嘘偽リノ街 #3 記憶
両脚は震えていた。
普段の何倍もの速さで脈を打つ鼓動、呼吸の中に体の奥から香る血生臭いが混じる。肺が悲鳴を上げ酸素を欲しがっている。カラカラに乾いた口内は水分を欲して堪らなかった。
連は公園のベンチに倒れ込んでいた。
くらくらする頭を抑え、呼吸を整える事に集中をする。どれだけの距離を走っていただろうか、奴は追っては来なかった。蓮は静かに起き上がる。
公園の水飲み場の蛇口を捻る。少し濁った水が噴水型の蛇口から噴き出した。蓮は勢いよく水を吸い上げた。公園の蛇口独特の錆びた鉄の味がする。それでも水を飲む事を止めなかった。連の乾いた身体はそれでも水を欲していたからだ。
水を飲み冷静に帰る事が出来た。再びベンチに座る事にする。
時計の見ると夜の20時だと気が付いた。この時間は化け物が出没する時間だ。本来は走ってでも家に帰らないと危ないが蓮にその体力は残っていなかった。
夜の20時に太陽がまだ上がっている事、明るい事、化け物が居る事、自分以外の人間が居ない事、何故今までこの現象に違和感を感じなかったのか。明らかにおかしい事に何故気が付けなかったのか。蓮にはこの情景が“日常”だと感じていた。
いつからここに居るのか、何故ここに居るのか。思い返すが自分の生い立ち位しか思い出せない。
だが、この公園だけは何故か頭の中に残っている。この赤黒く街を照らす太陽をバックにキーキーと揺れているブランコの風景を蓮は覚えている。
キーキーと揺れている...?
ブランコは一人でキーキーと揺れていた。小さく、そしてとてもゆっくりと動いていた。
「---何も怯える事はないさ。その子達は君に害を与えない。“今は”だけどね。」
蓮にはそんな言葉が後ろから聞こえた気がした。
振り返った先には小さな祠があった。公園を囲う様に作られた塀の上にそれはあった。
小さな祠を松葉色のコートが羽織るように被せてあった。
それはまるで、その小さな祠を守るように、大切に扱う様に被せてられていた。祠のちいさな石柱には赤いリボンがぐるぐると巻かれていた。
松葉色のコートが風に吹かれてなびいている。連は鳥肌が止まらなかった。
「―――――これは、僕のコートだ。」
ネクスト宮下ズヒーント!!
“視点”