花嫁と部下は同じ類の。
◇
レイとエレノア、二人が会場に入ると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
直後、エレノアよりも少し小さなオレンジ色の子犬のような影が飛び出してくる。
「エレノア様っ!」
「ミーナ! あなたも来ていたの?」
勢いよく抱きついてきたミーナのせいで、エレノアは体勢を崩しかけた。レイがそっと支えてくれたおかげで、倒れることはなかったが。
「そんな言い方、あんまりですっ! エレノア様が急にいなくなったから、魔塔のメンバーは大騒ぎだったんですよ?」
「えっ、ほんの一晩いなくなったくらいで」
「今まで、あの部屋から出ることすら、ほとんどなかったじゃないですか。それが一夜にして、破局したはずの元婚約者と電撃結婚なんて」
エレノアは、返す言葉もなく、曖昧に微笑んだ。
だって、エレノア自身が、まだここが夢の中としか思えないのだから。
「でも、魔塔の主要メンバー四人に、ちゃんと招待状が届きました。どこにいるのか、あたしたちにすらわからないメンバーにもですよ?! 久しぶりに全員集合しましたねっ。噂通り、英雄殿は抜かりないです」
(たしかに、全員に招待状って、レイはすごいわ。私でも、急な招集の時、なかなか全員に連絡がつかずに頭を悩ませるのに)
エレノアは、魔道具を使えば、国中の音を聞き取ることができる。そんなエレノアですら、いつもエレノアにまとわりついていたミーナを除く、謎が多い残り三人のメンバーと、常時連絡を取るのは困難なのだ。
レイに関する噂話については、あの日を思い出してしまうから、極力聞かないことにしていたが、これからは少し聞いてみるのも良いかもしれない。
「あっ! 英雄殿。はじめまして、ミーナですっ!」
「エレノアをいつも気遣ってくれていたと、聞いている。ミーナ殿には、感謝している」
「お安い御用ですよ! エレノア様は、かなりズボラなところがありますが、尊敬すべき上司ですから」
「そうか、ミーナ殿のような方が、いてくれて良かった」
ーー完璧な令嬢のはずのエレノア様をズボラと?!
優しい笑顔で笑うレイ。
しかし、花嫁にとって不名誉な発言により、静まってしまった会場の空気に気がつくこともなく、その後もミーナは爆弾発言をする。
「ふぇ〜。英雄殿は、血も涙もない冷酷な男という噂だったのに。やっぱり噂とは当てにならないです」
「えっ、本人を前にっ?!」
あまりの部下の失礼さに、流石のエレノアも慌てた。だが、レイは楽しそうに笑うだけだ。
「ミーナ殿のような方が、エレノアのそばにいてくれて良かったよ。ぜひ、屋敷にも遊びに来てくれ」
「えっ! 良いのですか?!」
「ああ、もちろんだ」
「……あたし、空気読めないと言われるので、本当に行ってしまいますよ?」
その時、魔術師団長ベルセーヌが、メガネの位置を直しつつ、億劫そうにミーナが纏うローブの首元を掴んだ。
「おい、ミーナ殿は魔塔を代表する魔女。それなりの振る舞いが必要だと、いつも言っているだろう。それから、花嫁と花婿には、まずおめでとうだ。……ラプラス卿、エレノア様、この度はご結婚おめでとうございます」
「あっ、しまった。ご結婚おめでとうございます」
魔塔でいつもエレノアの心を救ってくれた、二人の言葉に頷けば、やっとこれは現実なのだと、エレノアは信じられる気がした。
エレノアとミーナは同じ類の人間なのだが、本人たちには自覚がない。個性豊かな魔塔の他のメンバーたちですら、いつもエレノアとミーナに巻き込まれているくらいなのだから。
レイとベルセーヌの視線が合う。二人は、たぶん同じことを考えたらしい。仕方がないと諦めるかのように、お互いに唇の端を歪めた。
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