第33話 頂魔王
咄嗟に力を感じた拙者は即座に刀を抜いて斬った。
できれば全員助けたかったが、助けられないと確信して自分の身だけ守った。
ヴォークと拙者はパーシヴァルたちの更に真上にいたから転移されていない。
魔族が転移魔法を使えたのは流石に驚いたが、ガイアス大陸が未知の領域である以上どんな事が起きても不思議ではない。
転移を斬った後、拙者はタイミングを見て【勢い】を斬って着地した。
身体も刀も無事でほんのちょっとしか力を使っていない。
自然豊かに満ちた森の中に着地したようで、辺り一帯を漂う″力″を感じる。
ガイアス大陸が『地脈地点』である以上、地脈から溢れる力の影響を受けるのは当たり前だ。
環境と生物に変異をもたらす。場合によっては滞在しただけで命の危機に瀕するが、「五輪の型」をマスターしたオレなら例え地脈が濃い場所にいたとしても問題なく活動できる。
魔物の気配を全然感じない。
地脈の影響を最も受けるのが魔物である以上、「魔物を殲滅した」と考えるのがごく自然だが、どうやら拙者を見ている者が複数いるようだ。
「火の型――光剣刀!」
犬の魔物が一匹拙者にふいうちをかけた瞬間、即座に斬った。
数十数百の魔物が一斉に姿を現して攻撃を畳みかけてきたが、拙者はもう一本の刀を抜いて次々に防ぎながら斬っていった。
「人間が数百の大群の攻撃を受けて無傷でいるとは中々の者だな。貴様はかなり手強い相手のようだな」
「貴殿がこの群れを操っているリーダーだな」
「いかにも。獣族を束ね、この森を支配者である、頂魔王べロスはオレ様の事だ!」
頭に黄金の毛をした人型の獣で、野性的威圧に覇気を発していた。
周りにいる魔物の大群からもべロスという者と同じ覇気が発せられていて、べロスが操っているのが確定した。
「使い捨てとはいえ下僕の数は有限だからな。だからこそ、このオレ様が直々に相手をしに来たのだ。 光栄に思え」
「拙者の名はブゲ・ムサシだ。貴殿と争う意思はない。できれば拙者を見逃してほしい」
「それは無理だな。貴様はオレ様の縄張りに土足で踏み込んだ。その報いは受けてもらう。
それに、貴様は強い。 貴様を叩きのめした後は我が下僕として大事にこき使うと決めた」
ムサシはほんの一瞬だけべロスを直視した。
「そうやって、この魔物達を操っているのだな」
「その通り。 この森の魔物は雪原地帯の魔物にかなり劣るが、それでも強さと数は抜き出ている。
我にとっては宝の山も同然だからな。
叩きのめしてから我の下僕として支配したのだ」
「それは獣族も同じか」
少なくとも今この場にべロス以外の魔族の姿が見られない。
べロスが『獣族を束ねる』魔王と言った以上、この森のどこかに必ず獣族の魔族がいるはずだ。
「道具共のことか? 道具共ならオレ様の城でせっせと働いている。
中には我の首を狙う者は多くいるが、ただそれだけの事。
無駄話はこれくらいにして、狩りを再開しようか」
「そうだな」
ヴォークは上空で何者と戦っている以上、パーシヴァルたちと合流するにはここを突破する以外に道はない。
獣族の行方は気になるが、少なくとも生きてはいるそうだ。
「水の型。氷雪斬!」
凍てつく力を両方の劔にまとってムサシはべロスを迎え撃った。
“獣″の一番の弱点は『寒さ』。少なくとも「冬眠」という言葉がある以上、べロスを含めたこの大群全てに一番効きそうだと判断した。
「オレ様の爪が!」
べロスの爪がムサシの劔とぶつかり合った瞬間、べロスの爪の大部分が凍ってしまった。
べロスの爪とぶつかった瞬間、ムサシは刃の″冷気″を変化させて【烈凍斬】にしたんだ。
『五輪の書』をマスターしたムサシは【力】を自在に操る事ができる為、常識外れのことを起こすことは容易い。
「……仕方ねえ。 下僕ども!コイツを叩きのめせ!」
べロスの一言で魔物軍勢が一斉にムサシへ総攻撃をかけた。
べロスは一旦後ろに下がって体勢を立て直し始めた。
「氷雪刃!…氷雪斬!」
