第68話 怪物を穿て
無事にミーティアに帰還できた私たちはゴレス神聖帝国での出来事を詳しく話した後、部屋で寝て休んでいる。
きゅう急ぎで立て直したからか外も内部もガタガタで、現在も魔族の人やゴーレム達が協力して治している。
戦いに勝って負傷者の手当てや捕虜を牢屋にいれ、衣食住の確認に色々な調整と、とにかく終わった後が一番大変で忙しかったらしい。
私たちは他のみんなとは違った部屋に指定されてそこにいる。「その方が連絡を取りやすいし、休みやすいから」だそうだ。
「ジャンルさん、大丈夫かな…」
無事にに帰還できたのはジャンルさんのおかげだ。アルビンに勝ったばかりで万全じゃないのに、身代わりになって戦ってくれた。
あの怪物は強大だ。『ジャンルさんが勝つ』のは想像できないし、万全ならなんとか生き延びているかもだけど、アルビンと決着をつけて間もないからその可能性も低い。
「アイツは強いさ。“戦い″は常に厳正だが、悪魔だからずる賢いし何らかの手段で生き残っているさ」
「....そうだね」
エレンさんは気遣って私にそう言葉をかけてくれた。悪魔でも。見知ったり、交流した人は誰だって死んでほしくない。
少しでも血が流れたり、傷つく光景を一目でも目の当たりにするのが視るに堪えないから。
異世界でそれらと対峙することは覚悟していた。『厄災から世界を守りたい』と思ってこの世界へ来た気持ちは現在でも変わらない。
「水差して失礼するが、少しでも休めるうちにやすんでおけ。すぐにあのバケモノと戦うんだからな」
この部屋の光は緑色をしていて、それが【治療光】として私たちを治療している。でも治せるのは“体″だけで心身は自然に回復するしかないから、ほんの少しでも安静に過ごして万全に備えるしかない。
賢魔王さんが私たちをこの部屋に居させたのも理由の一つ。特に私たちが″重大″な仕事がある以上それ相応に待遇している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『さて、作戦を話すぞ』
怪物は数時間もの間その場にとどまっていたそうで、ガイアス大陸だった方へ向けて移動しているらしい。反応が『無』しか観測できなかった為、状況も規模も分からなかったそうだけど、移動すればどうであれ種が分かっていく以上、観測しながら探っていくしかない。
『怪物は世界樹レグドを喰らってより超強大に化すとみて間違いない。レグドは“最果て”から流れて来る力を吸い続けていくことであそこまで巨大で神聖なものになった。
つまり、レグドを喰らわれたら終わりだ』
怪物が誕生したあの時、ミーティアは緋い光と共に警告音が鳴ったそうで、それ以降フリードさんはずっと観測し続けたらしい。
もっと詳しく情報を得るには映像か肉眼で確認するしかないらしくて、剛魔王さんが双眼鏡かなにかでデッキから怪物を確認している。
『化身術』を取得してるガルナさんは『力』に敏感で詳しい為、これ以上の適任がいないから。
『...作戦は以上だ。順番が来るその時までしっかり休んでおけ!』
ドラゴニスを第一に、ファルシオンとルガリアが第二の防衛に。第三をヴォークさんとミダチさんが待ち構えて、最終防衛線となる第四はミーティアを筆頭に私たちが待ち構えるのが作戦の大まかな内容だ。
アルビンが生み出した怪物を倒すには“情報”が必要で、一人一人対峙してそれを持ち替えれば大きな手掛かりになるから。そして戦いを継続して長引く程弱らせれる上に後方で休んで待ち構えれて一石二鳥だから。
怪物誕生は阻止できなかったけど、最悪の事態を視野に入れていたから練っていたらしい。
ルガリアとファルシオンの説得で『自分も行動する』と異世界の神さまたちは決意したからしたから。
ひとりずつ正体を打ち明けて意志を表明し、頭を下げてお願いしたそうで。当然多くの魔族たちは不審がったけど、フリードさんが試して見極めたから協力を認めたらしい。
緊急時なのもあってフリードの判断はある程度許容しているらしい。
「.....ふう」
現在私はお風呂に浸かっていて、戦いで疲れた身体を癒している。
フリードさんの説明が終わった後私はすぐに風呂場へ向かって、頭と身体をささっと洗って入った。
私たちが”最後の要“である以上、その時に備えて少しでも回復するのが私たちの仕事だから。
「ああ....。疲れた後に入る風呂はかくべつ〜」
風呂の水一滴一滴が身体を癒して、魔力を回復している。
魔力の補給はほどほどで全身たっぷり長時間浸かっていても異常は起こらない。風呂好きだからつい長くできるだけ身体を浸けてしまうから、魔力酔いよりのぼせてしまう。
「.......あれ」
「.......んあ?」
先客がいた。ガルナさんだ。
湯気が少し濃いし浸っていて気づかなかった。
ごく小さな盃に酒は入った瓶を乗せた小さなトレイが浴槽の上に浮いている。
「ごっ、ごめんなさい。リラックスしているところを邪魔しちゃって」
「確かに一人でいるのは好きだけど誤解しないで。
それに....酒を飲んでいるからって、酔っても鈍るわけないでしょ!」
少し酒臭いからお酒を飲んでいる。
「飲む? こっちの盃は口つけてないよ」
「気遣いはありがとうございます。たぶん..飲めなくはないとは思いますけど、二十歳になるまでお酒を飲んではいけないので」
異世界だから気にする必要はないと思うけど、立場と状況を履き違えてはいけない。
