第32話 元暗黒騎士は四天王を瞬殺する
村から離れた場所に巨大な四つの魔力があるな。
おそらくガルドギア帝国が誇る最強戦力、四天王だろう。
俺は岩陰に身を潜めて、奴らの様子を探る。
スパイみたいでかっこいいよな、こういうの。
「おい、本当にこんな所に例のやつがいるのか?」
「魔物の一匹すらいないようです。なるほど、死の大地と呼ばれるだけはありますね。生物の痕跡すらありません」
「だがここでやべぇ魔力の反応があったのは確かだぜ。確実に何かいやがるのは間違いねえ!」
「うむ。この空を見ても一目瞭然であろう。まるで世界の終わりを告げるかのような、不気味な雲だ。そのせいか、この辺りの大気中の魔力は禍々しいぞ」
おー、なんか四天王っぽい会話をしてる。
全員がかっこいい鎧やローブ、マントを着けてキャラが立ってる。
そして装飾品や髪色から、自分のスキル属性を自己主張している。
わかりやすいキャラクターって大事だよな。
俺の人生も、分かりやすかったら良かったんだが。
「しっかしグランド・ヴァイス・ドラゴンが見当たらねえな! ここを根城にしてるっつーのはデマだったのか? せっかくひと目お目にかかれると思って楽しみにしてたのによぉ!」
「グランデュクス、油断は大敵ですわ。例のドラゴンがいなくても、極神級の魔力反応があったのは確かなのですから。何がいるか分かったものじゃないです。最大限警戒をしておきましょう」
さっきから大声を出してる男は地属性パワー系の使い手と見た。
そしておっとり系魔法使いのお姉さんはおそらく水属性だろう。
だって、装備品や髪の色が茶色と水色なんだもの。ゲームの属性アイコン並みに分かりやすい。
「もしやグランド・ヴァイス・ドラゴンよりも強力な魔物が現れたやも知れぬな。どれ、我のスキルで周囲を探索しようぞ」
あのおっさんは風使いだな。緑の装飾をしている。
スキルを使おうとして、手のひらから風を出しているのも分かりやすい。
「いいか! 今回の目的はあくまで死の大地の調査だ! 危険な魔物がいれば、深入りする必要はない!」
あの赤髪で元気良さそうな青年には見覚えがある。
確か火帝ヴォルガトゥスだったか。戦場で何度か剣を打ち合ったが、中々強い奴だ。
さすが大陸最強の四天王と謳われるだけのことはある。
あの時はお互い本気を出して無かったが、本気で戦うとどうなるのか少し気になるな。
「むっ、ここから南の方角に複数の魔力反応を見つけた。人間のようだ……信じられん、死の大地に人の暮らす村があったとは……」
あれ、それってもしかして俺の村のことか?
まじかよ、あのおっさんのスキル、ほんの数十秒で数キロ先の人間を察知したのか?
チートすぎるだろ! 見たところノーリスクっぽいし、俺のダークマターより使い勝手良さそうなのが悔しいんだが。
「村ねぇ……。なんか匂うぜ、向かうか?」
「行ってどうするのです? 村人から無理矢理話を聞き出すのですか? あなたらしいやり方ではありますが、岩帝グランデュクス」
「俺はグランド・ヴァイス・ドラゴンをぶっ飛ばしに来たんだよぉ! それが影も形もないとなりゃ、その村の人間が怪しいに決まってんだろうが!」
おいおい、これってマズいよな。
せっかく作った俺の村に敵が迫ってくるパターンだ。
止めなきゃ駄目だよな。でも別に明確な敵意があるわけでもないみたいだしな……。
でもまぁ、止めれるのなら止めよう。
最悪全員ぶっ飛ばして死の大地の外にぶん投げれば済むことだ。
命までは奪わない。それでオーケーだ。少なくとも俺の中では。
「待て」
「……誰だ?」
「悪いがその村に行かせることは出来ない」
「ほぉ、早速当たりを引いたみたいだぜ。見ろよお前ら!」
全員が俺に注目している。別働隊の気配もない。これなら村の方は安心だろう。
「おい、フードを被ってないで顔を見せろ。俺達はガルドギア大陸の四天王である」
「俺は名乗る程の者じゃない」
「うむ。中々面白い奴である。我が風の探知網でも引っ掛からなかったぞ」
「魔力を消してやがったのか? それとも魔力がカス過ぎて探知出来なかったんじゃねぇのか?」
随分酷いことを言ってくれる。単純に魔力を極善まで抑えてただけだ。
偵察する時に魔力を探知されてバレましたじゃ、間抜けすぎるからな。
これも暗黒騎士時代に習得した技能の一つだ。
「怪しい男だな。どうする?」
「決まってんだろ、ヴォルガトゥス! 怪しい奴はぶっ飛ばすに限るってなぁ!」
いきなり襲いかかってくるのかよ。
いやこっちも怪しい登場だったから仕方ないか。
「オラァッッッ!」
「地属性魔法による足場崩しと、スキルによる肉体強化か。シンプルながら堅実な戦い方だ」
「余裕こいてんじゃねえぞ! もういっちょォ!」
うわっ、この岩帝とかいうやつ! 戦い方がめちゃくちゃじゃないか!
