第54話 元暗黒騎士は小麦を植える
「なぁ黒の剣」
狼耳の獣人が話しかけてきた。
何度か会話したこともある、見知った顔の獣人だ。
「なあ、俺を呼ぶ時に黒の剣って呼ぶのはやめてくれないか。なんか恥ずかしいんだが」
「いいじゃねぇか。かっこいい異名だろ?」
それは全力で同意する。
だが言わせて欲しい。自分に異名が付くことと、それで呼ばれることは別なのだと。
戦場で黒の剣と呼ばれれば、俺のテンションは上がるだろう。
けど、ここは村の畑だ。雰囲気がぶち壊しだよ。
逆に恥ずかしくなってくる。いや、嫌いじゃないんだけどさ、黒の剣って異名は。
場違い過ぎるのが問題であって……。
「ん〜そうか。じゃあ村長って呼べばいいか?」
「素直に名前で呼んでくれればありがたいんだが……。まぁ村長でいいよ。ところで……お前の名前、なんだっけ?」
とんでもない失礼発言だと自覚してる。
でも分からないのだから、仕方がない。
だって、この狼耳の名前を聞いたことがないのだ。
素直に分かりませんと言うのも、大事ではないだろうか。
「ありゃ、そういや名乗って無かったか? わりぃ、俺はヴォルフ族のウルシオっていうんだ。改めてよろしくな、村長」
「ウルシオか、こちらこそ名前を聞かずに放っておいて悪かった。これから色々と頼るだろうから、よろしくな」
「おうよ! てか、今日はどうしたんだ? 畑に何か用か?」
「それなんだが、畑の野菜は今、どんなものがあるんだ? 場合によっては、種類を増やすのもアリだと思うんだが」
「今畑にあるのは、クツァイアとイーテ、オーリーブ、それにバダグムくらいだな」
「クツァイアは芋みたいなやつで、イーテは茶葉、オーリーブはそのままオリーブだったな」
「何の話をしてるんだ?」
いけない、前世の単語を人前で話すのは危険だ。
別に隠してるわけじゃないのだが、いきなり訳のわからない単語を口走ったやべーヤツって思われたら嫌だからな。
気をつけよう。
「バダグムだけ聞いたことがないな。どんな野菜だろう」
「根菜だな。これは最近、俺達が村の周辺を探索して見つけたんだ。畑に植えてみたら、すげぇ勢いで育ったぜ」
俺の知らないところで、獣人たちも村のために頑張ってくれていたらしい。
根菜類が増えたのは非常にありがたい。
「あ、いけね! 小麦を植えるの忘れてた!」
「コムギ? なんだそりゃ」
以前アリアスに説明した時と同じ反応をされる。
ええと、確かこの世界で似た食材だと……。
「ミミコムみたいな作物だよ。パンの生地や、色々な料理に使えるんだ」
「へぇ、そりゃ便利じゃないか!」
「パン、食べれるの?」
「うぉ、フェリス……! いつの間にいたんだ」
猫耳をピョコピョコさせながら、獣人の紅一点であるフェリスが現れた。
朝早いからか、すごく眠そうな顔をしている。
薄着だが、大丈夫か……? 寝巻きのまま、外に出てきてないか?
非常に危険だ。
俺の目のやり場が、危険だ。
「ねぇ、ミミコム作るの? 黒の剣」
「おいおいフェリス、その呼び方はやめてくれってよ。村長様と呼べってさ」
「そこまでは言ってないぞ」
「村長様……このかわいそうなフェリスのために、ミミコムを畑に作って欲しいの……にゃーん」
「だからそこまでしろとは言ってないって!」
「じゃあ、さっさと作って欲しい。パン食べたいの」
「態度が変わるの早っ!」
フェリス、なかなかにマイペースな女の子だ。
猫耳だし、猫のような性格なのだろうか。
「じゃあ、まだ畑は空いてるみたいだし、小麦を植えるか」
「でも種とかない。どうするの?」
「そうそう、俺もそれが聞きたかったんだよなぁ。あ、もしかしてスキルか? スキルだろ!」
「なるほど、黒の剣……じゃなくて村長様のスキル。なんか変なものを生み出すスキルだね」
「村長『様』はやめてくれないか……」
「呼び方で私だけの独自性を出していきたい。村長君でも村長ちゃんでもいいよ」
そんなソシャゲのキャラ付けみたいな……。いやまぁ、好きだけどさ。
プレイヤーキャラに固有の名前がないタイプのゲームで、呼び方でキャラ立てするの。
指揮官さんとか、マスターくんとか、コーチちゃんとか、プロデューサーさんみたなやつ。
だが俺には、レクス・ルンハルトという名前があるのだ。
それを無視して黒の剣だの、村長だの、ましてや村長様とかくんとか、呼ばれてたまるか!
