第3話 新生活..だわな
「おーい えりら… エリラさーん?」
どうやら、体はひとつでも寝るときは別々なようだ。今は俺の思い通りにカラダが動く。なにしろ...
えっと (と、俺がこっちに歩き出すと)
あー あっちいこー!(え)
うわ いて (とバランスを崩してひっくり返る)
ちょっとー気をつけて …っていっても無理か まあ、なかよくやろー(え)
なんか、マイペースで強引だけど悪いキャラじゃあなさそうだ..が…しかし、これ慣れるまで大変そーだ。てか、やっていけるのかほんとに..。起き上がって、あらためて自分の肉体を確かめてみる。
ふむ 考えてみたらやっぱり結構新鮮だ。新鮮なのに動じないのが自分でも不思議だ。
うん、腕なんかも柔らかい。コレが女の人か…
赤と黒を基調にして、シャープなデザインだけど可愛い感じにしたから♡♪
っていってたが、ブラとパンツ…いわゆるビキニ系だな。フィット感は悪くない。片脚タイツってのも違和感があるが、サンダル…こんなもんで動いたこともないし。どっかに姿見でも…見回してみるが、味気ない、鉱物のような赤みがかったカベがあるだけだ
「……」
下を向くと、胸の谷間だ。けっこうなボリュームだ。ふむ、こーゆー形になるのは、締めつけ感がないときなんだな。壁に映るカゲは、わりとよいスタイルだ。…しかし、いったいどんな顔してるんだろうか…。顔をなで回してみると、やはりなんか繊細で柔らかい。明らかに男とは質そのものが違うのが新鮮だが…見れないってのはかえってストレスが溜まるな。
見たい?(え)
うわ! っって、起きたのか …起きてたのか?(な
まあ(え)
…聞いてたのか?(な
まねー。あたしも気になってるんだ。どんな姿かってゆーの(え)
だよな(な
で、ちょっと実験してみようと思うんだ(え)
? (な
キミ…ナイちゃんの増幅力に期待なんだけど(え)
その、ナイちゃんはやめてくれ(な
そー? んとね、ま、いーや やってみるから(え)
?(な
不思議な感覚が体の中をめぐった。力の流れ?..ってこんな感じか?
エリラの意志が、右手を前に差し出して、手のひらを正面に向ける。
おー、できたー!(え)
こ、これは!
右手を前に差し出してポーズを決めてる乙女の姿が、目の前にあった
水の魔法。こんなにきれいに、しかもこんな大きな「水面」が作れるとは思わなかったよ....(え)
いつものテンションよりおとなしい感じだ。よほど自分でも予想外だったんだろう
あたしたち、かっこいーじゃん! かわいーし! 衣装もよく似合ってる(え)
なんか、嬉しい感じがダイレクトに伝わってくる。実のところ、俺も感動していた。
そこに映った姿は思ったよりも可愛いものだった。頭身は…6.5頭身から7頭身といったところか。ピンクのゆるやかなウェーブのかかった髪は結構ボリュームがある
胸のボリュームもいーかんじだねー(え)
だまってろ! …おい、……なんか恥ずかしくていえねーじゃないか
そお? ウエストもきゅっと締まって、お尻もダイナミック! 脚はすらりとしてるけど、太ももは結構太め。筋肉質のわりに、色っぽく肉がついてる感じ。キミ、こーゆー脚好きなんだねー(え)
ま、まあ
足首の締まり具合もいーねー。それに、あたしのイメージした編み上げサンダルがばっちり! ブラとパンツも…やっぱりちょっとちっちゃめだけど黒地レザーに赤が利いてるでしょ。…ちょっとショールかマントでも足してもいーねー(え)
服、好きなのか?
