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第55話 元暗黒騎士は塩が欲しい

 小麦粉を作る準備は出来た。

 次は果物や米を作ろうと考えたが、その前にやるべきことがある。


「塩が欲しい。切実に」


 家にある塩は、俺がスキルで生成したモノだ。

 ストックが無くなれば、他の国に買いに行くしかない。


「けど、真っ白な塩って高いんだよな。この世界だと、純白の塩がそんなに出回ってないし、かといって安い塩を買うと雑味がある……」


 そのうち米を作る予定だが、そうなるとおにぎりやカレーを作る機会もある。

 小麦粉だって、うどんや他の料理に使う場合でも、塩は必須になるだろう。

 そうなると、出来るだけ白い塩が望ましい。


「なぁ、この辺りに海ってあるか?」


「ないと思うわよ。飛空挺で飛んでる時に、それらしい景色は見えなかったもの」


「だよなぁ。塩ってやっぱり、海水から取るのが一般的だよな?」


「高い塩はそうじゃない? 岩や川、ダンジョンの土から取れるって聞いたことはあるけれど」


 なるほど、アリアスに聞いて正解だった。

 確かに岩塩なら、この死の大地でも確保出来そうだ。

 しかしダンジョンの土って、どういうことだろう。


「魔力の濃度が高いと、環境が変わってしまうみたいね。もしかしたら、死の大地でも似たようなことがあるかもしれないわ」


「俺の出した赤い雲のせいで?」


「それもあるけれど、クツァイアがここで育ってたみたいに、この地特有の塩とかもあるんじゃないかしら」


「探してみるのもいいかもな。でも、岩塩や土塩って味の方はどうなんだろう」


「んん〜。少なくとも、この家にある綺麗な塩と違って、多少風味は変わってるんじゃないかしら」


「だよな……となると、やはり一番欲しいのは海水からとった塩だな」


「でも海なんて無いわよ? 交易で仕入れたらいいんじゃないの?」


「白い塩は高いからな。自分達で作れるようにしておけば、逆にこっちが交易で出す目玉商品になる」


「なるほど、ダーリンも中々打算的じゃない。いいわ、面白そう! 私も一緒に探す!」


「とはいっても、海どころか川も無いんだよなぁ……この辺り」


「流石におかしいわよね。海はともかく、川さえ無いなんて。川が枯れた様子もなくて、存在すらしていないみたいだわ」


「死の大地って呼ばれるだけはあるな。とことん人間が住むのに適してない」


 実は川も探しているのである。

 米を作るためには、田んぼが必要だ。

 田んぼで稲作をするには、水つまり水路が必要になる。


 正直、水なんて魔法でどうにかすればいい。

 そう思っていたのだが、村を運営する以上、魔法だけに頼るのは心許ない。

 もし魔法を使える人が体調不良になったら、それで村のインフラが崩壊するからな。


 俺のスキルで魔道具を生成してそれに頼る手もあるが、田んぼを大きくした時、二度目の生成が出来ないのでこれも詰みだ。


 結局は、普通にインフラを整える必要があるだろう。


「それじゃあ、ダーリンがどこか一帯を焦土にして、そこに魔法で水を貯めて海にするっていうのはどうかしら!」


「嫌だよ、海を作るほどの水を生み出すなんて、魔力がいくらあっても足りないだろ」


「じゃあ川を作るとかは?」


「それなら……いや、結局川の行き着く先は海じゃないか? なら、川と海はセットで作るべきなのかな」


「うーん、難しいわね。あなたのスキルで、この地域に川と海を生成出来ないの?」


「出来るかもしれないけど、規模がデカ過ぎてスキルの副作用が怖いな……。そもそも、川を作ってもすぐ枯れるだろ。だってこの地域、雨が一切降らないんだから」


「ああ、それもそうね。やっぱり、交易で手に入れるしかないのかしら。真っ白な塩は諦めるしかないわね」


「うう〜ん。俺としては、今後も真っ白な塩を使っていきたいんだけどな……」


「まぁ、塩は当分後回しにして、他のことを進めたらいいんじゃないかしら。家にはまだ、塩はいっぱいあるもの」


「それもそっか。相談に乗ってくれてありがとうな、アリアス」


「んーん。また何か相談してよね。私はあなたの妻なんだから」


 ありがたい言葉だ。

 夫に仕事を任せっきりにせず、家事もお互いに手伝い合う。

 まさに理想の夫婦関係だ。おまけにデカパイエルフ。


 これはもう、良妻賢母を超えたハイパーお嫁さんだ。


 しかし、海も川もないのに、おまけに雨が降らないのに、どうしてこの地域は湿度が高いのだろう。

 謎だ。死の大地マヤト……まだ俺には分かってない、隠された謎があるのかもしれない。


 ◆◆◆


 レクスの読みは当たっていた。

 この死の大地は、かつての大戦で大勢の死者が出た戦場だった。

 魔王と亜人が、互いの未来のために命を賭して戦った死地である。


 だがそれよりもはるか昔。魔王の神話よりも前の時代。

 かつては、ここマヤトの地は死の大地と呼ばれる場所では無かった。

 自然は豊かで、天候も安定し、安寧の地と呼ばれるような地だった。


 それが死の大地と呼ばれるようになったのは、邪神の力が関係していた。

 マヤトの地に住んでいたのは、竜とその眷属だった。

 かつては神の化身とも呼ばれたドラゴンが、現代では魔物に分類された原因となった事件が起きた。


 この地を治める竜、竜姫ヤマトが邪神の魔力にあてられ、暴走した。

 その影響で、同族である竜種──ドラゴンも暴走を始めた。

 かつては知恵ある竜として、人間と共栄していたドラゴン達は、それ以来知能を持たない魔物へと堕ちた。


 そして、竜姫マヤトとその眷属達はこのマヤトの地を支配し、破壊し尽くした。

 女神はこれを深く嘆き、当時の聖女と勇者にドラゴンの封印を願い出た。

 そうして、竜姫マヤトとその眷属達は無事封印された。


 だが、この地を支配していたドラゴン達を封印してしまったせいで、かつてマヤトの地にあった自然や天候、文化ごと封印されてしまった。

 それ以来、ここには何も残っていない。

 あるのは、人が住めない地獄のような環境だけ。


 そのドラゴン達を封印した祠は、今も死の大地に眠っている。

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