四天王でも最弱の奴を魔王城から追放したら、魔王城が崩壊した
「シュバルツくん、追放ね」
「なんでですか?」
私は魔王にそう聞き返す。
私は魔王四天王の一人として最弱ながらにも頑張ってきたつもりなのに、なぜクビと言われなければならないのか。
「シュバルツくん、君がアンデットキングとして、私にも良く尽くしてくれたのは良く解っている。
でもさ、四天王ってのは実力主義だというのは解ってるよね?
最弱の君が四天王にずっと居座られるとさ、みんなから不満が出るんだよね。
なんであんないつも勇者にボロ負けして敗走している奴が四天王なんだ?ってね」
確かに、私は弱い。
どれくらい弱いかというと、勇者との戦歴は10戦9敗。
一回目は勇者側の体調不良で不勝戦というだけ。
つまり、勇者に出会えばほぼ負けるくらい弱い。
アンデットキングという名前が泣くところだ。
「しかし……、お言葉ですが、確かに戦いは向いていないかもしれません。
ですが、魔王様の為に尽くしました。
例えば、魔王城の清潔さを向上させ、配下の料理の質を改善し、そして人事システムの腐敗を取り除き、あとそれから、魔力システムの運営と維持……」
私は今まで自分がやってきたことを必死にアピールした。
「君は一体、何のために四天王をやっていたの?そんな仕事なんて、私でもできるんだよ」
魔王にバッサリと言い捨てられる。
私は魔王と働くモンスター達のために必要な仕事をやってきた。
私はキングだが、誰もやりたがらないことをやる、というのがモットーだ。
それで、ただのアンデットから成り上ってきた。
だから、私は最弱でも最良の仕事をやっていると誇りを持っていた。
それなのに。
「じゃ、そういうことだから」
魔王はそう言い残すと、そのまま部屋からでていこうとする。
私はその背中に声をかけた。
「ま、待ってください!せめて理由だけでも……」
私がそう言うと、魔王が足を止める。
そして首だけをこちらを向けて言った。
「理由?最弱だからだよ」
そんな非情な言葉を放ちながら。
こうして私は四天王から追放されたのだった……。
◇◆◇
骸骨だから、涙は出なかった。
自分が泣けないことを恨んだ。
肩を落とし部屋に前に来ると、私の部屋は既に「新四天王・サキュバスちゃん」の部屋になっていた。
サキュバスというのは、とても美人でエッチな魔物である。
その掛札で何かを察してしまい、本当に泣けないことを悔やんだ。
部屋の私物といえば、乱暴に廊下に投げ出されていた。
大切な研究書、表彰状、ポートレート、戦友たちの骨のかけら、見習いの時に使っていた杖、魔王城に栄転したときの寄せ書き、そして、最後に『四天王任命書』。
それらは全て魔王城の廊下に捨てられていた。
「故郷に帰ろう……もう疲れた」
そう思いながら、荷物を整理する。
私はそれを拾い上げる。そしてそれらを一つずつ見ていく。
私物一つとっても、ここまで来るのにどれだけ苦労したか……。
これらの思い出の品が、他人にとってはガラクタだという気持ちはわからない。でもこんなのはあんまりだ。
私は一つ一つ拾い上げていると、親友の、四天王最強のデーモン・アンドリューが話しかけてきた。
「おいおい、なんでお前が四天王をクビになるんだよ!許せねえよ!」
アンドリューは、そう言って手を上にあげて怒っている。
元々肌が真っ赤なデーモンだが、ますます地獄の炎のように赤くなっている。
私の不遇を自分のように怒ってくれるとは、いい友達を持ったものだ。
心の底から感謝の気持ちが溢れてくる。
「アンドリュー、ありがとう」
私はアンドリューにそう返す。
「いや、お前、四天王最弱だけどよ!それでも魔王様の役に立とうと頑張っていたじゃねえか!」
アンドリューはそう言うが、私は何も言い返せない。
「それによ、お前が四天王でいたからこそ、俺たちも気持ちよく働けたんだ!それがなくなったら俺たちはどうなるんだよ!」
でも、それは魔王にとって、評価に値しないことなのだ。
「なあ、強さがなんだってんだよ!俺たちにとってはよ、あんたが一番の四天王だよ!」
アンドリューの熱弁に、私は心が熱くなる。
それだけで、四天王だった十数年は報われた気がする。
「ありがとう、アンドリュー。でもさ」
やり切れ居ない気持ちを抑えながらも、私はアンドリューを見つめ、そして言う。
「四天王最弱は追放されて仕方ないんだよ」
◇◆◇
私は荷物の中で大切なものを厳選し、荷馬車に積み込むと、魔王城を後にする準備をした。
『四天王任命書』は既に燃やしていた。
「さて、一緒に行きましょう!新しい旅の始まりです!」