うん。このキャラだったら、ドレスも似合うだろーなー 髪飾りとかネックレスとか腕輪とかいろいろほしー!(え)
腰に手をあてたり、横を向いたり、くるっとまわって背中側を映したり。さすがに女の子だ。鏡に映す自分の姿を見るポーズやチェックのしかたが堂に入ってる。
そうこうしながら、顔を鏡に近づけた まつ毛が、水面に触れて小さな波紋をつくる。なんか気の効いたアニメや映画みたいだ
ふふ♪ キミが右目、あたしが左目!(え)
金色の瞳と、蒼紺の瞳のオッドアイ。思わず、口元がニヤッとしてしまった
けっこーキミも気に入ったみたいだね(え)
ああ、まあな
髪の毛も、場合によったら縛った方が動きやすいと思うけど、しばらくこれでいっか(え)
ああ。このほうがカワイイ。…と思う
よし! 決まり。じゃー鏡消すよ?(え)
OK …時々…(また見てもいいなと思うとほとんど同時に)
また見よーね♡(え)
彼女の思念が重なった。変に息があったというか、なんか こういうのって嬉しいものだ
あたしも嬉しい 抱きついちゃいたいくらいだよー!(え)
ぱしゃっと、鏡がただの水になって下に降り注いだ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それにしても不思議なところだな。竜の中だというのに、まるで石造りのダンジョンみたいな風合い..。 コンコン カベをノックしてみる。カタイな。天井も…かなり高い。通路だというのに…3mくらいあるか。この体で何ができるのか、試してみたいが、軽くジャンプしただけで天上に頭をぶつけるなんてごめんだしな
やってみたら?(え)
「そうだな。じゃちょっとだけ…」 ピョン
たいして普通とかわらない。
そだね。…ねー、じゃあたしも一緒にとんでみよーか(え)
「?」
つまりー、あたしは今カラダ動かすの一切意識してなくて、全部キミにまかせてるんだ(え
「ああ」
だから、同じ動きを合わせるというか、重ねるというか、…あーもー! せーのでいくよ!(え)
「わかった」
せーの!
「うわああああ」 ごーん どさ
つっってえー..
あはは悪い悪い どーやら、意志が重なると人間じゃなくなるみたいだねー(え)
「おまえは痛くないのか?」
えりら!(え
「あ、えりらは…」
うん。…てゆーか、ま、いーじゃない! 痛いのはあげる(え)
「はあ?」
痛覚キリカエか、痛覚遮断ってやつか
ほー、けっこーものを知ってるね~(え)
「どーやるんだ?」
ないしょ♡ 痛いのはお願いね!(え)
ちゃっかりしてるが…ま、女の子だしな…。いくらジェンダーなんたらいっても、やっぱ甘やかせるものはあまやかしてやりたいというか、守ってやりたい。考えてみたら俺の体はおんなだし? 同じカラダに入ってるんだから気にする必要なんてないはずなんだが。…変に女の子を感じるんだよな
ありがとー♡ きみ、いー人だね。(え)
どき
あ、どきっとした! いまどきっとしたね♡ かーわいー♪(え)
やっぱまいるな…
まー、いざってときはあたしもキミを守ってあげる(え)
「ああ。頼む。が…無理はしないでくれ」
まっかせなさーい!(え)
…一瞬ドキッとしなかったか?
気のせーだよ!(え)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さーて、何か食べたいなー この体でも竜気の吸収はできるけど 味気ないよねー」(え)
なにげに、この体に慣れる意味もあって、俺たちはカラダの支配を交代でやっていた。
竜気ってのは?(俺)
「文字通り、竜の気。最初、あたし達が目ン玉で枯れちゃうこともなく動けたのも、ここに残れたっていう時点で、竜の気…エネルギーを自分のものにできていたから」(え)
そーなんだ
「ま、あくまで推測だけどねー。で、それっていうか、眼球を素体にしながらこの姿になったんだから、原理的には保つはずなんだよねー」(え)
ふむふむ
「でも、実際おなかは減ってきてる。てことはあ、やっぱりなんか食べなきゃヤバイってこと」(え)
なるほどね …食うってことは、当然排泄をともなうことになるんだが…
「ふーん いきなり話題にするかー。さすが男のコ!」(え)
いやいや
「ま、とー然の疑問だ。ぶっちゃけ、それはあたしが担当するね。だから」(え)
だから?
