プロローグ
冒険者になる前はそれなりに、夢や憧れとか、色々なことに漠然とした期待をしていた。
仲間と旅してモンスターに襲われてる人々を助けたり、色々な場所でたくさんの人と酒呑んで騒いだり、女の子がピンチの時に颯爽と現れて恋をしたり。
そんな妄想を描いて自分の可能性に期待してた。
しかし、そんな淡い期待は冒険者になってから塵と化した。
「あなた魔力がないの?」
「パーティー?荷物持ちくらいしか出来ねえじゃねーか」
「囮役なんだからもっと前で戦えよ」
魔法が基盤のこの世界で魔力を持たない俺は周りに奴らから劣等冒険者の烙印を押され、周りの冒険者からは見下され、やっとの思いで入った冒険者パーティーでも囮役としてこき使われる毎日。
それでも生きるためには感情を押し殺しどんなことでもやるしかなっかた。
俺を見下し、蔑んだ奴らを見返すために一人戦える方法を考えて、考えて、考えて、死に物狂いで戦って、戦って、戦って。
そしていくつも年月がたち26歳で自分の戦闘スタイルを確立して遂にはAランク冒険者に上り詰めた。
しかし俺を見下した奴らのほとんどは冒険で死んでたり、冒険者をやめたりといなくなっていた。
そして周りの環境が見下しと嘲りの目から恐怖の目に変わったのを感じた時、俺は完全に孤立していた。
そんなことは分かっていた。
冒険者に憧れを抱いた思いも、恋も、仲間も、そのための努力もしてこなかった。
自分の命を守ることで精一杯で他のことに気を回す余裕などなかったし、人に関わるのを自ら避けていたんだ。
でももしこの状況を変えることができるなら…。
男は討伐依頼の紙を手に取り、受付に持っていく。
「あ…ユーリさん、討伐依頼ですね」
「ああ」
自身の淡白な声にビクつく受付嬢に若干傷つきながらも平静を装う。
「A級依頼大ムカデの討伐で間違えないでしょうか」
「ああ」
依頼の受理を物凄い勢いでこなし、受理証明書を発行している。
「依頼が受理されました。こちらが証明書になります」
受理書を貰おうと手を伸ばすとまたビクつく受付嬢を見て、何もしてないだろと思いながら軽く顔を見た。
顔には大量の汗が浮かび無理に作った笑顔でたたずんでいたが目が合った途端、受理書を机に置き「それでは良い旅を」とつぶやいて早歩きで去っていく。
受理書を手に取り、討伐に行こうとすると周りの声が聞こえる。
「さっきの受付嬢大丈夫かな?」
「あの人裏であくどいことしてるんでしょ」
「噂じゃ魔力がないんでしょ。なんでAランク冒険者なの?」
「どうせ汚い手でも使って成り上がったんでしょ」
話している奴らを軽く睨むと、見る見ると青ざめた顔に変わり下を向いて動かなくなったのでため息を吐いてユーリはギルドを後にした。
「たくよ、言いたい放題言いやがって」
しかし奴らが言ってた事はけして間違ってない。魔力ありきのこの世界で魔力を持たない俺はそもそも冒険者のスタート地点にすら立てなかったんだ。
だが魔力が無いからこそ俺は考えて魔法にも負けないほどの道具作ってその道具にあった戦闘スタイルを完成させたんだ。
しかし、Aランクになって自分の限界に打ちのめされた。
「Sランクか…」
Sランクの冒険者は正真正銘の怪物だらけだ。
最近だとSランクが2人いる5人パーティーが竜を討伐したと新聞に載っていた。
羨ましいことだ。仲間がいておまけに才能もピカイチ。
「それに比べて俺は…」
握りしめる拳から血が滴るのに気づき、頭を切り替える。
「しかしあいつら俺を悪魔か何かと勘違いしているのか」などと思いながらお店のガラス張りのショーケースで自分の顔を見る。
短髪の赤髪、切れ長で吊り上がった目、頬にはモンスター裂かれた大きな傷。
我ながら見事なまでの悪人顔だと思い、真顔だから怖がられるのだろうか、などと考えてガラスに向かって微笑んでみる。
するとガラスの向こう側にいた子供が俺の渾身の微笑みを悪魔を見たかのような形相で固まっていた。
「あらどうしたのマー君」
「母さん!悪魔が!!悪魔が!!」
ガラスから顔を逸らしユーリは討伐に向かうために歩き出した。