運命の誓いと二人の秘事。
レイが、帰ってくるのは、思ったよりも遅かった。
(いったいどこまで追いかけて行ったの。ずいぶん遠くから音が聞こえるわ)
エレノアの作った魔道具の性能を、最大級に発揮できるのは、やはり英雄くらいのものだろう。
音を拾えば、それでもレイの無事は確認することができる。おそらく、犯人を見つけることは出来なかったのだろう。
「それにしても、ミーナとレイが追いかけて、捕らえることができないなんて……」
ミーナとレイを遥かに上回る実力の持ち主か、会場に共犯者がいるのか。
ミーナとレイ、魔法と剣、それぞれの王国最大火力であろう二人の実力を上回るのだとしたら、こんなまどろっこしいことをしなくても全て叶えることが出来そうだ。
(共犯者がいるのね)
おそらく、二人を相手取って戦えるとしたら、それはもう、世界を手中に収める類の人間に違いない。
だが、この中に共犯者がいるだろうことは、まだエレノアの直感でしかない。
恐ろしいほど当たる直感ではあっても。
(ん? ミーナとレイ、二人を相手にするとして、あの魔道具と、考案中のあの魔道具と組み合わせたら、意外と善戦できるかも?)
レイが無事なことを、確認した直後から、エレノアは婚礼の最中であることすら忘れて、思考の海へと沈んでいく。
恐らく、レイによって、最高の研究環境と材料を与えられたエレノアは、世界を手中に収めることができる側に入ってしまうのだが、本人にその自覚はない。
そして、目をつぶって研究のことを考える姿は、周りの人間には、花婿を信じて待つ、健気な花嫁に見えなくもなかった。
「おいおい、こんな時にも研究のことか」
花嫁の本性を知っている、数少ない人間であるベルセーヌの呟きは、誰にも聞こえない。
普段であれば、聞き咎めて反論するだろうエレノアは、深い思考に囚われている。
「――っ、――――っ!」
(私のことを呼んでいる。でも、待って。あと少しで、新しいアイデアが)
「エレノア! 無事、そうだな」
「…………レイ?」
苦しいほどに、抱きしめられて、エレノアは我にかえる。
「そうか。そもそも魔道具の性能が、使用者によるのだとすれば、レイのために魔道具を作るのが一番効率が良い」
「エレノア、それはいい案かもしれないけれど、結婚式の最中だ」
耳元に息がかかるほど近づいて、腕の中の花嫁にささやく英雄の姿に、会場中からため息が漏れる。
それは、感動的なシーンだった。
話の内容が、聞こえない前提で。
静かな会場に、レイの声が響き渡る。
「邪魔が入ったから、もう待ちきれない。君だけに誓うよ、エレノア。俺の唯一、エレノア・クレリアンス、君を守るためだけに存在する愛を」
「え?」
心の準備が出来ていないにも、ほどがある。
そして、レイの誓いは、神殿のものとも、魔塔のものとも、貴族のそれとも一致しない、エレノアとレイのためだけの誓いだった。
「エレノアも、誓って」
「――――私は」
(レイが、これからも私のことを守ろうとするのなら)
「レイ・ラプラス。私も同じだわ。私の全てを、あなたを守るために捧げます」
「全てを?」
「ええ、全てを」
直後、誓いの口づけに、会場が沸き立つ。
英雄と、魔塔の長の結婚式が、例え形式から外れたとしても、誰も非難なんてできない。
もちろん、この後、その言葉をエレノアは後悔するのだが、それは二人しか知らない秘密の出来事なのだった。
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