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デッドエンドラブコール  作者: 最灯七日
12/13

第12話 死神の保険

【前回のあらすじ】

悪霊獣、撃破完了。

「う……ん?」

 ミツグが目を覚ましたのは、雲が出て少し暗くなった月光の下。ひんやりとした風を感じながらゆっくりと身体を起こす。

 どうやらここは学校の屋上のようだった。固くて野ざらしにされたコンクリートの地面と、なんとなく忌々しい気分にさせる落下防止用のフェンスが見える。

 確か自分は悪霊獣を誘導しながら追いかけ回され、ゴールの屋上にもう少しで辿り着くところで背後から飛びつかれて頭から丸呑みにされかけて……

「気がついたかい?」

 背後から声をかけられ、ミツグは鬱陶しそうに振り返る。どうせ校内にいるのは自分を除けばゼンゼンマンしかいない。

「あ、今ちょっと雲が出てて分かりにくいよね。明かりを出してあげるよ」

 すっとぼけた声と共に、周囲がゆっくりと明るくなっていく。

 が、そこにいたのはあのムカつくピエロではなかった。黒い全身タイツのような装束に身を包んだ、金髪で妙に整った顔立ち男だった。

「……誰?」

「誰って、え? 分からないの? ワタシだよワタシ! 死神戦士・ゼンゼン……ぐはぁ!」

 金髪男が言い終わらないうちに、ミツグの拳の一撃が男の腹に決まった。

「ビーム出すなら出しやがれ、このくそピエロ!」

「え、ええー!? この流れで殴るの!? って、うわっ!」

 次いで飛んでくる二撃三撃を金髪男はひらりひらりと回避する。

結局ミツグが当てられたのは最初の不意打ちだけだった。残りはどうやっても避けられるので、ついにミツグは攻撃を諦めた。

「……てかピエロの中身それかよ」

「ふふん、思ったよりイケメンでしょ?」

「うるせえよ」

 キザったらしいポーズで女子を悩殺しそうな目線を送るゼンゼンマンだったが、どちらかと言うと美形と言うより「私は美形です」を主張しているような雰囲気だった。

「……コホン。改めて自己紹介すると、ワタシの本当の名前は死神戦士・ラモール。ゼンゼンマンは仮の姿さ」

「仮の姿になった意味は」

「やだなあ、デスゲームのゲームマスターは派手でふざけた奴の方がインパクトあっていいじゃないか」

 ケラケラと笑うゼンゼンマン改めラモールを見ながら、ミツグは深い深いため息をついた。そもそもこいつは素でふざけている。

「死神戦士の一つに、人の魂に害なすものの討伐ってのがあってね。今回のはかなり厄介な相手だったから、人間の協力者がいて助かったよ」

「散々利用しといてよく言うな」

「いやいや、これでも感謝はしてるよ。というか最後、なんか頭から喰われかけてたけど、何をどうやったらそうなったの?」

「そこは思い出したくもねえな」

 ミツグは目を閉じて天を仰いだ。




 あと少しで屋上というところで背後から悪霊獣に飛びつかれて丸飲みにされかけた時はもうダメだと思った。

 ところが悪霊獣はミツグの上半身を口内に入れたまま、そこから先は飲み込もうとしない。それどころかあの長くて気持ち悪い舌がミツグのうなじ、正確には首に着けた例の首輪を執拗にベロベロと舐め始めたのだった。

 正直、気持ち悪いって言葉で済むレベルではないほどに生理的嫌悪でいっぱいだった。というかこいつ、魂を食う化け物なのにどうして本命である魂をほっぽって首輪の方に執着してるんだ。本当に食べられる物とそうでないものの区別も付かなくなる位に知能が低い奴のせいでユラコは死にかけているのか。

 ミツグは涙目になりながら階段を上った。引き剥がしたかったが、そもそも視界を奪われているのでろくに抵抗する事が出来ない。手探りで屋上の扉を開け、後はラモールの指示通りに動いて、仕事終了である。