地面を割って、その破片に飛び移ってこっちに迫って来る。
かと思えば割れた岩を蹴飛ばして、飛び道具にもする。
肉体強化のスキルが高レベルだからか、たかが岩の破片でも殺傷力は十分だ。
「凄いな。こんなシンプルな能力で、ここまで戦えるとは」
「また避けやがったな……! 結構やるじゃねえか! じゃあこいつはどうだ!! グランド・パニッシャー!」
「地面から無数の岩の棘が飛び出してきた! が、こっちは陽動だろ。俺が上空へ避けたところを叩き潰すのが本命の攻撃。違うか?」
「察しがいいじゃねえか! だが避けられねえぞ! くらいやがれェェェェ!!」
この岩帝とかいう男、四天王の一角を担っているだけあって戦闘力は凄まじい。
確かに普通の人間なら、足場を崩された状態で戦うのは圧倒的不利だ。
おまけに避けたとしても追撃用の攻撃まで用意されている。
脳筋なようで、かなりの戦闘上手らしい。
だが──
「お前の力よりも、俺の力の方が強い」
「なっ……! お、俺の渾身の一撃を……片手で止めやがっただと……!」
「中々楽しかったぞ。次はもっと上手くやるんだな。もう一つくらい策を用意しておけ」
「舐めやがっ……ぐはっ!」
首を絞めて大人しくさせた。
こいつは荒っぽいが、殺意は無かった。殺すまでしなくていいだろう。
「そ、そんな……。四天王一の怪力であるグランデュクスを一撃で倒すなんて信じられませんわ!」
「お次は誰の番かな。まともてかかって来ても俺は構わんぞ」
「ふっ、舐められたものですわね! ヴォルガトゥス! 合体魔法を使います! エーヴィルは援護を!」
「ああ! どうやらこいつ、並大抵の相手じゃねえ!」
「我の嵐に耐えられるかな?」
そうそう、全員油断せずに向かってこい。
そうじゃないと、油断している相手に勝ったみたいで達成感が無いからな。
全力の相手を倒した方が、倒した後で面倒が起きないからな。
「水の担い手ウィーネイルが捧げます」
「火の担い手ヴォルガトゥスが誓おう」
「「女神の名の下に、彼の敵を打ち払わんことを! ブレイズ・ギガ・デストラクション!」」
「合体魔法か。火と水の連携で爆発的な破壊のエネルギーをぶつける魔法か? 当たればひとたまりもないだろうな」
「余裕ぶっていられるのも今のうちですわよ!」
このブレイズ・ギガなんちゃらって魔法は確かに凄い。単純な破壊力だけなら、上級魔法の数十倍の威力がありそうだ。
人間一人に対して使う技じゃないよな、これ。敵軍相手に放つ対軍魔法だろ。
こんなの俺一人に使うなんて、よっぽど必死らしいな。
それだけ危機感を持ってくれてるということだ。
舐めてかかられるより、よっぽど嬉しい。
「じゃあ俺も、少しだけ本気を出す……あれ?」
愛剣クロノグラムを取り出そうとしたのだが、無い。
いや無いはずはない。さっきまでここにあったんだから。
失くした? いやまさか。そんなはずあるわけない。
どういうことだろうか。
そういえば風帝と名乗るおっさんの姿が見えない。
もしかして、奴の仕業か? スキルか魔法で細工をしたな?
