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この街で待ってる  作者: 宮下おとぎ
この街で待ってる #嘘偽リノ街
9/40

嘘偽リノ街 #1 いつも通りの毎日


 深く、深く、海の底に沈んで逝くような感覚。

 視界もぼやけて意識も朦朧としていく。今までの自分は幸せで居られたのかな?今になって多くの事を思い返している。このままでいいのか。いや、きっとこれがいいんだ。


 冷たい  痛い  寒い  もう音も聞こえにくくなっていた。


 後悔は無いさ、今まで幸せだって感じる時間は一度も無かった。


 ------------------------------------------------------------------------------


   ~8月~

 

 いつもと何も変わらない日々、赤黒い空が今日もこの街を照らしている。生暖かい風が心地よくて図書館へ運ぶ足取りが軽くなる。通りの花壇を抜け、図書館の入り口の外開きの扉を開ける。室内からエアコンでキンキンに冷えた涼しい風が外へ放出されるのと同時に僕の体を突き抜ける。外歩きで滴る汗が冷やされ、言葉に表せない爽快感を感じた。


(汗、拭かなきゃな)


 鞄の中から4つ折りにしたハンカチを取り出す。額に当て一息つく。

 

(今日はどんな本を読もうかな―――――。)


 本棚に大量に横並びになっている本を見つめる。自分の好きな本の見つけ方は、本を右手の人差し指で右方向になぞりタイトルだけを見ていく。そして一目で魅入ってしまったタイトルそれを引っこ抜く。普段と何一つ変わらない図書館ルーティーンの一つだ。


 いつも通りの毎日


 不思議な位に心が安らぐ。

鞄の中に入っていた棒飴を口に咥える。


 「思い出せないな...。」



 僕は今年になってから、記憶が断片的だ。

いつの間にかこの街に居て、いつの間にか毎日図書館に通うようになっていた。



 いつも通りの毎日、だが“平和”ではない。


 一日に何回か、黒い影のような生き物や化け物に遭遇する。だが奴らは基本昼間の時間帯は出てこない。この街の赤黒い空では時間の把握が出来ないから腕時計は必須なのだ。


 昼間は普通の街、夜はバケモノの棲む街。


 街の外へは出れない。どんなに外へ向かって走っても、隣町との境界線は霧に覆われ気づけばこの街に戻ってしまっている。町の公衆電話や電話もどうやら機能はしていないらしい。どうやら、外との連絡は取れない様だ。この街に閉じ込められて数ヶ月、この街に馴染んでしまっている自分が居た。


 そんな事ばかりを考えていると本の内容は入ってこない。考えれば考えるほど、分からなくなり脳内を靄が邪魔をする。どうやら今日は本を快く読める日では無い様だ。

 本棚に本を戻し、今日は大人しく帰る事にした。


  ~夕方~


 考え事をしながら街を回った。赤黒い太陽に照らされている公園で黒い影たちが走り回っている。


 (もう、そんな時間か―――。)


 あまり遅い時間に出歩いていると黒い影や化け物と鉢合わせに合う。

昼時間に見ない奴らは一体何処から現れているのか。そんな事を考えながら見つからないように腰を低くしてその場を後ずさる。


 奴らとは今まで一度もコンタクトは取ったことは無いが、あまり関わりたくはない。本能が避ける事を推奨しているような気がした。だが、今日だけは違った。


 違ったというよりかは油断をしたのだ



「縺薙s縺ェ謇?縺ァ菴輔@縺ヲ繧九??」



 2mもある黒い影が僕の後ろに立っていた―――。





蓮は何も覚えていない。

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