隣で『黒騎士のレオン』が勇ましく声を上げている。
こいつは、実際は中身がなく、鉄鎧が怨霊の力を持って動いている奴だ。
「君まで、魔王城を辞める必要はないのに。ここにいれば悠々自適だ。好きなときにワインは飲めるし、女は抱ける。素晴らしい場所じゃないか」
黒騎士は豪快な笑い声をあげる。
こいつの笑い声は聞いていて清々しい。
「なにをおっしゃいますか!ワインに手も付けられないほど働いてたのは貴方じゃないですか!それに、私は一度死んだ身だとしても、騎士は騎士。一度忠誠を誓ったものについていくのが役目です」
「ヒヒーーーーーーーン!」
まるでそれに同調するかのように、馬車に繋がれた黒馬、ナイトメアがいななく。
こいつは誰も乗せたがらないほどいうことの聞かない暴れ馬だったが、私が病気になっても、怪我をしても、ずっと世話をし続けたせいで、すっかりなついてしまった。
今では私の言うことなら何でも聞く、立派で頼りがいのある馬だ。
「では行きましょう!故郷へと」
「ああ、そうだな」
私は荷馬車の荷物を確認しながら、そう答えた。
◇◆◇
私の馬車は、魔王城の暗く歪んだ森のなかを歩いていた。だが、そんな道ももうすぐだ。黒騎士と私は昔話に華を咲かせた。
「そういえば懐かしいですね。
忠君を暗殺した王子を憎み、途中でそれを達成できなかった無念を汲み取ってくれて、ただ怨念として漂っていた魂を黒鎧に宿してくれたのも、貴方でした。その後、私たちはその王子の国をアンデットの軍隊で攻め落とし、その王子には、その卑劣さにふさわしい死を与えました」
黒騎士は、昔を思い出しながらそう言う。
「ああ、懐かしいな」
私もその思い出を懐かしむ。思い出が頭に過るたびに、魔王城は後ろで小さくなっていく。
「なあ、黒騎士。魔王様はどうして私なんかを四天王にしたんだろうな?」
そんな質問をする。
「知らないんですか?推挙ですよ。皆がアンデットキングを推したんですよ」
「えっ?」
そんなはずはない。
それは嘘だと思った。
私を推挙するメリットがどこにもないからだ。私はただアンデットの長として、アンデットを束ねていただけである。
いや、束ねていたのかすらわからない。
ただ、勝手に束になっていただけだったようにも思う。
「そんなわけがないだろ?だって、私は魔族の中でも最弱に位置するアンデットだ。四天王に推薦しても何の意味もないじゃないか」
私がそう言うと、黒騎士は笑う。
「ヒヒーン!」
ナイトメアもいななく。
「確かに、貴方は弱いです!でも、貴方ほど魔王様に尽くしてきたものはいない! 貴方は魔王様の本当の気持ちを知らないだけです」
私はそれが本当かどうかはわからなかったが、しかしそう言ってくれる魔物達がいるだけでも、私は救われた。
「ありがとう、黒騎士」
「いえいえ!!」
そんな話をしているうちに、魔王城が振り向いても見えなくなった頃だ。
ナイトメアに矢が飛んできて、ナイトメアの足に刺さったのだ
「ヒヒーーーーーーン!」
ナイトメアは痛みのあまり、いななきを上げて暴れ始める。
そのせいで荷馬車も大きく揺れるが、私はすぐに馬車から飛び降り、そしてナイトメアに駆け寄る。
私はナイトメアの足から矢を引き抜き、すぐに治癒魔法をかけようとする。
しかし、第二・第三の矢が飛んできて、今度は私の肩に刺さる。
「ウッ!」
私は思わずよろけてしまうが、それでも治癒魔法をかけるのをやめない。
矢を引き抜いては治し、そして次の矢が飛んでくる前に荷馬車に乗ろうとする。
その時だった。
「おい、お前!お前はアンデットキングだな!」
勇者たちの声である。パーティー構成は、魔法使い・僧侶・アーチャーである。
そして、エルフの女であるアーチャーが、ナイトメアを射抜いたに間違いがない。
私は冷静になって立ち上がり、そして、アンデットの長としての威厳を見せる。
「その通りだ……私は、アンデットキング。四天王の中でも最弱の男」
そう言って、勇者たちを睨む。
黒騎士も槍と盾を構え、応戦する姿勢を見せる。
勇者は我々をじろじろと見て、そして言った。
「おい、お前。魔王の四天王なんだろ?だったら、俺たちと勝負しろ」
勇者はそう言うと、剣を抜く。
私はそれに応じて、杖を構えた。
「いいだろう。最弱である四天王の本当の力、見せてやろうじゃないか」
そう言いながら、私は魔力を込め、そして地面に手を付ける。
周囲の森がざわめき、そして大きく身体を震わせる。
そして、私たちの周囲を、行き先の失った無縁の魂たちが飛び回る。
私は魔力を込め、地面に手を付ける。
周囲の森がざわめき、大きく身体を震わせる。
