第51話 進む
「ああもう、しっかりしてください。あなたはまだ生きているんですから」
.......だれ?
「私が誰だったか分かないので答えられないけど、少なくとも女だったとは確かですね」
女の人の声だから一言聞けば分かる。どういうわけか分からないけど戦意喪失した私に代わって戦ってくれて、全力を出したランスソッドさんに全て対応しているからかなり強い人なのは確かだ。
「気持ちは分かりますが今はちゃんとしてください。コイツを倒さないと終わりなんですから!」
エレンさんは私の目の前で真っ二つに斬られた。そしてその死体が目の前にある。
エレンさんに特別な力がないし都合が良いことが起こらない。
「あなたの好きな人は生きていますよ」
くだらない嘘はやめて。私を慰めようとしているのは分かるけど、エレンさんが死んでしまった以上どうしようもないじゃない……
「嘘じゃねえです。あなたの好きな人はあの人が守りましたから」
.......あの人?
「私が好きな人です。あの人の事は全部お見通しですから」
あなたが好きな人が誰なのかさっぱりわかんないけど、どうしてそんなことが分かるの?
そもそもエレンさんは確かに斬られてすぐ目の前にその遺体があるのに、どうやって守ったというの。
そもそもこの状態からどう“生きている”というのよ。
「あなたの好きな人...エレンって人が斬られる寸前にその人の【魂】が消えたのを感じとって目覚めたので全然分かんないんですけど、たぶんエレンさんは攻撃を受けていません」
どういうこと? あなたが言っていることが全然理解できないんだけど。
「ええと....。
エレンさんの大事な”部分“?をあの人が守ったから肉体だけ傷ついて仮死状態になっているんです。
コイツを倒してその人の体を治せば元に戻るはずです」
つまりエレンさんの【本体】的な部分が守られたから助かっているってことなんだと思う。
【本体】を持つ不死身は本体がやられない限り絶対にダメージが通らないようにそういう仕組みで守られているらしい。
にしてもこの人が好きな人は一体何者なの...。
「……立ち直りましたか」
「まだ完全じゃないですけど、今はあなたをぶっ倒すだけです。ランスソッドさん!」
エメラルドグリーン色の髪に色がまして新緑色となって神々しくなり、オーラの光度が強くなった。
剣の神器をランスソッドに向けて高らかに宣言した。
「いくわよ。準備はできてるよね」
(もちろんです。そっちこそ、心と体の調子は大丈夫なんですよね)
「当たり前でしょ」
お互いに光よりも速い勢いで瞬時しゅんじに畳みかけ続けて少しの間もの凄くすさまじい攻防戦が繰り広げられた。
剣の神器による斬撃ともう片方の腕による攻撃を突斬槍剣と片手で防ぎ続ける。
「――よしっ! これで突斬槍剣は全て潰した」
「――――」
「――しまった!」
(油断するんじゃねえです。まだ戦いは終わってねえんですから」
突斬槍剣を破壊して有利な状況へ持って行けた事に喜んでいた隙にランスソッドは強力なパンチを繰り出し、それを相方が防御の姿勢に変えてダメージをやわらげてくれた。
ランスソッド・クロスは“あらゆる“状況下で問題なく戦えるように時間をかけて様々な訓練をその体と精神に染み付かさせている。
アロンダイトを持った状態が最強なのに変わりないが、相棒を失った喪失はそこまで大きくない。
「――ならっ!」
剣の神器を身体に戻してこちらも肉弾戦で挑んだ。持ったままで戦えば確実に飛ばされるのが目に見えていた。少しの間とはいえ剣を交え合った以上、剣士であるランスソッドさんにはこちらの事は筒抜けだから。
拳には拳をぶつける。
「――! ……見事」
しばしの間拳と拳、足と足のぶつけ合いが繰り広げられ。勝機の瞬間に嵐をまとった剣の神器で真っ二つに斬りさいた。
「これが、私の終着点。短くも良い人生でした」
ランスソッドさんの姿と髪の色が元に戻っていて全身が少しずつ塵となって消滅していく。
「一つだけ聞いていい?」
「なんです?」
「どうしてシリウスに着いたのか、それを教えてほしい」
アルビンによって生み出された空想の存在とはいえ根幹は同じだからちゃんとした動機と理由がある。