「村長さま……私のこと、嫌いなの……にゃん?」
前言撤回。
俺の名前を呼んでくれないとか、そんな些細な問題はどうでもいい!
なぜなら、今の呼び方がかわいかったから!
なんか『様』から『さま』に変わっただけで、あざとさが十割増しだ。
だがそれがいい!
「仕方ない……フェリスがそう呼びたいなら、村長『さま』でいいさ」
「なぁ、チョロくないか? 俺らの村長……」
「おもしれーから、私は好きだよ。強いし、不満ないの」
「まぁ、獣人の俺達からしたら、強いやつこそ正義って感じだよなー。だからこそ信頼出来るってもんかもな」
「そういうこと。強い男は偉い。だからリーダーに相応しいの」
「なるほど、獣人最強な兄貴のダンより強いなら、そりゃフェリスも興味を持つか」
なんかフェリスとウルシオが小声で話しているが、全然聞こえない。
人族とは声帯が違うのか、声の出し方が特殊なのか、よく聞こえない。
だが雑談してるようだし、別に変な話をしているわけじゃなさそうだ。
「じゃあ久々の……発動しろ、【ダークマター】! この畑で育つ、小麦を生成!」
俺の手から光が放たれ、収束する。
そして畑に現れたのは、見事な小麦だった。
正確には俺の脳内イメージの小麦だ。
実際に小麦を見た経験があるような、ないような……。
だからそこは、イメージで補完した。これこそ俺の【ダークマター】の真骨頂だ。
「ミミコムと似てるけど、ちょっと違うね」
「これは小麦って言って、まぁ大体ミミコムみたいなもんだよ」
「パンを作るとなると、製粉しなきゃいけないの。道具とかどうしよう」
「あまり大きな声で言えないけど、飛空挺でユグドラ王都まで行って、拝借してこようか?」
「ううん、それだと負けた気になるの」
なんだと、それじゃあ人がいなくなった王都から、酒とか色々貰ってきた俺が敗者みたいじゃないか。
そこまで言うなら、いいだろう。製粉設備もダークマターで生成して……いや、製粉の過程とか知らないわ。
どうしよう、想像力が湧かないせいで、生成できる気がしない。
くそ、誰だよチートスキルとか言ったヤツ、全然役に立たねぇ。
「大丈夫。レジスタンス基地に余ってる資材があるの。こっちで適当に作っておくの」
「あ、本当か。助かるよ」
「ふふん、村長さまにアピール。私、有能……」
「有能かどうかはどうでもいいさ。協力してくれるだけで、ありがたいからさ」
「なるほど。村長さまはそういうタイプなんだね……勉強になるの」
一体何の勉強になるというのだろう。
詳しく聞くのも怖いから、あまり深掘りしないでおこう。
「とりあえず、野菜は無事育ってるみたいでよかった……」
「他にも青野菜の種とか、地元に取りに行く予定だぜー。この畑、すげぇ便利だから多分育つだろ!」
「おお、助かる……。そういうことなら、飛空挺はどんどん使ってくれよ……」
あ、駄目だ。久々にダークマターを使ったせいか、ちょっと疲れた。
今日のところは、一旦休むとしよう。
「それじゃあ、後は任せた。じゃあなフェリス、あとウルシオ……だったよな」
「おう、ヴォルフ族のウルシオだぜー! 任されたー」
畑の管理はウルシオにしてもらうことになりそうだ。
別に俺が管理しなくても、やってくれる人がいるなら、任せちゃっていいのだ。
任せっきりで、失敗した時に、責任を取らないような村長にならないよう気をつけよう。
前世のクソ上司みたいには、なりたくないからな。
「狼耳のウルシオ……よし、覚えた。ウルシオ、ウルシオ……はっ!」
その時、俺の頭に電流が走った。
「塩が……欲しい」
どうやら、次の目標が決まったようだ。
そう、この閉ざされた地には海がない。某S県みたいに、海がないのである。
つまり、塩が手に入らない。今現在、俺の家には塩があるが、それもダークマターで家ごと生成したモノだ。
使い切ればストックはない。村人たちの家に塩があるかも確認していない。
つまり、塩が必要なのだ。
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