は、誰も褒めてくれなかったし」


 みんな俺に対してやけに冷たかったんだよなぁ。

 チート能力を見せつけてたわけじゃないんだが。


「このスキルだって暗黒騎士の頃は使用を控えていたんだ」


「え、どうして? こんなに便利なスキルなら、いくらでも活用できそうじゃない」


「便利すぎる。それがこのスキルの弱点なんだ」


「便利すぎるのが弱点……? 言ってることがわからないわ」


 こればかりは経験してみないと分からないだろう。

 俺も最初はチートスキルをゲットしてラッキーと思ったものだ。

 だがこのスキルは異世界で普通に生活すると、目立ちすぎる。


「例えば一粒食べると、そこから一ヶ月は何も食べなくてもいいほど栄養満点の食材を生成したとしよう」


「そんなモノまで生成出来るの!? なんでもありじゃない!」


「話を聞いてくれ。そんなモノを食べれば、一ヶ月満腹のまま過ごすことになる」


「いいじゃない。食費もかからなくて素晴らしいわ」


「いや、それがそうでもなかったんだ」


 俺は騎士団時代の出来事を思い出す。

 アリアスに言ったような栄養満点の食材を生成した俺は、健康そのものになり、一ヶ月何も食べずに活動出来るようになった。


「訓練が終わっても、宿舎に帰っても、俺は一切食事を取らなかった。それが周囲には不気味に思われたんだ」


「確かに怪しまれるかもしれないわね」


「他の騎士たちが俺を不審に思うあの眼差し! 影でコソコソ食料を盗み食いしてるんじゃないかと噂が立った! 騎士団長に呼び出されて、最近宿舎の食料が減っているがお前の仕業かと詰められた!」


 俺はむしろ食材を守ってやった側なのに酷い話だ。


「似たような経験もあって、俺は人前でこのスキルを使うのをやめたんだ」


「なんだか、あの有名なユグドラの黒い剣にも悲しい過去があったのね……」


「それにもう一つ、このスキルにはデメリットがある」


「デメリット……。そうよね、こんなとてつもないスキルは聞いたことがないわ。きっととてつもなく重いデメリットがあるんでしょうね……」


「ああ。これは俺が暗黒騎士と呼ばれる理由に直結している」


「暗黒騎士と呼ばれる理由……まさか、悪魔と契約をするなんて話じゃないでしょうね!?」


 そんなおとぎ話みたいなデメリットじゃない。

 もっとリアルな、俺としては結構たいへんなデメリットだ。


「使用後は一定期間、精神が不安定になる」


「そ、それは狂気に染まるとか、憎しみが募るとか……呪いの類なの?」


「いや違う……。ものすごく、気分が落ち込むんだ……。精神的ストレスですごく疲れる」


「え。そ、それだけ?」


「それだけってなんだ。かなり重いデメリットなんだぞ。おかげで思い出したくもない騎士団時代の愚痴まで吐いてしまった」


「なるほど、さっきの宿舎の食料泥棒の話はそれが原因だったのね」


 この状態になるとやる気が出ない。どこか倦怠感がある。

 脳みそがスポイルされているような感覚になる。

 前世で会社をクビにされた時みたいな、精神的に参っている時の感覚に近い。


「使用後は気分の浮き沈みが激しくなるから、なおさら人前で使えないだろ?」


「確かに日常生活で困るデメリットのような……能力の対価にしては安すぎるような……なんとも言えないわね」


「この状態が数時間続く……。まるで自分が自分でなくなったみたいな虚脱感だ……」


「やっぱりデメリットとして軽すぎじゃないかしら……」


 他人から見たらそう見えるだろう。

 正直言うと、俺もチートスキルの代償にしては安いと思う。

 だがこの気分はかなりキツイのも本当だ。


 あーだるい。


「こんなデメリットもあって、スキルを使った日は周囲に不気味がられたよ。そしていつの間にか暗黒騎士って称号が与えられてたんだ……」


「【ダークマター】ってスキルが由来なんじゃなくて、気分が暗いから暗黒騎士になったの? なんだかおかしいわね」


「ユグドラの騎士は全員体育会系だから、俺みたいな性格のやつは不気味に見えたんだろうな~……」


「タイイクカイケイ?」


「ガサツで強気な連中。おまけに任務や信仰に対して、異常なまでに執着してる。俺とは真逆過ぎたんだな。あ、だから嫌われてたのか……」


 なるほどな。

 元スポーツマン多めのベンチャー企業に、理系陰キャが入ったようなものか。

 あれ、ますます前世の職場と被って見えるぞ。

 俺の職場選び、下手すぎ?


「と、とりあえず気分が落ち着いたらこの扉をどうするか決めましょう! 今は本調子じゃないみたいだし、ね?」


「はは、ありがとう。気を使われるのって辛いな」


「ちょ、ちょっと! 元気出しなさいよ! さっきまでのカッコいい雰囲気はどこに行ったのよ! こんなの私の憧れた暗黒騎士、ユグドラの黒き剣じゃない~!」

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