子猫の3兄妹 父の遺言
第二話の続き。
とら:
僕は、大きな敗北感を味わい、仰向けに倒れた。敗れた。目の前には、僕の小ささをあざ笑うかのような巨大な魚が横たわっていた。既に、頭の片隅から消えかけているグッドなアイデア。それが、全く無意味な代物であったことを痛感した。
僕は、大きく膨れたお腹をさすりながら、まだ見ぬ父の遺言を思い出していた。
「野良猫たるもの食えるときに食え」
野良猫の世界は厳しい。食べられるときに食べておかないと、次はいつになるのかわからない。だから、食べ物は、できるだけ、お腹の中に詰め込まねばならない。荒波吹き荒れるこの世の中を生き抜くすべを、まだ見ぬ父は教えてくれた。
そう、この敗北感は、ミケに負けたからではない。この遺言を実践できない悔しさだったのだ。
しろ:
ふぅ、満足、満足。久しぶりの大満足。もう、お腹いっぱい。もう、食べられない。わたしは、幸せいっぱいのお腹を横たえる。
こんなときは思い出す。お母さんが、いつも言っていること。
「野良猫たるもの食えるときに食え」
はい、食べました。
ミケ:
ミケのお腹の中に、ひとつの生命が宿っています。お魚さんは、ミケに、大きなプレゼントをしてくれました。ひとつの生命は、今、大いなる祝福を受け、幸せの絶頂にいます。お腹の中の生命、それは、もちろん、ミケです。前足を高々と掲げ、感謝を示して、腰を降ろします。なむあみだぶつ。
食べ残しのお魚さんを見て、ミケは思い出します。昨日、お母さんのお尻を追いかけていたオス猫が、お母さんに教えてくれた言葉です。
「野良猫たるもの食えるときに食えん」
確かに、もう、食べられません。食べられるのに食べられないのは、ちょっとだけ、悔しいです。
小さな歯形のいっぱいついた新巻鮭。
その大きく開かれたお腹の中で、仲良く眠る3匹の姿があった。