1話 砂漠の冒険にて
照りつける日光に広大な砂丘の山を見ながら若干の気怠さを浮かべて討伐依頼のため歩き続ける男、ユーリがいた。
その道なき道を歩きつづけて6日が経過しているのに町の一つも見えやしない状況に苛立ちを隠せない表情で口を開いた。
「くそったれー、こんなことなら高い金払ってもラクダ買っとくべきだった」
ラクダ売りの小太り店主のニヤニヤ顔を思い出してさらに苛立ち、ラクダに踏まれて死ねと念じていると地面に振動が走る。
徐々に大きくなる振動音に耳を澄ませ左腰に装備している剣に手を伸ばした次の瞬間、体長10メートルはある討伐対象のムカデ型のモンスターが地面から外に飛び出てきた。
「やっと見つけたぞこの野郎」
ユーリはそう言いながら右腰につけているポーチの中にある鉄の球体を手にとって導火線に火をつける。
ムカデがこちらに向かって猪突猛進してくるのに合わせてユーリはタイミングよくその球体を地面に転がし横に思いっきり飛んだ。
ムカデが地面に激突した瞬間、球体がいきよいよく爆発した。
球体の中には無数の針が入っていたため、爆発の衝撃によりムカデの腹に突き刺さりのたうち回る
「丹精込めて作った炸裂弾だ。よくあじわえよ」
自慢げに言いながらもう一つ炸裂弾をくらわせようとしていると地面の中から何かが砕ける音がした。
全身の毛が逆毛たちやばいと思ったのもつかの間、自身の足場の砂が沈み始めた。
「ふざけんじゃねーぞ、こんなところで終われるか馬鹿野郎‼」
ユーリは必死に沈んでく砂をかき分けて脱出をはかるも上からなだれ込む砂が邪魔して上手く歩けないままさらに沈んでいく。
走馬灯のように色々な記憶が流れる中最後の記憶が小太り店主のにやにや顔だったことに怒りがこみ上げてくる。
「厄日だコノヤローー‼」
そう叫びながらユーリは砂の底に沈んでいった。
夢を見ていた。
「俺将来はお父さんみたいな冒険者になる!」
「そうか‼俺みたいになりたいかユーリ‼」
男は俺の頭をポンポンと叩きガハハハッと大きな口を開けて笑っていた。
『ああ…これ俺の過去か』そう思っていると
「いいかユーリ、冒険者にとって一番必要なのが何か分かるか?」
「そんなの冒険者は強くないと出来ない仕事だから強いことが一番必要でしょ」
そう答えると父はまた俺の頭に手をのせてそりゃそうだと笑っていた。。
そして続けて言った。
「確かに冒険者ってのは強さがものを言う職業だ。けどなそんなのは冒険してれば嫌でも強くなるんだ」
じゃあなにが必要なのと聞くと途端に意識が途絶えた。
目を開けると天上に自分が落ちたであろう穴が見えた。
見た感じ結構な高さから落下したが一緒に落ちた砂が衝撃を吸収してくれたようだった。
自身の身体に奇跡的に怪我が無いことを確認して立ち上がり、周りを見渡した。
暗くてよくは見えないが明らかにこの時代で造られた建物ではなかった。
壁と床は一面真っ白で建物を支えている柱が落ちた所の周りを囲みながら6本立っている。
そして奥に別の部屋があることに気づき近づいて中を覗くと見たことのない機材が置いてありその上にガラス張りの箱が置いてあった。
「なんだよここは、薄暗いし気味が悪いな」
そう呟いていると自身の背後からテクテクと何かが走る音が聞こえた。
すかさず剣を取り音のする方向に身体を向ける。
声を押し殺し注意深く音を探りながら音がした方向に歩いていくと奥の崩落した瓦礫がガタっと動いた次の瞬間に瓦礫の中から傷だらけのムカデが出てきた。
「おまえも落ちたのかよ」
あきれながらも剣を構え対応できるようにみがまえた。
「ぴぎゃー」
何とも併用しがたい声が柱の物陰から聞こえた。
そこには体長10センチほどで白い部屋とは真逆の真っ黒な人型の何かが落盤して日が照らされた柱にしがみついて身体をプルプル震わしていた。
呆気にとられているとムカデがユーリ目掛けて突っ込んでいた。
対応が遅れたユーリはとっさに避けようとしたが間に合わないと判断して剣をムカデの顔に振り下ろしながらジャンプし上手く衝撃を逸らしムカデは壁に激突した。
しかし衝撃の吸収が十分じゃなくユーリは身体を吹き飛ばされ柱に激突した。
意識が飛びそうになるのを根性で持ちこたえ次の攻撃に意識を集中しようとした時自身の身体の一部からぴぎゃーと鳴く声が聞こえた。
「へ?」
なにが起きたのか分からず思わず変な声を出しながらも自身の身体を確認すると先ほどの黒い人型の物体が自身の足にしがみついてプルプル震えていた。
「なんなんだおまえは!勝手に俺の足にしがみつくんじゃねえ‼」
掴もうとするとまたもぴぎゃーと鳴きその手を躱しながら華麗な身のこなしで背中に背負っていたリュックの中に入ってしまった。
そんなことしているとムカデがこっちに突っ込もうとしていた。
「てめえは何度も同じ攻撃してんんじゃねえ!!」
そう言いながらユーリは飛び込んできたムカデの腹に潜り込み剣で切り裂いて切り口に炸裂弾を突っ込んだ。ムカデは悲鳴を上げ悶えるも腹の中の炸裂弾が爆発し真っ二つになってそのまま動かなくなった。
その場に座り込み背中に背負っていたリュック地面に降ろしてしばらくリュックを見つめていた。
「おい、いつまで人の荷物に入ってんだ。いい加減出てこい」
その問いかけに反応がなく業を煮やしたユーリはリュックを開けて中を確認する。
しかしカバンの中に奴はいなかった。
「まったくマジで何なんだ」
ユーリは自身が落ちた穴から見える空をしばらく眺めていた。