表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/74

第54話 元暗黒騎士は小麦を植える

「なぁ黒の剣」


 狼耳の獣人が話しかけてきた。

 何度か会話したこともある、見知った顔の獣人だ。


「なあ、俺を呼ぶ時に黒の剣って呼ぶのはやめてくれないか。なんか恥ずかしいんだが」


「いいじゃねぇか。かっこいい異名だろ?」


 それは全力で同意する。

 だが言わせて欲しい。自分に異名が付くことと、それで呼ばれることは別なのだと。


 戦場で黒の剣と呼ばれれば、俺のテンションは上がるだろう。

 けど、ここは村の畑だ。雰囲気がぶち壊しだよ。

 逆に恥ずかしくなってくる。いや、嫌いじゃないんだけどさ、黒の剣って異名は。


 場違い過ぎるのが問題であって……。


「ん〜そうか。じゃあ村長って呼べばいいか?」


「素直に名前で呼んでくれればありがたいんだが……。まぁ村長でいいよ。ところで……お前の名前、なんだっけ?」


 とんでもない失礼発言だと自覚してる。

 でも分からないのだから、仕方がない。

 だって、この狼耳の名前を聞いたことがないのだ。

 素直に分かりませんと言うのも、大事ではないだろうか。


「ありゃ、そういや名乗って無かったか? わりぃ、俺はヴォルフ族のウルシオっていうんだ。改めてよろしくな、村長」


「ウルシオか、こちらこそ名前を聞かずに放っておいて悪かった。これから色々と頼るだろうから、よろしくな」


「おうよ! てか、今日はどうしたんだ? 畑に何か用か?」


「それなんだが、畑の野菜は今、どんなものがあるんだ? 場合によっては、種類を増やすのもアリだと思うんだが」


「今畑にあるのは、クツァイアとイーテ、オーリーブ、それにバダグムくらいだな」


「クツァイアは芋みたいなやつで、イーテは茶葉、オーリーブはそのままオリーブだったな」


「何の話をしてるんだ?」


 いけない、前世の単語を人前で話すのは危険だ。

 別に隠してるわけじゃないのだが、いきなり訳のわからない単語を口走ったやべーヤツって思われたら嫌だからな。

 気をつけよう。


「バダグムだけ聞いたことがないな。どんな野菜だろう」


「根菜だな。これは最近、俺達が村の周辺を探索して見つけたんだ。畑に植えてみたら、すげぇ勢いで育ったぜ」


 俺の知らないところで、獣人たちも村のために頑張ってくれていたらしい。

 根菜類が増えたのは非常にありがたい。


「あ、いけね! 小麦を植えるの忘れてた!」


「コムギ? なんだそりゃ」


 以前アリアスに説明した時と同じ反応をされる。

 ええと、確かこの世界で似た食材だと……。


「ミミコムみたいな作物だよ。パンの生地や、色々な料理に使えるんだ」


「へぇ、そりゃ便利じゃないか!」


「パン、食べれるの?」


「うぉ、フェリス……! いつの間にいたんだ」


 猫耳をピョコピョコさせながら、獣人の紅一点であるフェリスが現れた。

 朝早いからか、すごく眠そうな顔をしている。

 薄着だが、大丈夫か……? 寝巻きのまま、外に出てきてないか?


 非常に危険だ。

 俺の目のやり場が、危険だ。


「ねぇ、ミミコム作るの? 黒の剣」


「おいおいフェリス、その呼び方はやめてくれってよ。村長様と呼べってさ」


「そこまでは言ってないぞ」


「村長様……このかわいそうなフェリスのために、ミミコムを畑に作って欲しいの……にゃーん」


「だからそこまでしろとは言ってないって!」


「じゃあ、さっさと作って欲しい。パン食べたいの」


「態度が変わるの早っ!」


 フェリス、なかなかにマイペースな女の子だ。

 猫耳だし、猫のような性格なのだろうか。


「じゃあ、まだ畑は空いてるみたいだし、小麦を植えるか」


「でも種とかない。どうするの?」


「そうそう、俺もそれが聞きたかったんだよなぁ。あ、もしかしてスキルか? スキルだろ!」


「なるほど、黒の剣……じゃなくて村長様のスキル。なんか変なものを生み出すスキルだね」


「村長『様』はやめてくれないか……」


「呼び方で私だけの独自性を出していきたい。村長君でも村長ちゃんでもいいよ」


 そんなソシャゲのキャラ付けみたいな……。いやまぁ、好きだけどさ。

 プレイヤーキャラに固有の名前がないタイプのゲームで、呼び方でキャラ立てするの。

 指揮官さんとか、マスターくんとか、コーチちゃんとか、プロデューサーさんみたなやつ。


 だが俺には、レクス・ルンハルトという名前があるのだ。

 それを無視して黒の剣だの、村長だの、ましてや村長様とかくんとか、呼ばれてたまるか!


