便箋
はらりと一枚、彼女から何かが落ちた。
可愛い便箋だ。落とした視線をゆっくりと上に戻して去り行く彼女の後ろ姿を目で追う。
風が吹いてゆらゆらと彼女の髪が靡く。
ふと落ちた便箋に目を向ければ、その口を閉じるのはなんともいじらしい真紅のハート。
淡い期待を胸にひょいとそれを拾い上げて、烏滸がましくもジロジロと見つめてみる。
あら不思議、宛先も、差出人だって書いていない。てっきりこれは何かの手紙だと思っていたのに。
踊った心と裏腹に、彼女は素知らぬ様子でどんどんと離れていく。
いっそ中身を検めて見ようと思ったけど、きっと後が残るだろうからやめた。
彼女の影と追いかけっこをして、たどり着いた先でそれを踏みつけないようにそっと声をかける。
くるりとこちらに振り向いた彼女は、私の手元を見ると真っ直ぐこちらに手を伸ばす。
そっと手を差し出せば、彼女は便箋をつまみ上げて赤い心臓の形をじっと見つめる。
そしたら少しだけため息をついて、ポケットからライターを取り出した。
カチッという音がして間もなくそれは灰になる。
彼女はそれを見届けて、片手を小さく振って再び髪を靡かせた。
呆気に取られているうちに、彼女はあっという間に彼方へと消えていってしまった。
振り返りざまにいじらしく微笑んだその表情の意味を私はまだ、知らない。