第63話 エレン・ムンド
10年くらい前。扉を開けて母さんが倒れた光景は今でもよく覚えている。
ある迷宮を脱出する際に転移の魔法陣で足りない魔力を自身の寿命とか色々補って使ったため、母さんはもって数年くらいしか生きれなかったそうだ。
じいちゃんとばあちゃんが育ててくれて不満と不安もなく楽しく生きていけたが、どこかで生きている父への執着はどうしても捨てきれなかった。
話を聞かされたときからずっと気になっていたのもあるが、何より辛いのは好きな人との別れなのかもしれない。
二年前にじいちゃんとばあちゃんが亡くなって辛くて苦しかったが、成長したから何とか乗り越えたけどどうしても振り切れなかった。
その時に気づいた。目の前で母さんが死んだ光景が、トラウマになっているんだと。
「家族を魔物に変えたあの外道を恨む気持ちは分かりました。
水を差して悪いですが、まずは怒りを静めてください」
グリーン色に光る全面の世界。そしてエレンの目の前には金髪の長髪をした蒼い瞳の少女が立っていて、エレンにそう言った。
「んな事は分かっているさ。でも他にどうしろっていうんだ」
「本当にそうですか?」
「…何が言いたい?」
「私はあなたの″大切なもの″を思い出してください。それが何かが解るまでは、マナはあなたを止め続けます」
「なん…だ、と」
怒りに身を任せれば倒すことは容易い。だが相手はれっきとした善人だ。魔物や悪人、オレの敵なら遠慮なく攻撃できるが。この少女はそのどれでもないからこそ、オレは何もできない………。
「ちょっとごめんなさい。エレンさん」
――バシッ!
オレの左ほぺを少女がビンタした。少し痛かったが手にはほんのちょっとしか力が込められていなくて、
どことなくその一撃にはなんというか。彼女自身の信念と、想いを感じた。
そのおかげでオレは正気に戻れた。取り戻せた。
「――アケノさん…!」
脳内…いや、精神に直接外の光景が伝わっていて、アナは一人でなんとか戦っていた。
……そうだ。オレは、アケノさんを助ける為、力になる為にこれまでついて行ったじゃないか。
「マナっていったな。おかげで目を覚ませた、ありがとう。ひとつだけ聞かせてほしい」
「なんです?」
神器には歴代勇者の記憶や意識が染みつくらしいと明野さんから聞いてはいた。そして、剣の神器を手にしたオレの目の前にマナが現れた。
これはオレの憶測だが、もしオレの考えがあっているなら。マナは先代勇者本人だ。
「こうしてオレの前に現れた経緯というか。今までずっと近くにいたのに、どうして何もしなかったんだ」
「君は何者なんだ?」などを言えばマナの正体を知れるが、今まで何もしなかったことを問い出さなきゃい けない。それを明らかにしない以上安心する事ができないし、納得できない。
それにかつての剣の神器と共にいたファルシオンとルガリア。アルトスの三人も、その中にマナがいれば当然気づく。信じて疑わない訳じゃないが、彼らは味方なのは明白な事実だ。
問題なのは、その三人ですら知らなかったんだ。その点だけはどうしてもはっきりしたい。
「……私の″好きな人″を感じて、こうして目覚めたというか、復活したばかりなんです。そして剣の神器を介してエレンさんに気づいたんで、止めたんです」
「そのすきな人は?」
「名前も姿も顔もなにもかもが失われていて、答えることはできませんが。少なくとも、マナが小さい頃に恋したって事だけは確かなんです。
だからこそ、マナが好きな人が誰かを見間違えはしません!」
その顔には自信と覇気に満ちていて、まっすぐで眩しく力強い表情だった。
「…….......」
好きになった人のために努力して強くなる!と決意したのはお互いに同じなんだな.......。
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「待たせてしまったな、アケノさん」
絶体絶命の状況に風の斬撃が横から介入してその事態を引き裂いた。
エレン・ムンドの姿が目に入ったアナはただひたすらになって走って抱き着いた。
「あ.......明野さん、これは.......!」
「エレンさんが正気に戻ってよかった……!」
自分が取り乱してしまってアナに迷惑をかけてしまったことを言おうとしたが、抱き着かれて頬を赤らめたと同時に何を思ってなにを言おうとしたのか全て吹き飛んでしまった。
「話し合いは終わったかな?」
アンブロシウスの言葉を聞いて我に返ったが、二人とも冷静で静かに態勢をとってから行動した。
「ギガブェレイ!」
少しの間強く手を握り終えてからエレンは走って剣を取り出して力をまとって攻撃した。
燃え盛る紅蓮の炎が放たれて、その合間に斬りかかったが、どれも防がれた。
主天使の権力で鉄槌の剣を出して対応し、一度ぶつかっただけで壊れると解っていた為その度に出して防いだ。
「相方の魔力を受け取ることでその力を使えるようにするとは。面白い」
エレンはこっそりアナに自身の魔力を少しだけ送っていた。故に剣の神器がなくてもその特性を行使することができるが本来の10分の1,5程度しか発揮できずすぐ切れてしまうが、使えればそれだけで十分。
アナが打撃を加えた直後に風の斬撃がヘルメスを襲ったが、当然無意味に終わった。
軌道を読んで把握して、打ったタイミングに重ねて放っていた。何のアイズもコンタクトもなく解って実行したんだ。
「剣を全然握った事がないのに様になってる力度に構え。
そうか。だから様になっているのか」
神器には使用者の経験や意思が蓄積される為、素人が持って戦えばそれらと一体となって強くなれる。
だが今回は先代使用者であるマナの思念が一体となっている。本人が直接戦っているに等しい。
「もう少し体つきが良くて力があればアンタを斬れたかもしれないですね」
「すまねえなマナ。オレの力が弱くて」
「大丈夫です。責めているわけでも、不満を言っているんじゃねえですからーらっ!
