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第56話 元暗黒騎士は祠を見つける

「村長さま、変なの見つけた」


 それはある日、突然フェリスが言ってきた。

 なんでも、飛空挺で死の大地を探索していたところ、怪しい洞窟を見つけたらしい。


 いや、この地方って全てが怪しいじゃん。

 逆に怪しくない場所、ないじゃん。


 そう思っていたのだが、どうやら普通のことではない様子だ。


「洞窟の中を探検してみた。そうしたら、一番奥に小さな祭壇みたいなものがあった」


「祭壇? ユグドラ教とかそういう宗教的なモノか?」


「わからない。でも、ユグドラ王国やガルドギア帝国では見たことない雰囲気なの。どちらかというと、極東の国の文化に近い……かも? 私も詳しくないけど」


「極東の雰囲気ねぇ……」


 極東という単語を聞くと、前世の日本を思い出す。

 異世界物のアニメでも、極東出身のキャラは和風のキャラデザが多い。

 この世界でも、極東=和風、日本みたいな国なのだろうか。


「百聞は一見にしかずだな。俺もその祭壇とやらを見てみることにしよう」


「でも飛空挺は今、別件で使ってる。ここから結構遠いの」


「大丈夫、車があるから。俺の特製魔導SUVで、すぐ行けるさ」


「一回見たことある……! あの馬が無い馬車みたいな乗り物! 乗ってみたいの」


「分かった。飛空挺と違って、大勢は乗れないからな。俺とフェリス、アリアスとローレシアで行くぞ」


「わあ、贅沢なメンバー」


「怪しいことろに行くんだ。念の為、二人にもついてきてもらった方が良さそうだろう」


「うん、美少女フルメンバー。村長の下心が透けて見えるの」


「そういうつもりで選んだわけじゃないんだけどな……」


 というか、その言い方だとフェリスは自分も美少女と言ってることにならないか?

 いや間違いなく美少女ではあるのだが。

 この猫耳娘、意外としたたかかもしれない。


「それじゃあ、準備が出来たら出発しよう」


 ◆◆◆


「フェリスさん、祭壇ってどんなものだったんですか?」


 元聖女のローレシアは、宗教に詳しい。

 祭壇と聞いてまず、彼女について来てもらうのを決めた。

 もしかしたら、ユグドラ教と関係あるかもしれないからな。


「えーと、木製だった気がする」


「それだけでは、なんとも言えませんね。もう少し詳しく思い出せませんか?」


「ううん、違った。石造だったかもしれないの。うん、たぶんそう」


「どっちなんだ……? ローレシア、祭壇は普通、木製と石造、どっちが多いんだろう」


「場所や宗教によりけりですね。ユグドラ教だと、建物の中にある物は木製、そうで無い場合は石造が多かったと思います」


「今回は洞窟の中にあるって話だったよな。ということは、木製の祭壇ってことになるのか」


 最初にフェリスが言及したのも、木製だったはずだ。


「うーん、分からない。木製だったと言われれば、そうだった気もするの。でも石造だった気もする……にゃにゃにゃ?」


 何その可愛い語尾。

 あれえ? みたいなニュアンスで使ってるのだろうか。


「行って、見れば分かるわよ。なにせこっちには、天下の聖女様がいるんですもの」


 なぜか自分の事のように、誇らしげな顔をするアリアス。

 妻二人が仲良さそうで、俺は安心だよ。

 どうしてアリアスがドヤ顔なのか、理由は分からんままだが。


「ところでダーリン、どうして私も連れてきたの? 私、宗教の話とか分からないわよ? ユグドラ教徒でもないし」


「アリアスには【女神の加護】があるだろ。祭壇から特殊な魔法が発生しているかもしれないだろ。加護持ちのアリアスがいた方が安全だ。ローレシアも加護持ちだけど、一人より二人いた方が安心するからな」


