第32話 第二ラウンド
「愚かな事を。あの姿のままでいれば今の我を倒す事など容易い筈だ」
「お前の言う通りだが、最初からこの姿で行く事は決まっていたんだ」
オレの力は強すぎるから万全の状態だと力を制御できないから結界の破壊である程度の力を消費してから使おうと思っていた。
強すぎたり多すぎる力は毒になるからな。
人の身体は無駄がなくて色々動きやすくて便利だが、思った以上にもろいから気をつけなきゃいけない。
ほんの数回、アナやジャンルと手合わせして練習したからある程度慣れたしコツも掴めたから、この姿での戦闘は問題ない。
そして″人″の動きや特徴をオレは知り尽くしている。生涯幾度もオレに挑み続けた一人の人間であるパロミデス。
竜生の殆どをアイツと戦いを繰り広げていったからこそ、オレは人の″動き″を熟知している。
「……ここからは全力で行く!」
そう言った直後、ヴラッドは次々に分裂していく。
さっきの戦いの反省してのことか、次々と大量の分身を生み出しながら早々と次々に攻撃を開始していく。
「血槍雨撃!」
「血放息吹!」
ヴラッドたちが一斉に攻撃を畳みかけて来る。
威力はベースと同じで、僅かながらに差はあるがどれも全然劣ってない。
ヴラッドの分身はベースと同じ存在を作り出すという性質上、数十数百に数を増やしても同じだ。
しかも分身体が全部独立している以上一気に倒さなきゃ終わりで、例え倒せたとしても″魂″が残っていれば意味がない。
始祖として覚醒したヴラッドは魂からでも復活できる。
流石のオレも魂に直接攻撃することができない以上これに関してはお手上げだ。
「いいないいな! これだけの数に攻撃されたのは初めてだ。熱くなるぜ!」
燃え盛る火炎のようにたぎっているオーラを全身から発しながら、オレは包囲連撃を貫通したり避わしたりながらヴラッドを倒していく。
ヴォルガニック・バースト。
アナとアルトスを見てマネた技で、オレの闘気と魔力を全身でたぎらせることで数倍の出力を発揮させる。
この姿になったばかりからか、体内を全身まで駆け上ってくる感覚が少し気持ち悪いが何の支障もない。
「…分かったぜ! なぜお前が大量に分身しないのか!」
ヴラッドの分身は『自分自身の複製』。ヴラッドの記憶、特性、意志、思考、魔力の隅々まで完璧に複製する。
だからこそ、それそのものが長所であり弱点でもある。事が済んで時間が経てば「どの自分が正しいか」の論争が必ず起こる。
殺されたら終わりのオレたちと違って、魂から復活できるヴラッドにとっては後処理が非常に難しい事だ。
分身体の全てを吸収するのが手っ取り早く済むだろうが、吸収した個体の影響を受けてしまうだろう。
「よく私の弱点が理解ったな。 お前の言う通り、私が大量に分裂しないのはそれが理由だ」
一人のヴラッドが大声でオレの問いに返答した。おそらくソイツが複製体の中心となったベースであるのは間違いない。
「随分と感情が顔に出て来たじゃねえか。さっきまで無表情だったのによぉ」
「激戦を繰り広げたのは久しぶりでな。ここまで追い詰められて初めて、感情が激しく湧き上がっているからな」
私はベリアルのようにただひたすら肉体を鍛えたことがなければ、賢魔王のようにコツコツと知恵を蓄える必要もなけれな、色々試したこともない。
あらゆる経験や積み重ねが魔族の中でもっとも浅いため、ここまで追い詰められたことで初めて、感情が揺らいでいることを実感した。
数年前に「魔族の未来」と「自身の安寧」をかけてベリアルと戦ったが、引き分けに終わった。
ベリアルは私を殺す気が一切なく、私を見定めて理解しに来た事に気づいたからだ。
血と暗闇の空間。そしてただ静かで安寧を望むヴァンパイアは野心を抱くことは滅多にない。
獣族のように血生臭い事を起こすことはあれど、それは野望を持った者か血欲に飢えた者だけ。
吸血鬼は喰らった者の【血】を通して記憶を得ることができるが、始祖として覚醒した私は喰らった者の記憶だけでなくその者の【特性】すら我がものにすることができる以上、何もかも極める必要がない。
「お前は強い。私が戦った中で一二を争う程にな。だがそろそろ限界が近いんじゃないか?」
「お前の言う通り、オレの力はそろそろ尽きるさ。
.....だがな! はいそうですか、ってやすやすと負けられねえんだよ!」
パロミデスは人ならざる者と化しても「信念」だけはブレることなく最後まで貫き通した。
オレの覚悟はアイツの決心に全然及ばないが、オレはアイツのおかげで勝負に対する情熱を取り戻せた。
「お前の身体はとうに限界を迎え、力も尽きたはず。何故そんなに力を出せる?」
「んなことは知らねえよ。オレはお前と戦っている。ただ、それだけのことだ!」
始めた勝負は最後まで突き通すもんだ。途中で勝負を放棄すればオレ自身も相手も裏切ることになる。
これは“勝負″に対するオレの『信念』と『想い』であり、オレ自身のルールでもある。
ヴォークの全身から火炎が溢れ出ている。全身をフルに力を漲らせている為、火炎をまとった不死鳥のごとくヴォークは完全に炎に包まれていた。
「血槍雨撃!」
「血放息吹!」
「血身特攻!」
ヴォークの狙いを阻止するためヴラッドたちは出し惜しみなく総攻撃をかけた。
ある者は吸血鬼族の姿のまま遠距離攻撃を仕掛け続け。
ある者は血喰怪物となって強力なブレスを畳み掛け。
ある者は奥の手を使って何としても阻止しようとして。
「……ヴォルガニック・ノヴァ!!」
核爆発に相当する大爆発が発生し、ものすごい勢いと速度で炎が全てを飲み込み焼却していく。
だが即座に虹色の光が炎の衝撃波を食い止め、
収まった直後に涼しくて気持ちい風が吹きだし、火炎を消化していく。
「わた…しは、まけたのか…」
ボロボロのヴラッドが地面に倒れていた。
自身以外の自分の姿は見当たらず、魂の気配も形もない。
自分と同じくボロボロに倒れていたヴォークだけ。
「何故私は負けた?」
「それは、勝負に“思い″がなかったからじゃないか。お前はただ、オレを″倒す″事以外に何もかも持っていなかったからな」
「……そうか」
ヴラッドの分身について例えるなら、
トゥ◯イスに近い本体縛りがなく全ての個体に刻々帝を持った狂○のようなもの。
ヴラッドは比較的におとなしいですが、同族嫌悪ならぬ自分嫌悪が起こるのでどの道争いは避けられません。
二人か三人に収まっていれば平和を長く保てると思いますがそれも時間の問題(ただし、問題を起こすのが数百年以上かかりますが)




