第19話 今後の方針
『結論から言うと、大魔王は悪人ではない』ファルシオンさんがそう言った。
神器が自ら担い手を選ぶ以上、ほんの少しでも私利私欲に使おうと思っていれば、神器は迷わず担い手を滅ぼす。「大魔王」こと″魔族″を悪い奴らおよび邪悪な存在と思っているのは私達の″認識″に限った話で、ベリアルは問題なく私たちの目の前で力を問題なく行使していた以上、ベリアルが悪ではないのは間違いない。
ベリアルは私達を殺しにやって来たけど、それは仲間である魔族たちの未来を守る為でもあったし、最初から私たちを″脅威″と決めつけず自ら出向いて私達の事を知ろうとした。だからベリアルは弓の神器に認められたと私たちはそう納得した。
オド町に帰還して朝食を済ませながら私たちは今後の方針と何故ベリアルが弓の神器に認められたのかを話していた。今回は高い旅館に泊まった、金の節約のため前に泊まった宿に泊まろうとしたけど、エレンさんにアルトスさんやファルシオンとルガリアに我慢しなくていいと言われたから、遠慮なく泊まった。
高いだけあって旅館の設備はかなり整っていた上、風呂から見える景色もかなりよかった。そして飯もめっちゃ美味いからここまで充実してて快適だと高いのも納得がいった。
「ガイアス大陸へ向かおうとするバカは全然いねえし、例え向かうことに協力してくれたとしてもガイアス大陸付近には凶暴な魔物が必ず住み着いているし、仮に行けたとしてもそこには五人の魔王と配下である魔族と魔物達が待ち受けている」
『魔王を五人も相手するとなれば今のままだと少々心苦しいな。できれば仲間を増やしたいところだ』
私達の事情を聴いたうえで協力してくれる人は必ずいると思うけど、それを見つけるのは全然できない。森に隠されている目当ての木を見つけ出す程に難しいのと同じように無謀なことだ。強敵と戦いたいジャンルさんなら喜んで協力してくれると思うから私たちを含めた4人。残り一人の魔王と大魔王と戦うとなれば、最低でもあと二人仲間が欲しい。
「例え俺達に協力してくれる人が集まったとしても、船がなければ話にならんぞ」
弓の神器を取り戻すためにガイアス大陸へ向かうことになった以上、船はどうしても必要不可欠だ。剣の神器による力で空を飛んで向えば何とかなるかもだけど、全員の到着を魔王たちがそう簡単に待ってくれるとは限りないし、例え待ってくれるとしても一人で全員をガイアス大陸まで運ぶとなればかなりの体力と気力に魔力が失われてしまう。そんな状態なら例えベリアルたちに勝利できたとしても、往復するだけでかなり一苦労してしまう以上、この案は却下。
この世界の船は困らない程度にある程度あるそうだけど、船を借りるとなればかなりの額がかかるし、仮に借りれたとしても船を動かすことができなければ意味がない。
だから私達が今すべきことは船を持つギルドの協力を得る事。つまり取引をする。
ギルドは世界を股にかけて活動する″組織″を指す言葉で、一つの国家に匹敵する程の強大な組織となれば、当然船を各組織は大体所有しているから。
この世界で船を持つほどの強大なクランは三つ。
・商売ギルトアーチルド
・通達ギルドウインド
・生態追究ギルドカルデア。
この中野のギルドで私達の取引に応じてくれるのはカルデアとアーチルドだけだけ。アーチルドは信頼と利益を重視する巨大組織である為、取引するとなればそれに合うものを提供しなければいけない。それもオリハルコンやヒヒイロカネのようなレア中のレアなもの。そんなものを私達が持っていない以上、当然取引は成り立たない。
一方でカルデアは、世界中を駆け巡って魔物を含めた全ての生物や生体系を調査し、記録と考察を常に追求し続ける組織である為、ガイアス大陸に生息している魔物の調査となれば喜んで協力してくれると思うけど問題が一つああるから取引しずらい。
カルデアで魔物や生態系をただ調査する者もいれば、心から魔物があれやこれをして徹底的に研究しようとする変態な人もいる。ガイアス大陸を調査するとなれば魔族もその″追及″対象となるから。この世界の魔族の事は全然知らないし分からないけど、魔族も私達と同様に良い人もいれば悪い人もいるから、その魔族たちを思うとカルデアに協力をかけれない。
「とりあえず、いったん外に出て気分転換しながら考えよ」
考えてても分からないことを長々とただ考えてるだけじゃ前進できない。こういう時は一旦頭の中に置いておいて気分転換するのに限るから。
大体自分が欲しがる″答え″は後になって降って来るから、その時に備えながら待ち続ければいい。
せっかくの異世界において、日本に近い街並みだから思う存分観光しよう!
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「おかえりなさいませ、ベリアル陛下」
「出迎えご苦労、ガルド」
大魔王城へ帰って来たベリアルを最初に出迎えたのは、オレンジ色の長い髪に青い瞳に、頭に二本のツノをした女性。“災魔王″の異名を持つ鬼族の魔王ガルド。彼女はベリアルの気配を感じてすぐに大魔王城の玉座の間でベリアルの帰りを静かに姿勢を崩さずに待っていた。
「肩をお借りしていいですか?」
「そうしてくれ」
ガルドに支えながら、ベリアルとガルドは玉座の前の真後ろにある隠し階段をのぼった。
階段をのぼりきった先には、虹色に輝く葉に銅に輝く大樹の頂上だった。
「久しぶりに激しくやられたねベリアル。しかも弓の神器に認められるとは、」
ガルドとベリアルの目の前に全身から虹色の覇気を纏って、黒と白の混色眼に黄金に輝く長髪をした一人の女性が現れた。
人間から見たら一見″女神″と見惚れてしまう程に美しく神々しい人の姿。世界樹レグドの化身、レクス。
「久しぶりだなレクス。いきなりだがオレを治してくれ」
「はいはい」
光がベリアルの全身を一瞬覆った。ベリアルはすぐさま完治した。
ベリアルが大魔王となった日からベリアルとレクスは会っていない。二人は大樹の根本にあるものを皮切りに度々あっていた。
「世界、か」
一人立ったベリアルは思わずそうつぶやいた。奴が子供の頃から恋焦がれていた“世界”というのが少しだけ分かった気がした。小さい頃に父上に言った「どうして魔族は追い込まれたんですか?」という答えを今となって理解した。
明野佳奈の力は凄まじかつ強大だった。明野佳奈の力に剣の神器の力が合わさっただけでなく、混じった両方の力を更に強大な力へと変貌させた″何か″が明野佳奈をあそこまで強者にさせていた。
オレの力はこの世界で一二に入る程のものだと断言できるが、そんなオレでも凌駕する奴がオレの知らない所にいたという事実を身をもって思い知った。
自分に匹敵する程の強者が世界で何人かいると分かってはいたが、実際に実感した事でして理解したのだ。
「少し休んだ後、オレは再びあそこに潜る」
「君があそこに再び潜るのは久しぶりだね、よっぽどコテンパンにされたのが悔しかったのかな?」
「そうかもしれん」
今度は絶対に勝つ。負けて悔しいからか、オレがここまで燃えているのは久しぶりだ。
負けたのは小手調べで手加減していたのと少々慢心してはいたが、次はそういかん。
待っているぞ。明野佳奈、アルトス。そして魔法使いよ!