「なるほど、呪いとかの可能性を考えてるのね。確かに、こんな辺鄙な場所に、怪しい祭壇なんて、罠としか思えないわね」


「誰がどんな目的で作ったのか、分からないからな。万が一ってこともある。一応警戒はしておいてくれ」


「任せなさい! ダーリンにもしものことがあったら、私が助けてあげる!」


 頼りにしてるぞ、アリアス。

 俺は物理防御には自信があるけど、状態異常は絶対安全とまでは言えないからなぁ。

 現に風帝の幻術は食らった経験がある。毒や呪い程度で死ぬつもりはないが、警戒しない理由にはならない。


「それにしても、この車は便利。みんな馬車なんて捨てて、これで移動するべきだと思うの」


「獣人は身体能力高いんだから、別にいらないんじゃないか?」


「走ったら疲れる。長距離はきつい。だからこれ、欲しい。お願い村長さま、ちょうだい?」


「うーん、別に村のみんなで使うのは構わないけど、一台しかないからな……」


「そこはダーリンのスキルの欠点よね。便利なモノでも、ひとつしか生み出せないのはちょっと不便よね」


「最初は他の住民のこととか、考えてなかったからなぁ。俺とアリアスの二人しかいなかったしな」


「今は数十人もいますもんね」


「もしかしたら、もっと増えるかも。この前、飛空挺で故郷に帰ったら、村長のことを知って移住希望してた獣人が何人かいたの」


「マジか……ありがたいけど、村人の家はスキルで生成しちゃったし、住むところが無いぞ」


「しばらく、移住は受け入れられないでしょうね。でも、亜人の味方と言われてるレクスが村長をしていると聞くと、ここに住みたいと思う亜人は他にもいるかもしれませんよ」


 そうなると、今よりも村を大きくする必要があるな。

 どちらにせよ、今は村のインフラすらろくに整っていない状態だ。

 最低限、今いる村民が暮らせるリソースしかない。スキルで生成するのも、一度きりだしな。

 自分達で村を大きくしていくなら、尚更インフラ作りに力を入れないといけない。


 まずは塩、水だな。

 次に工房とか、他にも色々必要だ。

 畑の拡張も、そのうちしなくちゃいけない。


 やることが多いな。

 だが、それもスローライフの醍醐味と言えるのかもしれない。


「着いたよ。ここがその洞窟」


「普通の洞窟にしか見えないが……」


「入ってみれば分かる。行こう」


 フェリスの報告によると、魔物は潜んでいないらしいが、念の為短剣を腰から抜いておく。

 洞窟の中はロングソードは取り回しが悪い。残念ながら、我が愛剣クロノグラムの出番は無さそうだ。


「しかし暗いな。よくフェリスは明かりも無しに進めたな」


「夜目がきいてるから。鼻もいいし、これくらいの暗さなら平気なの」


「これくらいって……全く見えないわよ」


「私もです……あ、だ、誰ですか!? さ、触られたんですがっ!?」


 今、俺の手に柔らかい感触が当たった気がしたが、ローレシアだったか。

 果たしてこれは、胸か尻か。暗くて見えないのが残念だ。

 いや、見えない状態も悪くはない。こうして触った人が誰かバレないのだから。


 事故だからセーフ。

 バレてないからセーフ。

 そもそも夫婦だから、セクハラじゃない。


 なぜ俺は言い訳をしてるのだろう?


 ちなみにマシュマロみたいな感触だった。


「もう、面倒だわ。スモールライト!」


「おお、明かりの魔法だ。光度調整も完璧。助かるよアリアス」


「別にこれくらい、初歩中の初歩なんだけれど……ダーリンに褒められたから、まぁいいわ」


 初歩魔法でも、出力を調整するのはセンスがいるからな。

 俺の場合、同じ魔法を使ったら閃光弾みたいな明かりが発生してしまう。

 俺の魔法って、基本的にぶっ放し系ばかりだからなぁ。

 一応、魔力のコントロールには自信があるんだが、こういうセンスとは別物らしい。


 面倒くさいから、最大出力でぶっ放してるだけとも言うが。


「あった。これがその祭壇。聖女さま、見て欲しいの」


「はい。拝見しますね……ええと、これは……」


「どうだ? 何か分かりそうか、ローレシア。ユグドラ教と関連性はありそうだろうか」


「全然違う文化のモノだと思います。少なくとも、ユグドラ王国とは、全く体系の違う祭壇ですね。そもそも、これは祭壇なのでしょうか……?」


「あら、本当ね。見た事ない祭壇だわ。木製……いえ、石かしら……? フェリスが困惑してたのも、よく分かるわ。ずいぶん古い物だわ」


 ローレシアもアリアスも分からないのか。

 ということは、この祭壇はこの地域特有の物なのかもしれない。


「どれどれ……ん? これは……もしかして……」


「ダーリン、もしかして知ってるの?」


「知ってるというか、これは……」


「村長さま、もしかして見たことある? この小さい、屋根が付いてる祭壇みたいな物を」


「あー、うん。間違いない。これはアレだな」


 フェリスが祭壇と呼んでいた物。

 それは古くてすっかりボロボロになっていた。

 切妻屋根を備えた、観音開きと思われる戸の付いた小さな殿舎。


 前世の日本でたまに見る機会があった、アレである。


「これは間違いなく、祠だ」

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