エレンさんの身体はエレンさんのもの。マナが決める権利はないですし、有ってもする気は毛頭ないですから」
「そりゃあどうも!」
「神器の力がこもった魔力を渡すことで一時的にその力を得るとは....面白い!」
「...よしっ!」
合間も挟む間もないまま隙を見て一撃を加える事に成功した。
アナの髪とオーラが薄い緑になっていて、エレンから少し魔力を貰ったことで一時的に剣の神器の力と一体になっている。
故に神速の速さで移動することが可能になってアンブロシウスはアナを捉えることができなかった。
「...アイツが四つに分裂した!?....ー! 危ないアナさん!」
「..? ーっ! 危なっ!」
純白の四翼を持つ全身真っ赤な牛に白い鷹、そして黄色の獅子がアンブロシウスから出現して瞬時に襲いかかったのだ。
「どうなっているんだ...」
「...そういうことね」
「私は熾天使だけでなく。智天使、座天使、主天使、力天使、能天使とそれぞれの聖族の特性を獲得する事に成功したのさ。
この聖獣たちは私の自我であり一部さ。智天使は叡智に優れているだでなく、4つの自我と視点から物事を捉えることができる。この意味が分かるかね?」
(つまり、激マズになったってことじゃない!)
牛と鷹がエレンを襲い、獅子とアンブロシウスがアナを襲った。
灼熱の烈火と激しく激しくギラギラする雷に強烈な風が降りかかるが剣の神器で対応する。
対するアナは体感力で敵の位置と攻撃する瞬間を把握して何とか防いでいた。
(このままだと詰むのは確実だ。何とか打開策を見つけなきゃいけねえ...!)
(なにか.....なにかっ!!)
隙を与えない怒涛の連続連携に二人は追い詰められる。
何とか最低限にダメージを負わないよう対処しているが、それも時間の問題。すぐにこの状況を打破しなければならない。
「ーうえっ!? ど...どうしたのエレンさん!」
避けて防いでいたときエレンさんが目の前に現れて急に私の手を握った。
強いけど痛くしないからか程々だ。
「お二人の力を一つにしてください!」
ものすごい動きをしていたからエレンさんじゃないのは分かった。
アンブロシウスにこの状況を打破する方法を悟られないようするにはこうするしかなかったらしくて、「あなた、エレンさんなの?」と言おうと瞬間に急に頭に少女の声が聞こえた。
「力を一つにって...剣の神器に力を込めればいいのか?」
(いいえ。一つにするのはお二人自身です」
「どういうこと?」
「神器は元々、一つに集結させて使うために作られたものです。だからこそ、その力を持つエレンさんと明乃さんが意気投合することでその真価が発揮できます」
全然意味が分からないけど、ポタラやフュージョンなどの合体とは違うみたい。けど今は、マナさんが言っている事にかけるしかない。
「力の高まりを感じる。
……なるほどそういうことか」
三体の聖獣が全てアンブロシウスに戻った。二つの神器を足して数倍に強大になったアナとエレンに対抗するにはこうするしかなく、自分を含めた分身たちは皆雑魚でしかないからだ。
「エトゥス…」
「エトゥス…」
お互いに顔を一目見てすぐに戻した。
自分たちは今こうして繋がったことで緊張して落ち着きたかった。そして気になって視線が合ってほんのちょっとだけ照れてしまったが、すぐに緩和された。
「カリバ――!」
「カリバ――!」
黄緑色の風と一体となった斬撃が放たれて“触れるもの“全てを斬り裂いた。
時空すらも超越してどこまでも飛び出して行くであろう力。それはアナとエレンが深くなって一皮むけた記念日となったんだ。
風を超えて光よりも速く駆け抜けた一撃にアンブロシウスは思考する間を消されて消滅した。