「村長さま……私のこと、嫌いなの……にゃん?」


 前言撤回。

 俺の名前を呼んでくれないとか、そんな些細な問題はどうでもいい!

 なぜなら、今の呼び方がかわいかったから!

 なんか『様』から『さま』に変わっただけで、あざとさが十割増しだ。

 だがそれがいい!


「仕方ない……フェリスがそう呼びたいなら、村長『さま』でいいさ」


「なぁ、チョロくないか? 俺らの村長……」


「おもしれーから、私は好きだよ。強いし、不満ないの」


「まぁ、獣人の俺達からしたら、強いやつこそ正義って感じだよなー。だからこそ信頼出来るってもんかもな」


「そういうこと。強い男は偉い。だからリーダーに相応しいの」


「なるほど、獣人最強な兄貴のダンより強いなら、そりゃフェリスも興味を持つか」


 なんかフェリスとウルシオが小声で話しているが、全然聞こえない。

 人族とは声帯が違うのか、声の出し方が特殊なのか、よく聞こえない。

 だが雑談してるようだし、別に変な話をしているわけじゃなさそうだ。


「じゃあ久々の……発動しろ、【ダークマター】! この畑で育つ、小麦を生成!」


 俺の手から光が放たれ、収束する。

 そして畑に現れたのは、見事な小麦だった。


 正確には俺の脳内イメージの小麦だ。

 実際に小麦を見た経験があるような、ないような……。

 だからそこは、イメージで補完した。これこそ俺の【ダークマター】の真骨頂だ。


「ミミコムと似てるけど、ちょっと違うね」


「これは小麦って言って、まぁ大体ミミコムみたいなもんだよ」


「パンを作るとなると、製粉しなきゃいけないの。道具とかどうしよう」


「あまり大きな声で言えないけど、飛空挺でユグドラ王都まで行って、拝借してこようか?」


「ううん、それだと負けた気になるの」


 なんだと、それじゃあ人がいなくなった王都から、酒とか色々貰ってきた俺が敗者みたいじゃないか。

 そこまで言うなら、いいだろう。製粉設備もダークマターで生成して……いや、製粉の過程とか知らないわ。


 どうしよう、想像力が湧かないせいで、生成できる気がしない。

 くそ、誰だよチートスキルとか言ったヤツ、全然役に立たねぇ。


「大丈夫。レジスタンス基地に余ってる資材があるの。こっちで適当に作っておくの」


「あ、本当か。助かるよ」


「ふふん、村長さまにアピール。私、有能……」


「有能かどうかはどうでもいいさ。協力してくれるだけで、ありがたいからさ」


「なるほど。村長さまはそういうタイプなんだね……勉強になるの」


 一体何の勉強になるというのだろう。

 詳しく聞くのも怖いから、あまり深掘りしないでおこう。


「とりあえず、野菜は無事育ってるみたいでよかった……」


「他にも青野菜の種とか、地元に取りに行く予定だぜー。この畑、すげぇ便利だから多分育つだろ!」


「おお、助かる……。そういうことなら、飛空挺はどんどん使ってくれよ……」


 あ、駄目だ。久々にダークマターを使ったせいか、ちょっと疲れた。

 今日のところは、一旦休むとしよう。


「それじゃあ、後は任せた。じゃあなフェリス、あとウルシオ……だったよな」


「おう、ヴォルフ族のウルシオだぜー! 任されたー」


 畑の管理はウルシオにしてもらうことになりそうだ。

 別に俺が管理しなくても、やってくれる人がいるなら、任せちゃっていいのだ。

 任せっきりで、失敗した時に、責任を取らないような村長にならないよう気をつけよう。

 前世のクソ上司みたいには、なりたくないからな。


「狼耳のウルシオ……よし、覚えた。ウルシオ、ウルシオ……はっ!」


 その時、俺の頭に電流が走った。


「塩が……欲しい」


 どうやら、次の目標が決まったようだ。

 そう、この閉ざされた地には海がない。某S県みたいに、海がないのである。

 つまり、塩が手に入らない。今現在、俺の家には塩があるが、それもダークマターで家ごと生成したモノだ。

 使い切ればストックはない。村人たちの家に塩があるかも確認していない。


 つまり、塩が必要なのだ。

最後まで読んでくださりありがとうございます!

この小説が少しでも面白かったと思っていただければ、いいねやブックマーク、評価をしてくださると嬉しいです!

感想も貰えると活動の励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