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結婚式の直前に騒動は起こしませんよ?



 ◇



 レイのエスコートは完璧で、誰もエレノアの視力がほとんどないことなんて気が付かないだろう。


 時々、小石に足を引っ掛けてしまいそうになっても、それすらレイの巧みなエスコートで、さらりと軽やかに避けてしまう。


「英雄の実力を見た」

「ああ、今日は俺の全てをエレノアだけに向けているからね」

「えっ……。いつのまに、私はレイの敵として立ち塞がったの?!」


 いくら魔塔の長だとしても、生身での戦闘力を持たないエレノアが、どう足掻いたって英雄に敵うはずもない。


 魔法全てに秀でていた、先代の魔塔の長アリシアならともかく。


 ズキンとエレノアの胸が引き裂かれるように痛んだ。幸せだった毎日の終わりは、あの日だったから。


 アリシアが、あんな風に豹変してしまった理由は、いまだに解明されていない。


(もしかすると、レイは何かを掴んでいるのかもしれないけれど)


 ほんの僅かな空白の後、レイの忍び笑いが聞こえる。何か面白いことでもあったのだろうか。


 また、一つ、レイに手を引かれて華麗に段差を避けるエレノア。

 魔道具がない状態で、魔塔の外に出てしまえば、エレノアは無傷では済まない自信がある。


 でも、おそらく魔道具なんてなくても、レイに手を引かれていれば、怪我の一つだってすることなく、守ってもらえるのだろう。


 あの日ですら、かすり傷ひとつ負うことなく、レイに守られたのだから。


(守られるだけなんて嫌だ)


 それは、一般的な貴族令嬢の考えとはかけ離れているに違いない。


 それでも、初めて会ったあの日から、エレノアはどこか危なげなレイのことを守りたかった。


 隣に立ちたいと、貴族令嬢としての教育からも逃げ出さなかったし、魔道具の開発も誰になんと言われても辞めなかった。


 その結果が、あの日だというのなら、やっぱり神様なんていないに違いない。


「……えっ? 眩しっ」


 その時、エレノアの目に、決して映るははずがないはずの強い光が注がれる。急に世界に溢れた光に、エレノアは思わずレイの腕に縋った。


 光は、もしかして幻だったのだろうか。そう思えるほどに、急速に弱くなり、ぼんやりとした人影へと変わる。


「まさか、直接のお出迎えとは……。恐縮です」


 レイの声は、冷たく硬質だった。

 エレノアは、その声から、目の前にいる人間が、英雄や魔塔の長と並ぶ存在であることを理解する。


 そんな人間、数えるほどしかいない。

 国王陛下ですら、英雄と魔塔の長を無碍に扱うことはできないのだから。


「……初めてお目にかかります。神の光が降り注ぎますよう。大神官フレデリク・ハスラー様。魔塔の長エレノア・クレリアンスです」


 隣でレイが息を呑む音がした。


 見えないはずのエレノアが、初対面の相手が誰かを言い当てたから、驚いているのだろうか。

 それとも、魔女のはずのエレノアが、神殿流の挨拶をしたからだろうか。


(これでも、貴族令嬢として学んできたことは、無駄にしないの)


 きっと、貴族然としたエレノアが、本当の姿だと思ってしまった人が、普段の怠惰な様子を見たら、驚きと衝撃で倒れてしまいそうだけれど。


 それはそれ、これはこれなのだ。


「これは、本日の主役のお二人に先に挨拶すべきところ、非礼をお許しください。本日より、神に認められエレノア・ラプラス様になられること、お祝い申し上げます。また、ラプラス卿が此度の戦争に勝利をもたらしたこと、神のお力があったからに違いありません。ラプラスご夫妻の未来に神の光が降り注ぎますよう」


 その言葉をフレデリク大神官が口にした瞬間、もう一度あの眩しい光がエレノアの瞳に映り込む。


「祝いの言葉、確かに受け取りました。本日は、中央神殿で、このめでたい日を迎えられることに、感謝の念が絶えません。神の……っ、光が降り注ぎますように」


(なぜか、大事なセリフをレイが噛んだっ?!)


 思ったよりも、緊張しているのだろうか?


(レイが、こんなふうに言葉を詰まらせるのを、初めて見た!)


 エレノアは、黙ったまま、貴族としての微笑みを、その顔に貼り付けた。

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