第8話 森へ向かって
「まさかこんなことでボクを呼び出したのは君が初めてだよ」
風の大精霊であるテラフィスとエルフが隠れ住んでいる森へ向かっている最中、私はジャンルさんを呼び出した。
玉座の間を出る前にジャンルさんは私の魂に紋章を刻んだ。その紋章がある限り、私がジャンルさんに助けを呼べば何処であろうと瞬時に駆けつけてくれるらしい。
その効果が本当かどうかを確かめるため、試しにジャンルさんを呼び出してみた。
「もしかして、怒ってます…」
「全然。これでボクが怒る訳がない。それにボクが渡したものがちゃんとしているかどうかを確かめるのは当たり前のことだ。もしもの時に故障してたら君たちが危ないし、ボクも面目ない上、悪魔としてのボク自身が許せないから」
『悪魔は結んだ契約は絶対守る』と知ってはいるけど、この世界の悪魔もその常識が通じるみたい。
ジャンルさんが私に紋章を渡したのは戦ってくれたことのせめてものお返しだそうで。私達がこの世界を旅する以上、
私やエレンさんでは想像もつかないことが起こったり。未知で強大な敵と出くわしてしまったり。非常事態がほぼ確実に起こる。
そういった事態に対処しづらかったりしきれないとき、ジャンルさんを呼べばいつだって手を貸してくれるそうだ。
「次からは余程困ったときか、自分たちじゃ手に負えないものと出くわしてしまったときに使って」
そう言って、ジャンルさんは帰っていった。
この仕様に対価を払う必要はなくて、何回も無償で使用することができる。
今回はジャンルさんに少し迷惑をかけて申し訳なく思ったから、次からはジャンルさんの言う通りにして使おう。
馬車に乗って向かってい目的地の森へ向かっている。
馬車はギラ竜王が貸してくれたもので、馬の手綱はエレンさんに任せている。
エレンさんが後方の安全を確認して、襲ってくる魔物は私が対処する。自分たちの長所を有効に生かしているの。
ドラゴニア龍国で装備を進捗した。っと言っても、胸のプレートを装備しただけなんだけどね。
勇者となれば私の全身は力が守ってくれるから、動きやすさを重視して最低限の防具を装備した。
できれば全身に防具を装備して身を守りたいけど、鎧を着るのは相当体力がいるし、全力が出しづらくなるから。
勇者の力を使わない通常時で戦えるよう励んだんだけど、戦闘時は勇者でいなきゃ安心して戦えなかったから、無理に勇者なしで戦わないこととした。
エレンさんも私と同じで最低限の防具しか装備していない。
何でも子供の頃からいざという時の為に身体を動かすよう特訓されているようだから、常に身軽でいるようにしているらしい。
テラフィスとエルフたちが住む森までかなり距離があるけど、馬車で行けば数日でたどり着くことができる。
テラフィスが“風″の大精霊であるから、空気中の“風″はテラフィスそのものと言っても過言ではなく、テラフィスは世界の情勢を知り尽くすことができるらしい。
テラフィスの元へ向かう主な理由は、剣の神器に選ばれた勇者の特徴を聞くついでに、他の勇者と世界の情報を知るため。
私もエレンさんも、この世界の全体を全然知らない。
分かっていることは、ドラゴニス大陸全体の地理と他の陸地と国の名前くらい。
「お前が“勇者”である以上、テラフィスはお前たちを通してくれるだろう。
いくら傲慢だけのエルフとはいえ、主であるテラフィスが通せば、奴らとて好き勝手にはできまい」
ギラ竜王が言った。
自然人は他者と他種族へ対する警戒心が強く、基本的に排他的らしい。私が“勇者″だとしても、“人間″というだけで警戒してしまうらしい。
だけど自分たちが崇拝する風の大精霊が通せばテラフィスのお客も同然である為、無礼な態度をとることができない。
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アナとジャンルが闘いを繰り広げている最中、エレンはギラと話していた。
『二人の闘いを観てどう思う』
「凄く激しい。あんな恐ろしく強い相手に、明野さんはよく闘っているが、それも時間の問題。
いくら出力を明野さんに合わせていても、明野さんに分が悪すぎる」
『冷静な判断と良い眼をしている。 魔法使いで最も必要なのは『常に冷静でいること』だ』
「お褒めに預かり光栄です。 だけど正直、今にでもちびってしまいそうで仕方ありません」
『そうか。だがそれも“何か″を知る上で大切なもの一つだ。恥じる必要はない』
「ありがとうございます」
会話は途切れて、二人は闘いを静かに見守った。
「やっぱり強いな、アケノさんは」
『何故そう思う?』
「情報のためとはいえ、あんなに恐ろしい相手に臆せず真っすぐに立ち向かっているから。相手が自分より遥かに強いと分かっているのに」
『力の力量だけで強さが決まるとは限らない。“強さ″というのは、どんどん積み重ねていって成り立つものだ。
これから先、彼女はこの世界を旅――いや、冒険していってどんどん強くなっていく。気づいたとき、自身が想像も思ってもいなかったほどにな』
『引け目を感じたか?』
「...はい」
ギラ竜王の言う通り、アケノさんはかなり強くなるだろう。
アケノさんとの旅でオレはかなり強くなっているのは分かるが、アケノさん程ではないのは確かだ。
その時オレが明野さんの役に立ててるかどうか、気になって仕方がない。
『頭を下げ過ぎず、思い上がりすぎるな! エレン・ムンド!
お前にはお前にしかできないことが必ずある! 例えお前があの女の足元に及ばないほどに弱くても。例え役に立てていなくても。
お前は常に平常を保ち続けたまま、彼女の後をついて行け!」
突然のギラ竜王の発言にエレンは戸惑わずにはいられない。
「ありがとうございます。ギラ竜王」
『思わず熱くなってしまっただけだ。今のお前を見て、少し昔の自分を思い出してな』
「少し」と言っていたが、昔のギラ竜王が今のオレと少し似ていると言われて少し衝撃を受けた。
昔のギラ竜王は、どんな人物だったんだろう。
「聞いても、よろしいですか?」
『構わん。これもいい機会かもしれん、せっかくだから話すとしよう』
亡き父の跡を継ぎ始めた頃の話だった。
先代竜王こと、ギラ竜王の父は偉大過ぎて、当時ギラ竜王へのプレッシャーが半端なかったそうだ。
先代竜王の死はオレが生まれる前に起こったことで、世界中で先代竜王の名を知らない人はいないと言われていたほどだった。
「勇敢で偉大過ぎる」とは言い表せないほどの「王の中の王様」だったみたいで、今でも先代竜王が統治していた頃のドラゴニス大陸とドラゴニア龍国、英雄譚が絶えない。
統率力と政治性。力と知恵が凄かったみたいで、ギラ竜王も、先代竜王には遠く及ばないらしい。
王位を継いでから少しして、ジャンルがギラ竜王に襲い掛かって来た。最初は自分の命を狙い来た刺客だと思ったそうで、実際は、ギラ竜王と闘いたかっただけだったそうだ。
闘いを終えて気持ちがスッキリしたギラ竜王はジャンルをピーリアの『クィーン』に就かせた。
ジャンルに勝ったことと、ギラ竜王や国中を巻き込んだ迷惑料を兼ねて、働くことを義務付けたそうだ。