気になるしちょっと飲んでみたいけど、お酒にどこか抵抗感があるから遠慮なく断れる。それにここでルールを破れば。私自身が腐れてしまうし私が傷ついて一生後悔するから。
「なら仕方ないわね。ああ、だからといって申し訳思わなくていいわ。
『他所に入ればその敷きたりを重んじるべし』って教えがあってね。魔王である前に“鬼人の一人”である以上、その誇りとしきたりを重んじるから」
『郷に入っては郷に従え』に通ずるものがオーガにもあるみたい。こちらの意図を理解して対応してくれてなんだかありがたい。
「じゃあ、私は満足できたので先に上がりますね」
「待って」
湯から出て扉を開けようとしたら呼び止められた。
「一つ聞きたいんだけど。アナ、つい一人で抱え込んでしまうでしょ」
「ーっ!?」
図星を突かれたようで驚くしかなかった。
確かにガルナさんに「怪物に対してなにを感じましたか?」と聞いて少しでも打倒の手掛かりを得ようと思ったけど、お互いに休んでいるからやめた。
「私、ベリアル様やパーシヴァルと会うまでずっと一人でいたから、貴女のような人と対面すると自然と親近感が湧くの」
ガルナさんが言っている事は私にも分かる。
ガルナさんに特訓してもらっていたいつからかに、どこか自分に近い“何か”を感じていたから。
「余計なお節介かもだけど、過度な責任感は自滅するわよ」
「....はい」
これからあの怪物と戦うんだから、安心してられない。失敗すれば異世界は終わるから。だから嫌でもムキなる。
「.....貴女の仲間である男。えれんのことはどう思っているの」
「えっ!? ど、どうしてそこでエレンさんが出てくるの!」
「貴女がエレンにどんだけ信頼しているのかを知りたいから」
盃に入れた酒を飲んでからそう言われた。
顔は少し赤いけど酔ってなくて、それどころか我慢してる様子は一切感じないしみえない。
どれくらい飲んだのかはわからないけど、たぶんガルナさんは酒に強いんだと思う。
「『友達にはどこか遠慮するけど、家族には気兼ねなく話せるでしょ?』って言ってもよかったけど、何も知らないくせにそう言うのは失礼だし、偉そうにいうのは気に入らないからそう言ったの」
「...確かに」
ガルナさんは的確でどこか一理あって納得する。
「何か知りたかったり、相談したいことがあったら.....ひっく。
いづでご私にところへ来なさい!いつでもドンと迎えるんだからぁ!」
「あ....あり、ありがとうございます。
そ、それはそれとして、大丈夫ですか? ガルナさん」
声やら雰囲気からして少し酔っているのが分かる。
正気じゃない状態で風呂場にいると危ない。
「わらしなら大丈夫よ。酔っててもこういうのは慣れてるし、それにわだしはぁーー」
「ーガルナさん!? しっかりして、ガルナさん!」
寝落ちしてしまったガルナさんを急いで救出してすぐに賢魔王さんに大声で呼びかけた。
男だけど緊急時だから一刻も早くなんとかしなきゃいけないし、他のことに目も頭もいけなかった。
女性の魔族たちがすぐに駆けつけて診察して、命に別状はないらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「随分無理させてすぎてすまない、ガルナ」
点滴をうたれながらぐっすり眠っている
ガルナさんを見てベリアルさんは安堵している。
ストレスと心身ともに疲労していたらしい。何せ怨敵だったトリスタンを討ちはしたけど救ったんだから。
自身が復讐を否定して蹴りをつけたから無理もない。
「あの、ベリアルさん」
「なんだ」
「ガルナさんのこと。できれば教えてください」
ガルナさんはベリアルさんが好きだ。そして学生からの付き合いだからある程度は理解している。
ガルナさんには興味がわいた。
他人の事を知る為に身近な人に聞くのは失礼で心苦しいけど、ただエピソードが知りたい。そうすれば心の壁を飛び越えれるから。
「ガルナは鬼人族の魔王の子として生まれたから、魔王としての修行を物心がついた頃からずっと叩き込まれて育ってきた。故にオレと打ち解けるまでは他者への警戒心が強く、力を使う以外の解決法を知らなかった」
思った以上に相当苦労しながら育ったみたい。そんな家庭環境で育ったんなら友達を作りづらい。
「そして、オレに負けた時はそのことを受け入れられなかった。なにせ父以外の誰かに負けたのが初めてだったからな」
その後、悔しそうに何回も挑んできたそうで、教師たちをなぎ倒してたから受けるしかなかったらしい。
勝つ時ははしゃぎながら喜んだそうだけど。ある日を境に中々勝てなくなって、ベリアルさんがアドバイスした事を機に少しずつ仲良くなっていったらしい。
そして。ガルナさんは父親に勝って魔王になった。『魔王に勝った者が次の魔王になる』のが鬼人族の古くからのきまりみたい。
「...話してくれて、ありがとうございますベリアルさん。仮眠したいので部屋に戻ります」
「ああ」
ガルナの両親はガルナを愛しちゃんと育てててました。
ガルナ父は不器用で『弱肉強食である以上強くないと娘が危ない』と思い(不安)が根底になって厳しく辛くともガルナを強くさせたのはそれが原因です。
ガルナにとって母親は心の拠り所でしたが、夫の思いを理解して支える為に夫を選びました。
(補足すると、娘であるガルナにはいい人がいると知って信じたのが夫を選んだ理由)




