嘘偽リノ街 #5 これがきっと始まりの選択。
気が付いた時には僕は声を枯らし、喉を枯らし、涙も枯れていた。僕が握っていた汚れた赤いリボンは涙で湿っていた。この街の事、彼女の事、少しずつ思い出してた。
この世界がコインの裏側の世界だという事。具体的には、表の世界の人間達の裏の人格が棲む場所。人々の怒りや憎しみ、悲しみ等の感情が自制心によって表の世界に居る事が出来ず、そんな哀れな彼らが、この世界に具象化したものがあの影や化け物達だ。
(「---何も怯える事はないさ。その子達は君に害を与えない。“今は”だけどね。」)
まだ未成熟な子供たちに裏の顔は生まれにくい、だからこの世界の子供達は表の世界の人格と変わらず、公園でただ遊んでいただけだった。 ———彼女はそれを僕に教えてくれていた。
僕は電気ポットの電源を入れなおした。
「すっかりお湯が冷めてしまったな。」
枯れた喉を熱々のお茶で潤したい。そしてあの日の事をゆっくり思い出した。
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【過去】
~ある日の公園~
「―――――――なぁ、馴染んで消えてしまうのは本当にダメな事なのか?」
もう元の世界に戻れない。僕はもうこの世界で生きるしかないと思ったら少し楽な気持ちになった。今まで人に自慢出来る人生を送ってきた訳じゃない。いろんな人に迷惑をかけてきた。親にもワガママを言って家を飛び出し、自分のやりたい人生だけを送ってきた。
好きな物を食べて、好き勝手遊んで、がむしゃらに色んな事に噛み付いて来たが、結局自分が何をしたいのか分からなくなった。借金も増え仕事も点々として逃げるようにこの街の錆びれたアパートに引っ越して来た。
「花音さん、俺はもう生きがいを何も感じないんだ。もう生きてても良い事無いって思ってる。」
初めて会う彼女に僕はそう告げた。彼女は少し驚いた顔をした後に僕にこう言った。
「じゃあ、君に私の願い事を聞いてもらってもいいかな?」
「願い事?」
「私を、助けて欲しいんだ。」
彼女は真っ直ぐに僕を見つめてそう言った。“助けて欲しい”と。
「ちょっと待って欲しい、僕はこの世界の事をまだ何も知らないんだ。」
「じゃあ、全部教えてあげる。ついて来て!」
先程までの彼女は少し怖い雰囲気をしていたが、振り返って公園の出口に向かっていく彼女は嬉しそうに見えた。
僕は彼女の後を追いかけて公園から出た。
彼女に付いて行く選択しか僕には無かった。
途中からこのお話を読みだした方には申し訳ないと思ってますm(__)m
このお話は、第一章の「ようこそ、呪われた街へ#8 これがきっと最善の選択。」の続きから始まる物語になる為、ちょっと話が分かりずらいかもしれません(;^_^A
もし、この投稿を機会に私の作品を知ってもらえた方は、是非最初から見直して頂けると嬉しいです!よろしくお願いしますm(__)m