斬撃を放っては再度劔に力をまとわせ、斬撃を放つ。その動作を繰り返しながらムサシはべロスの大群を次々に斬っていっく。
ムサシの動きにムダはなく、ほんの少ししか力を使っていない。
もはや単調作業でしかなかった。
「よくやってくれた下僕共。そのままそいつの攻撃を続けろー!」
「――くっ」
復帰したべロスが早々に追撃をしかけて来たが、ムサシは問題なく防いだ。
べロスの爪は氷雪斬に触れているが、全然凍っていない。
べロスの爪に向かって火炎に変化しかけている魔力が流れているのを気づき、それで凍結を防いでいるのだとムサシは理解した。
「お前は強い。だが、お前とソレがいつまでもつかな」
「ー!」
劔に力をまとわせたのはべロスたちの有効打なのもあるが、主な目的は「刃の保護」。
ムサシが使っている刀二つは“ただの″刀。切れ味がそこそこしかなければ、簡単に壊れやすい。
それにムサシの魔力は少ない。
氷雪斬はまとえさえすればそれでいいが、魔物の大群を相手に半分以上の魔力を費やしてしまった。
少し刃を交えただけでべロスはムサシの剣技の仕組みに気づいたからこそ、魔物に一斉攻撃させたのだ。
魔物の大群は問題ないが、べロスには常に気を向けていなければいけない。
魔王なだけあってべロスは強くて、動きが早くて無駄がないからだ。
今のところ身体に損傷はほんの少ししかないが、気を使い過ぎるとべロスに勝てなくなる。
例え勝てたとしても、その先には大勢の魔族に魔王や魔物が待ち受けている以上、力と気力を温存しておく必要があるからだ。
「――もらった!」
好機を捉えたべロスは自慢の爪でムサシの刀を切り裂いた。
ムサシの魔力量がほんの僅かとなり、氷雪斬の効力が衰えたタイミングを見計らっていた。
刀は二本ともパキッと壊れた。
「カーハッハッハッ!
剣が使えなくなった剣士なぞ、手足を壊した獲物も同然。
この狩りはオレ様の勝ちに決まったなぁ!」
「それはどうかな」
「なに!?」
「我は器を担いし影なり。万物の波動、星の熱光、天上の息吹。
あまねく現世を影より用いて、器と交じる!」
刃が折れた二本の刀に白き氷雪に青の水。赤い火炎に黄色の光。紫の雷電と緑の風が折れた刃先に宿って新たな矛を精製した。
実体を持った魔法剣であり、器は力と完全に一体となっている。
初代剣聖が編み出した最強の剣技である【究極斬刀剣】。
″究極の矛″を作り出すという性質上、ムサシはそれを利用して最強の武器を手にした。
「バカなっ!! 折れた刃から新たな刃を作り出しただと!?
こ、こんなことが!」
「…いくぞ」
「――! いけお前ら!」
べロスは半分の魔物たちに特攻を命じた。
だがムサシが刃を少し振っただけでほぼ斬り倒された。
「覇空刃。」
すかさず、残った半分の魔物たちが個別にムサシに追撃を仕掛けていく。
(み、認めたくないが、アレを手にしたお前は強すぎる。
俺様に匹敵する下僕でさえ手も足も出ずやられた)
「仕方ない。できればベリアルを倒すときまで取っておきたかったが、今のお前を倒すには“全て″を出し切る気でいかなきゃいけねえ!」
べロスは即座に瓶の紅蓮の液体を取って飲んだ。
強い光がべロスの全身から放出しながら力が溢れ出してくる。
「これが、敵の力か...。
すばらしい! 素晴らしいぞ! 力がどんどん漲ってくる!」
教団の最高位者であるシリウスは皆、不死身の存在で強大な力を秘めている。
敵を調べる為賢魔王が採取してたものの一つで、それをべロスはフリードと取り引きして手に入れた。
「―心意一閃!」
「これが、今のオレ様の力と身体。
想像以上だ。だがそれでいい!
これこそオレ様の念願だった『圧倒的な力を秘めた最強の肉体』だあ!」
何とかべロスの攻撃を受け止めたムサシ。
さっきまでのときとは全然比べものにならない程にべロスは完全に強い存在と化していた。
獣族は魔族の中で血の気が一番強いため、下剋上や弱肉強食を当たり前としています。




