囚われの魔女は怠惰に勤勉に。
◇
エレノアに与えられた私室の真ん中には、愛用の座る相手に合わせて形を変えるソファーが置かれている。
「これは、堕落的生活というのではないかしら?」
たしかにそのソファーに埋もれるように寝そべるエレノアは、怠惰な魔女そのものに見えなくもない。
だが、そんな怠惰な毎日の中でも、意欲的に発明に取り組むエレノアは、本人が否定しようと、仕事中毒と言えなくもない。
本人は、発明を楽しい趣味と認識しているけれど。
「……青い魔石は、水属性の魔獣から。とすれば、やはり最強の魔石はリヴァイアサンよね」
キラキラ美しい宝石を手にして、目がくっついてしまいそうなほど近づけるエレノア。
その色は、レイの瞳の色と同じだ。
「ふ、ふふふっ。伝説の魔石が今ここに。何にはめ込もうかしら?」
怠惰改め、強欲な魔女エレノアは、その価値で今日も世界を揺るがすほどの品物を手に入れてご満悦だった。
だが、その美術的価値も、金銭的な価値も、エレノアの興味にはない。
だって、エレノアは己の欲望には忠実な魔女なのだから。
「それにしても、この部屋はいったいなぜ、こんなにも居心地がいいのかしら」
結局のところ、エレノアは、この部屋から一歩も出ることなく過ごしている。
ミーナは、ほぼ毎日訪れているので、魔塔との連絡は保たれている。
ミーナが言うには、王都は、なぜか毎日平和で、魔塔への依頼は、激減しているらしい。
(その割に、レイは毎日忙しそう。ベルセーヌも忙しいと言っていた……。もしかしたら、レイが)
一瞬、辿り着きかけた答えは、「あっ、この魔石を使えば、もしかしたら、音を遠く離れていても届けられる魔道具が作れるかも?!」という閃きによりかき消されてしまった。
慌てて、研究用のスペースに駆け込む。
そしてエレノアは、ガリガリと音を立てながら、広げられた紙に図面を引き始めた。
「理論上、可能だわっ! これさえあれば、離れたメンバーと容易に連絡が取れるっ!」
完成した図面を眺めて、エレノアは満足して笑う。
それもこれも、用意された素材と研究設備のハイレベルさのおかげだ。
そもそも、エレノアのいる部屋は、一人のためというには、あまりに大きい。
お風呂もお手洗いも、運動設備も整っている。図書館には神代に関する資料が、王国で一番揃ってそうな気がする。
その資料も、エレノアが読めるように、全て音訳されている。どれだけの手間と時間を掛けているのか。
(間違いなく、莫大な予算をかけても、一年やそこらでは、ここまでの準備はできない。いったいいつから)
時々、そんな疑問が浮かばなくもない。
それでも、音訳されていれば、何倍速でも聞き取れる自信が、エレノアにはある。
もっと言うなら、同時に三冊を並行して理解することだって。
「研究が、はかどるわぁ」
恐らく、このままいけば、百年以上、魔道具の開発は進むかもしれない。
そのことが、近い未来に、吉と出るか凶と出るか。それはエレノアにとってそれほど興味のないことなのだった。
エレノアは、引いた図面をもとにプロトタイプを作成するべく、再び倉庫になっているスペースへと駆け出した。
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