「てかこれオレ要らないだろ!? 首輪だけあればいいじゃん!」

「いやいや、首輪はあくまで魂の匂いを増幅させるものだから本来は元となる魂がないと作動しないんだよ。まさかミツグ君の魂よりその魂の匂いを増幅させただけの首輪の方を気に入られるのが想定外だっただけさ。どのみち実体化させて体力消耗させるのは必要だったし」

 ラモールは一人で納得してうんうんとうなずいている。

「まあこれでユラコさんも助かるし、ワタシも朗報を上司に伝える事が出来る。大勝利ってやつだよ」

 ニコニコと笑うラモールを思いっきり睨み付けながら、ミツグはふとある事に気付いた。

「ちょっと待て。今「上司」って言ったよな?」

「言ったよ。超怖い上司……ってのは内緒だよ」

「それ、お前以外にもこういう化け物退治する奴がいるって事だよな?」

「うん、まあ実力はピンキリだけど死神戦士はいっぱいいるね」

 珍しく自分の事に興味を持ってくれたのが嬉しいのか、ラモールの声が明るくなる。

「一人でこなせる任務じゃないと分かってるなら、なんで援軍を呼ばなかったんだ? 他の仲間とか来てもいいはずだろ」

 途端にラモールから笑顔が消えた。一瞬にして死んだような目になってがっくりとうなだれる。

「……ワタシ、友達いないんだよね……」

「だろうな」




 後始末をして、元通りにした学校から外に出ると、ラモールはミツグに手を差し出した。

 手、といっても彼の手はまるでアニメに出てくるような金属のようなロボットみたいな銀色の手。

 この指先からビームを出していたりしているのかと思うと、改めてこいつは人間じゃない、本当に死神戦士というやつなんだろうな、とミツグは思った。

「あのーミツグ君、まじまじと人の手を見つめないでさっさと握手して欲しいんだけど」

「なんでお前と握手しなきゃいけないだよ」

「ええっ!? なんでってそりゃ苦難を共に乗り越えた友情の証に」

「絶対要らねえ証だ!」

 ラモールの言葉を途中で遮るミツグ。そんなミツグにムッときたのかラモールは「ていっ!」というかけ声と同時に銀色の手をミツグの頭頂部に置いた。

 その途端、ミツグの全身に電流のような衝撃が走った。あまりに突然だったので悲鳴を上げる間もなかった。

 五秒ほどそれが続いた後にようやく解放されたが、ミツグもそして何故かラモールもフラフラになっていた。

「な、何なんだよ今のは!」

「ワタシからの報酬。死神の加護だよ。これやるとワタシもフラフラになるから無事に任務が終了したら渡そうと思ってた」

「そのビリビリが報酬って頭おかしいのかよ!?」

「今、死神の加護って言ったでしょ!? 加護とはキミを助ける力の事だよ!」

「てめえの加護ならなおさら要らねえよ!」

 むしろ縁起が悪いと一方的にごねるミツグであったが、ラモールがそんな抗議をまともに取り合うはずもなく。

「ま、ともあれこれで任務も終わってお別れだ。これから先はもう何の危険もない、ただの日常に戻れるよ」

「とっとと帰れ」

「もうちょっと感慨深くなってよね!」

 ミツグはほんの少しだけ名残惜しそうにラモールを見た。

 散々振り回された気がするが、こいつと共闘したおかげでユラコを救う事が出来た。

 そして何よりも負けっ放しのデスゲームから、最後の最後に勝利を掴む事も出来たのだ。

 誰も知る事のない、話す事も出来ない戦いだったが、この夜の事はきっと忘れる事はないだろう。

「……みたいな感じのナレーションとか入れたらかっこ良くないかい?」

「ねえから! どんなセンスだよ!!」

 深夜一時過ぎ、近所迷惑というのも忘れてミツグは叫んだ(なおこの箇所は正式なナレーションである)。

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