プロローグ 後半
目が覚めた時、見知らぬところにいた。
辺りは緑一面の草原で、上空には綺麗な青空の世界。
ここが俗にいうあの世。
天使たちが住む天界のようなところで、魂となった人たちがいるようなところだと想像していたけど、思ってたものより全然違っていた。
ここがあの世だとしたら、今私がいるところは天国ってことになるけど、
確か天国に行くためには閻魔大王という偉い人に決めてもらう必要があるんだっけ。
私はまだ閻魔様に会ってないから、これから会うことになるのか…。
「ー気持ちいい」
不思議な事に、この場所にいると自然と心が癒される。
さっきまで不満に満ちていた私がこうもあっさり元気を取り戻した所か、今も心が癒されて満たされていってる。
そうなるとここは天国で、既に私は天国に来て幸せになっていると。
「いやいや。君はまだ死んでないよ、ボクが助けているからね」
その人は突然私の前に現れた。
男の人だった。
虹色の瞳に銀髪の短髪姿で、右手には白銀に輝く杖を持っていた。
何だろう、どこぞのろくでなし魔術師と同じ雰囲気を感じる。
この場に白くて可愛い小動物がいれば、容赦なく攻撃していると思う。
「気分はどうかな? どこか具合が悪いところや、調子が悪いところはあるかな?
もしあるなら遠慮なく言ってほしい。すぐに治すから」
「あ、いえ、特に問題ありません」
「そうか、なら良かった。おっと自己紹介がまだだったね。ボクの名前はシロウ。この世界の管理者にして、神様だよ」
「わ、私! 明野佳奈と言います!」
自分の名前を言って頭を下げた。相手が“神様″である以上、無礼な態度で接することはできない。
「そうかしこまらなくても大丈夫だよ。神と人の立場やしきたりとかはボクは好きじゃないんだ。 だから気楽に接してほしい」
そう言われて、私はすこし安心した。
シロウという神様はいい神様であるみたい。
「ここはあの世ですよね?」
「いいや、ここはあの世じゃない。さっきも言った通り、ここはボクの世界そのもの。
ボクはアナ君が見ている“夢”を通して出会っている。訳あってボクはボクの世界から離れられなくてね。
そして、アナ君はまだ死んでいない」
私がまだ生きていると言われた瞬間、嘘でも言ってるのではと思った。
「立ち話もなんだ。まずは君をもてなそう。話はそれからだ」
シロウさんは指パッチンした。
すると白いカーペットがかかったテーブルに、白い椅子が突如として出現した。
「驚いたかい? これは管理者権限ではなくボク自身の能力の一つで、ボクは“あらゆる物″を生み出せるのさ。 親交を深めつつ、ゆっくり話すとしよう」
そう言われて、私は椅子に腰かけた。
テーブルには見るからに高級で美味しい菓子類が並んでいた。
「遠慮なく食べてくれ。おかわりが欲しくなったらまた新たに生み出すから」
「気持ちはありがたいんですけど、えーっと」
「何か裏があるんじゃないかと、そう思っている。違うかい?」
「…はい。 お兄ちゃんがよく、『自分に甘いことや都合が良いことを言ってくる奴は大抵裏があるものだから気をつけろ』と言われてたから」
「――なるほど。君のお兄さんが言ったことは正しい。
アナ君の前に突然現れたこのボクが、“何の裏もない″という保証もないのは確かだ」
お互いに、思っていることを自白し合った。
「どうして私が生きているのか、教えてください」
私がそう言った途端、シロウさんは指パッチンした。
病院のベッドで眠っている、“現実″の私自身が映し出された。
「アナ君はどの道助からなかったけど、ボクが陰から介入したことでアナ君は一命を取り留めたんだ。
命が欲しければとかでアナ君を無理やりボクの頼みを引け受けさせる気はないから、そこだけは安心して。
引き受けなかった場合、アナ君を元の世界へ帰す。無論、アナ君が無事な状態のまま自然にね」
「私を助けてくれてありがとうございます。 助けてくれた恩返しを抜きにして、シロウさんが私に頼みたいことを教えてください。これは、私自身の本心です!」
シロウさんにお礼を言って頭を下げた後、私は改めて、シロウさんが私に頼もうとした事について尋ねた。
「アナ君の意気込みはありがいたいけど、これからボクが話す事はとても重要な事だ。
アナ君にとってはあまりにも荷が重過ぎるし、聞かなきゃよかったと後悔するかもしれない。 それでも、これからボクが言おうとしている事を聞く覚悟はあるかい?」
ハッキリとした眼差しでシロウさんは私に問いた。
これから話す内容がとても重要かつ大事なことだと、改めてそう認識された。
「あります! 聞かせてください」
真っすぐな表情と眼差しで、シロウさんにそう答えた。
「アナ君の決意はしかと見届けた。 アナ君にやってほしい事はただ一つ、
ボクから貰った力で異世界へ行ったのち、【厄災】という滅びの元凶そのものを完全に破壊してほしい」
「厄災って?」
「かつて異世界を破滅にまで追いやった大災害だ。 厄災は遥か昔に勇者たちによって倒され封印されたが、それも限界に近い。
厄災が復活すれば異世界を跡形もなく滅ぼした後、存在する“全てのもの″に手当たり次第に手を広げていき、次々にそれを滅ぼし尽くしていく。 そうなったら最後、誰にも止めることができない」
衝撃の事実を聞かされて私は愕然した。
いくら夢やフィクションだとしても、ラスボスのスケールがいくら何でも違い過ぎて、度肝を抜かれたから。
「この事実を知ってもなお、君の決心に変わりはないかい?」
不安はある。恐怖もある。けど、ここで逃げ出す訳にはいかない。
ここを逃げ出せば一生後悔するし、そんな危ないものに私の世界の危機が掛かっている事を知ってしまった以上、見て見ぬふりはできない。
「変わりません!」
真っすぐな表情と姿勢で応答した。