ただそれを知りたい。
「もうすぐ復活する超災害を倒すからです」
「ーー! どうしてそれをっ!?」
「アルビンが聖族だったからこそ、この世界の歪と異常だと気づけたのです。聖族は【空間】に対しては敏感らしいので」
「私はアルビンによって作られた空想の存在ですが、私は彼の信念と覚悟に心打たれたからこそ、私は心から協力したいと思ったからこそアルビンの味方についたのです」
アルビンは『厄災』の事を知っていた。だから『怪物』を生み出す為今まで暗躍し続けてきたんだ。ミダチさんの神殿で観た「オレたちを倒さない限りこの世界に未来はない」はそのままの意味だった。
自分の計画を邪魔されると分かった上での挑戦状と忠告であったんだ。
「アルビンに利用されてると疑問に思わなかったの?」
「確かに私がアルビンの味方になるように計算されて作られた事に変わりないですが。アルビンは私利私欲で他人を利用するだけの小物でもなければ悪人でもありません」
ランスソッドさんは塵となって消滅した。
(――ここからの打つ手は……ないか)
二本の刀を同時に破壊された上にすぐそばまでの接近を許してしまった。折られたのなら復活させるまでだがその間すらも潰された。
「――おおっと!」
ムサシの足がラモラックに蹴りにいったがラモラックは間一髪避した。
「その全体の覇気すら剣だったんだなぁ。面白い 」
剣を使えなくなった剣士は羽をもがれた鳥と同じく無力となる。だが究極斬刀剣の前だと話は別だ。
この剣技はオレの“全て″を剣と一体となるものだが、裏を返せば相方の方もオレと一体となる。
そして拙者にとって「愛刀」は親友だ。他者からすればどこにでも売っている安物刀だが、拙者が幾度の年月をずっと共にしてきたかけがえのないものなのだ。
『異端で障碍そのもので作った存在を自覚しながら降り来襲もの斬り伏せるお前の覚悟と意思。見せてもらった。
だが汝の友が異端と障碍であることに変わりない以上忘れるでないぞ。ムサシ』
『汝がアビスと共にあるように、アビスもまた汝と共にある事を』
師匠がオレに警告として送ってくれた言葉で、拙者はほんのひと時も忘れることなく肝に銘じ続けている。
子供が何かの玩具に名前を付けて遊ぶように拙者は相方を親友と信じて疑わず今までそうやっ生きていた。
何故拙者自身がそうしたのかは拙者の狂気そのものがそう仕上がったか、或いは最初からそうできていたかららしい。
純白な赤子が善人か悪人かになるように『狂気』とはそうゆう風に仕上がると師匠は言っていた。
「やっとお前の相方も戦ったか。熱くなるなあ! そうだろぉ!?」
「ーー当たり前だ!」
「ーーへっ!」
ムサシの“全て″は出し尽くしたが相棒の方がまだだった。全力全開となったムサシたちを見てここからが本当の勝負だとお互いに悟り合った。
相棒と一心同体となったムサシは想像を絶する動きと化している。全身をたぎる覇気から無数の斬撃が無数に放射され、一撃一撃がより強力となった刀剣で畳みかけている。
「これが、お前らの本当の全力!」
ムサシたちの攻撃にラモラックは全て対応し続ける。激しい攻防戦にが更に強烈と化して衝撃波も音も出ない。“究極“の力同士の衝突は何も生させず全て斬り伏せてしまうんだ。
「――っ!」
「……オレの負けか」
ラモラックの腹にクロス型の傷跡ができ金色の血がこぼれては消滅していく。
刀剣の作戦で両者のつるぎ同士がぶつかり合って消滅した瞬時にムサシと融合したことで全速で瞬時に再生させてラモラックを斬りかかったのだ。
相棒がとっさに閃いた作戦であって、その瞬間お互いに一旦手距離を取ったおかげで何とかラモラックを出し抜くことができたのだ。
「どうやら決着がついたようだね」
「....それにしても。まさか君がここまで強かったことに彼はおろかボクだって驚くしかないよ。
.....アナ君を助けてくれてありがとう。サクヤ」
アナ覚醒→ランスソッド圧勝
でもよかったんですけど、株を落としたくないのでこの結果に落ち着かせていただきました。
ムサシ&相方vsラモラックは異次元の戦いを意識して書きました。