私たちの周囲を、行き先の失った無縁の魂たちが飛び回る。
「大地よ!我が命に従い、その力を示せ!」
そして、地面から無数のアンデットたちが這い出てくる。
それはまるで土竜のように、地面から這い出てきた。
「ヒヒーーーーン!!」
ナイトメアは自らの足で走れることに気が付くと、黒騎士を乗せ突撃する。
「ヒヒーーン!!」
勇者たちは、黒騎士の突撃を華麗に避けつつ、魔法を放つ。
「炎の槍よ!」
「浄化の光!」
私の召喚したアンデットたちは、魔法に焼かれ、そして光によって浄化させられる。
「ナイトメア!黒騎士!」
再び二人は渾身の力で突撃する。
しかし。
「草の蔓!」
そう魔法使いが唱えた瞬間、地面から蔓が生え、そしてナイトメアを捉えようとする。
ナイトメアは咄嗟に避けようとするが、しかし足を引っかけて転倒してしまう。
「ヒヒーーン!!」
ナイトメアは悲痛な声を上げる。
そして、勇者たちは再び魔法を放ち始める。
私はそれを必死に防ごうとするが、アンデットたちの数も減っていく。
もはやこれまでか……。
そして、勇者がとどめを刺そうと魔法を放つ。
私は目をつぶったが……。
その時は来なかった。
目を開けると、そこには『四天王最強』のデーモン、アンドリューがその魔法を弾いていた。
「よお、アンデットキング。お前、待たせたな」
周囲にはアンドリューが指揮する悪魔たちもいた。
アンドリューは火の玉を両手に浮かべ、次々と放つ。そして、氷の壁で首尾よく勇者の魔法をふさぎ、そして鎌鼬で相手の肌を切り刻む。
「おい、アンドリュー。手を貸してくれるのか?」
「そりゃそうだろ!おれはお前に退職祝いを送ってないからな!」
アンドリューはそう言って、勇者たちの前で高笑いする。
「やってやるぜ!お前ら!」
アンドリューはそう言うと、私にウィンクをする。
私はその笑顔を見て、思わず笑みがこぼれる。
そして杖を構えて言った。
「よし、行くぞ!アンデットキングの名において命じる!あの勇者たちを倒せ!」
「おおーーーーーー!!」」
私の号令で、ナイトメアと黒騎士が駆け出す。
そして、アンドリューもそれに続く。
アンドリューは勇者たちを一人ずつ相手取っていく。
「勇者さん、まだまだあめえよ!そんなんじゃ魔王は倒せないぜ!」
そして、ナイトメアと黒騎士は突撃しては相手を攪乱していく。
私はアンデットたちに次々と指令を出す。
◇◆◇
激戦の末、私たちは勇者を追い詰めた。
勇者は剣を片手に、私とアンドリューを睨みつける。
「トドメを刺すなら、射せ!」
「刺さねえよ」
アンドリューは愉快そうに笑って、勇者のそっぽを向く。
「魔王の弱点。玉座の中心にある紅の宝石こそが、魔力の源だから、それを真っ先に割ることだ」
「なぜそんなことを教える?」
勇者は信用できないという顔で、アンドリューを見る。
アンドリューは強者特有の余裕を見せて答える。
「何故って?簡単だよ。アンデットキングが四天王をクビになったって言われたから、俺も魔王に愛想が尽きた。
俺はもう四天王じゃない。ただの悪魔の長だ」
そう言って、アンドリューは馬車を改めてナイトメアに繋げようとするが、ナイトメアはアンドリューを威嚇する。
「おお、怖いね。アンデットキング、ほら、なにぼーっとしてるんだ。お前には行くところがあるんだろ?」
アンドリューは私にそう言う。
「ああ、わかった」
私はナイトメアを馬車に付け直すと、ひらりと馬車に乗る。
「お前の夢は、もう一度王として国を持つことだろ?いまなら出来るさ」
私の行きたい場所。
かつて、人間同士の戦争で滅ぼされた、私の亡国。
アンドリューもまた、魔王城を背にして、歩き出す。
「あ、そうそう。勇者。もう魔王城なんて崩壊してるから、その戦力でも大丈夫さ。ただな、俺たち四天王の結束は厚くて、その程度のレベルじゃビクともしないからな。
魔王を倒しても、この戦いが終結すると思うなよ」
アンドリューはそう言い残すと、去って行く。
勇者たちはアンドリューと、アンデットキングがいなくなる姿を見守った。
そして、立ち上がると、再び魔王城へと歩き出した。
――私は、魔王がその後どうなったのかは、知らない
作者です。
この短編は伸びが良く、評価もたくさん頂いていますので、長編版を用意しています。
少しでも面白いと思ったり、続きを読んでみたいと思いましたら、ブックマークならびに評価を付けて頂けると、モチベーションに繋がり、励みになります。
何卒よろしくお願いします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※