ソレガ希望ノ街 #2 神様の力
線路沿いに草木が生い茂る。葉先に垂れる露が上着を掠めた。どうやらこの辺り一帯は昨日雨が降ったようだ。だが、”昨日”と言う表現とは違うだろう。なぜならこの世界は永遠に赤く不気味な太陽が昇り続けているからだ。この雨が降ったのはついさっき降ったのか、それとも何時間も前なのか、踏みしめた足が少し泥に沈む感覚でしか判断ができなかった。跳ね返る泥水で衣類が汚れないか不安になる。自然と僕の目線は彼女の方を向いていた。デコボコした泥道、線路付近を歩いているから足元が心配だった。
そう、僕は無意識に彼女の方を向いたのだ。日差しを受けた目が閉じるように、開けたドアを閉める様に、ごく普通に反射的にした行為だった。だがその瞬間僕は驚愕をした。
ーーー花音に足が無かった。
先日、確かに見た筈だ、影の化け物に足を食いちぎられる所を見た。その後足が修復し、普通に歩いている姿を見ていた。だが今の花音には足はなかった。それは膝から上だけが中に浮いている亡霊の様な、そんな姿に見えた。
「花音、足どうしたの?」
花音の透明化した足を見て思わず声が出た、花音は一瞬だけこちらを振り返るが、それがさも当たり前のように首を傾げて言った。
「まぁ、神様だからね。何が起きてもあんまり驚かないでほしいのだけれども、一応神様だからね、体の構造が色々便利なのか不便なのかわからないことが多々あるのよ」
そう言うと彼女は左腕をこちらに向けた。彼女が目をつむり意識を集中させるとその左腕の肘から先がすッと消えてしまった。切断されて断面が見えるとかではなく、空気に溶け込んでいるように消えていた。
「これはいわゆる“省エネ”なんだよね、肉体を消耗したり、神の能力を使いすぎたりすると存在が消えちゃうらしいのよね、時間で徐々に回復するみたいなんだけど、体の余計な部位を具現化しないとその回復が早いってわけ。だからあまり違和感が無いように使わない部分は消してるのよね、足はずっと歩いてると疲れるからね、浮いてる方が楽だし」
「そしたら別に体ごと消しちゃった方が楽なんじゃないか?体の一部だけ具現化してその他を省エネにしちゃえば回復ももっと早いんじゃ?」
「私に首から上だけの饅頭になれって言いたいのか?」
「いや…それにほら、赤バンドで遊んでたりしてたじゃん」
赤バンドって言った瞬間だった。彼女の右手から赤バンドが僕の首をめがけて急接近してきた。風を切る目にもとまらぬ速さにヒッと声が漏れてしまう。
「真紅のベルト≪ブラッティーバンド≫だ」
どうやら彼女を少し怒らせてしまったようだ。




