4,5話 異変に気付く者たち
玉座の間のまうしろのバルコニーで、星空を見上げている者がいた。
黒い髪。金色の眼。ドラゴンのような目つきをした男。
ギラ・ランド・ドラゴニア。『龍王』の二つ名を持つ者人類最強の人間にして、ドラゴニア龍国の王様。
「やあ。また一人で星空を眺めているんだね、ギラ」
「星々を見るのが大好きだからな」
雪のように綺麗な白色の長髪。深紅の瞳をした少女がギラの前に突然と姿を現す。
彼女の名はジャンル。ギラの親衛隊ピーナツの『クィーン』であり、れっきとした“大悪魔″である。
容姿は人間と瓜二つであり、悪魔としての翼、しっぽ、ツノを出していない。
彼女が突然と姿を現すことはギラにとって日常茶飯事である。
これ見逃しに自分の前に姿を現しては勝負をしかけたり、からかったりしてよく楽しんでいる。
ギラはそんな彼女の面倒ごとに嫌気しつつも、なんやかんやで楽しむほど、ギラとジャンルの中は深く関係が良い。
「明日、あの二人と会うんでしょ」
「ああ」
「魔法使いの男はともかく、特にあの少女。肉体と精神は人間とほぼ同じだけど、この世界の人間じゃない。聖界や魔界とは違う、どこか別の世界から来てるし、特別な力を隠し持ってる」
「それはオレも知っている。オレの庭で起きたことだからな」
「流石はギラ。ボクが見込んだだけはあるよ」
「明野佳奈を見て何を感じた」
ギラはジャンルを直視し、改めて問うた。
「勇者の力であることに間違いはない。けど、あの力には、何らかの歪なものを感じた」
「歪。やはりお前もそう感じたか」
「その言いようだと、ボクの言葉を聞いて疑問が確信と変わったようだね。
本来勇者の力ってのは神器を媒介と発動するものだ。全ての神器も同様に、力の根幹が神器となっている以上、そこだけは同じだ。
だけど。明野佳奈は神器を使わずに力を使っているし、力に何かしらのものが隠されている。しかも、本人はそのことに気づいていない。これは完全に相当な裏があるね」
ジャンルは不敵な笑みを浮かべた。
悪魔は誰しも人間のように刺激を好む存在であり。面白そうなことがあればそうなるようにことを仕向けることをいとまない。
結果がどうなろうと、事態がどうなのろうが。自分が楽しめればそれでいい、という世知に長けた存在が悪魔だ。
ジャンルの場合、明野佳奈がどんな強者と変貌を遂げるのかが楽しみで仕方なく。力の裏がどうであれ、アナは確実に強者へ成り上がる。
成長したアナと戦いたいと想像する程、ジャンルは戦闘狂悪魔なのだ。
「ギラも分かっていると思うけど、明乃佳奈がこの世界に来たあの日。何かしらのことが起きたことをボクとギラ以外に気づいている者はいる。奴らがどう動くかそこらへんはちゃんとしてるの?」
「この地がオレの庭である以上、そうやすやすと好き勝手にさせるつもりはない。
あの日に起きたことに気づいた者の一部はオレの庭に向かっているが、余程の事でない限りは見逃すまでだ」
ジャンルの忠告通り、世界の見えざることに気付いたのはギラとジャンルだけではない。
異世界の各地で、ギラやジャンルたちと同等、もしくは近い実力を持つ猛者たちは気づいていた。
自分でなきゃ|気づくことができけない《察知できない》ね。と確信できるほどに。
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ファルシオン島にて、パーシヴァルは世界のどこかで起きたことを察知した。
大の酒好きである彼は大量の酒を飲んでいて、じゃっかん酔っぱらっていながら、ごく僅かに起きたことを察知したのだ。
「これは面白そうなことが起こるな」
「何かそういうことでもあるのか」
酒が入った赤い杯を揺らし、パーシヴァルはそうつぶやいた。
彼のつぶやきに対して、仲間であるムサシは問うた。
「予感だよ予感。さっき世界に新たな風が吹いたのはお前も気づいただろ、ムサシ」
「せっ、確かに私も感じた。貴方ほど酒に溺れていなかったから感じれたが」
この追い風がどのようにもたらすかが楽しみだ。
“世界“というのは広く、何が起こるか分からんもの。だからこそ旅は面白くて楽しい。
運が良ければどこかで会うだろう。
いつになるか、どこでどう出会うかは分からんが、その時の楽しみを気長に待つとしよう。
今は酒に溺れることを楽しむとしよう。
『何かに溺れる』というのも人生の一端だからな。
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ガイアス大陸にて、大魔王ベリアルは敵のビームを片手で受け止めていた。
敵が放ったビームは最新兵器そのものであり、その威力は凄まじい。
例え五人の魔王たちが力を合わせたとしても、敵が放ったビームを防ぎることは不可能である。その為、大魔帝が直々に出向いているのだ。
「ん?」
「いかがなさいました。陛下」
「何も。それよりお前は感じなかったのか、イオク」
「いえ。私は何も感じていません」
オレ以外に感じ取った奴はいない。つまりこれは、オレと等しく強い奴にしか感知できなかったということか。
げんにオレより弱いイオクは、さっき起こったことに気づいていない。
もっとも、起きたことがものすごく微弱である以上、気づくのは無理すぎるが。
「ヴラッド」
ベリアルの呼び声に応え、血魔王ヴラッドが姿を現した。
「何用でしょう」
「さっきこの世界の何処かで気になることを感じた。お前に調査を頼みたい」
「分かりました。して、場所は」
「ここより北南、ドラゴニス大陸だ」
ベリアルから調査となる場所を聞いた途端、ヴラッドは咄嗟に姿を消した。
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ルガリア大陸のある施設にて、アルビンとランディグは異変を感じた。
「神々がこうして動きを見せた以上、あの時が近いか」
「そのようですね」
雌雄を決する時は近い。
オレらと神々。互いの正義が絶対に交わらない以上、ここからは聖戦によって左右される。
聖戦を勝利した者が己の正義を実行し、この世界の運命は決定する。
「どこへ行くんですか?」
「勇者がどんな奴かを見てくるだけだ」
「気を付けて」
「ああ」
時間がかなり近づいてきた以上、一秒たりとも無駄にするのは惜しい。だが閉じこもってばかりでは進歩しない。
世界というのは“一つの事″に凝り固まるようにできていない以上、世界に『絶対』はない。
いずれ相まみえるが、この世界に来た勇者の顔を一眼拝みに行く。
扉が閉まった音が部屋に響き渡った。
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それは旅先の途中。事態を察知したアルトスは夜空を見上げた。
(どうやら、シロウは後継者をこの世界へ連れてきたようだな)
(そのようですね。 問題は、シロウが選んだ担い手である勇者が“どのような人物なのか”ですが)
「どの道、行けば分かる。行くよ、お父さん」
そういい、彼女らはドラゴニス大陸へ向かう。
シロウが選んだ勇者が何者かを見極めるために。