「ふむ。どうやら幻術の類いは効くようだのう。お主は今、五感が狂っておる。そこにあるはずの剣が認識出来ず、動こうとする足は沼に浸かったように重い。風魔法と我のスキルの応用だ」
いや風魔法でどうやって五感を狂わせるんだ?
ああ、でも低気圧で体調が悪くなるって言うし、耳鳴りで体調が悪くなったりすると聞く。
もしかしてそれを魔法で再現して、さらに強化しているのか?
「なるほど、確かに厄介だ。サポートにしてはやり過ぎな気もするけどな」
「ほほ、無理をするな。動こうとすると、却って不利になるぞ。大人しくあの二人の合体魔法を受けることだな」
「確かに凄い技だ。四天王と呼ばれるだけはある」
だが甘い。全然甘い。
「体調不良くらいで休めるなら、俺は前世で社畜をやってねぇよ」
「なっ! 我の幻覚がかかっている状態で動いただと!」
「でも遅いですわ! もう避けることは不可能!」
「そのまま俺達の合体魔法を受けるがいい!」
確かに、このまま敵の攻撃を受けるのは容易い。
ローブの下に着込んだダークマター製の鎧なら、おそらくこの攻撃を耐え切れるだろう。
ダメージも微々たるもので済むはずだ。
「だけど、それじゃあ駄目なんだよなぁ……」
「なに? 今、なんと言った」
「村を守る。そのためにお前らを止める。一番手っ取り早い解決方法は、手を出しちゃいけない奴がいるってわからせることだと思うんだよ」
合体魔法が目前まで迫る。
「だから、攻撃を耐えるんじゃ駄目だ。圧倒的なまでの敗北感を与えないと、分かってくれないだろ?」
俺はクロノグラムを呼び出す。物理的に握らなくても、俺の意思で呼べば何処からともなく現れる。そういう風に生成した。
持ち運ぶのが面倒なのと、虚空から武器を取り出すのがカッコいいからだ。
騎士団長に奪われていた時も、本当は呼び出せばいつでも取り返せた。
でもそれは俺の流儀に反する。取られた物はきちんと取り返さないと気が済まないのだ。
「起動しろ、クロノグラム! お前に相応しい餌が決まった!」
クロノグラムの柄から毒々しい触手のようなモノが生える。
その触手が俺の腕に突き刺さり、血と魔力を吸う。
そしてクロノグラムは、赤黒い雷を纏い、暗く輝く。
「こんな上等な魔法、滅多に切れるもんじゃないぞ。完膚無きまでに消し去ってしまえ! ダークマター・ルナティクス!」
ズオオオオォォォォ!!!!
まるでブラックホールに吸い込まれるような音が広野に広がる。
俺がクロノグラムで切った空間には、何も無かった。
文字通り、その空間にある物全てを斬ったのだ。存在ごと、この世から斬り落とした。
まあブラックホールの音とか聞いたことないんだが。
もっと言えば、ブラックホールが物を吸い込むところも見たことなんてない。
あくまでイメージの話だ。
俺の攻撃がブラックホールのように空間ごと吸い込んだ……消し去ったというわけだ。
「こ、こんな……馬鹿な……ありえませんわ……」
「ば、馬鹿げてやがる……! か、勝てるはずがない……」
「わ、我の幻術が……ま、まったく……効いてないだと……」
よし、三人とも落ち込んでいるみたいだな。
すっかり戦意喪失したみたいだ。これで少しはこちらの話を聞いてくれるだろう。
「あ、あなたは一体何者ですの……? これほどの魔力を扱うなんて……」
「ああそうか。ローブを被ったままだったな」
流石に戦いが終わった後まで顔を隠す必要もないだろう。
もっとも、顔を見せたところで俺のことなんて知らないと思うが。
「俺はそこにある村で暮らしてるレクスって者だ。村で暴れられちゃ困るんでな。悪いがあんたらを止めさせてもらった」
「……………………」
あれ、反応がない。どうしたんだろう。自分たちを倒した男が、パッとしないヤツでガッカリしたのだろうか?
「黒い剣……圧倒的なまでの強さ……漆黒の鎧……まさかあなたは……」
「黒き剣、レクス・ルンハルトではないか!?」
「起きろグランデュクス! 黒き剣がいたぞ!」
「どうしようかの……我サイン欲しいのだが……」
「すみません、握手してくださらないかしら!」
あれ、なんか思ってた反応と違った。
どういう状況なんだ、これ。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
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