そん時は、め、つむっててね(え)
うああ、声というか、思念だけなのになんて可愛いんだ
「かわいいでしょー! あたしの本体はもーっとかわいいよ~」(え)
…かなわないな
…そうか、本体 …! て、おい、俺たちって元のように別々の体になれるんでしょうか?
「なーにいきなり敬語になってんの? ま、いーけど。とーぜん、今は特別だよ」(え)
別れられるんだな?
「別れたいの~?」(え)
え、いや、その、な、何かと不便じゃないか。お互いに
「あたしは構わないよー?」(え)
え?
「うっそー♡ まあ、魂の融合だけはないようにしてるから安心して!」(え)
魂の融合…?
「うん。融合したらたいへんだよ? ふたりともいなくなっちゃうよ~? 別物になる!」(え)
かー..やっぱり...まーよくある話だが…まじその当事者になるとは思いもしなかったな。アニメとかで<おまえはワレとひとつになるのだー> ってアホは随分見たもんだが...
「だからだいじょーぶだって! こっからでたら、ちゃんとひとりづつに戻れるから。ここにいる間はー、ちょっとムリだろうけどねー。…やってみる? また、目玉に..」(え)
いや、遠慮しとく。あれはさすがに…
「楽しいけどねー♪」(え)
たのしいか? あれ…
「ここ、それなりにキケンだし。ちょっとばかりリスクが大きいよね。それより、今はこの体で何ができるかいろいろ試したいし」(え)
そうだな
「やっぱ、できることからやんないとねー」(え)
ほんとに前向きだな こいつ
「聞こえてるよー」(え)
うげ
「ほめてくれてありがとー♡」(え)
ほんとに可愛い性格だな。このコ
「筒抜けー」(え)
勘弁して欲しいな全く…
「そーそー。フツーでいいよフツーで!」(え)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どっちいくんだ?
「こっちこっち♡」(え)
どこへ?
「胃♪」(え)
い?
「ご飯にしよー」(え)
「ごっはん ごっはん♡ なんかひとりごとでも楽しーねー こーいうの」(え)
「完全にあぶないひとに見えなくもないッすけど?」
「お、割り込み! やるじゃなーい」(え)
「いや、そうじゃなくて」
「だいじょーぶだいじょーぶ! ここにはふたりしか、じゃないかー、1人しかいないんだから、気にしない気にしない!」(え)
声もトーンも語り口も違うわけで、1つの口で、2人で交互にしゃべっているわけだが…
「……」
「どしたのー? 急に黙って」(え)
…なんか…歩くのに専念してるとその方が楽かも
「あ、気がついた? あたしもそんな気がするんだ。とりあえず、カラダの基本的な管理まかせるねー」(え)
じゃ、ひとりごとの方はまかせることにするか
「おっまかせー!」(え)
…思考って遮断できないんですか?
「ムリ」(え)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▼胃袋のほとり。飲み込まれた食材の山
「おーおー、野菜に肉によりどりみどり! 胃液があふれる前にかすめとるよ!」(え)
うーん。気のせいかすごく寄生虫か何かみたいな気がする
「そーだね(笑)まさにそーだね~。さ、いくよ!」(え)
最初は、お互いに食べたいもの、行きたい方向が違ってしばしば転んだ。やがて...
あ、アレ-!(え)
OK あれいいか?
いいよー(え)
気持ちを合わせると、なんか動きが普通の倍か、なんというか…最後には、しゃしゃしゃしゃやという、マンガかなんかのようなスピードで動いていた。さながらアジリティ10倍かそれ以上か…
「いやー大量大量!」(え)
考えてみたら、持てる量も尋常じゃなかった気がするな(山と抱えてるイメージ)
「そーだねー 気持ちあわせるとすごいねー。
(マジで、すごすぎだねー。ちょっと、あたしでも考えもしなかった現象だね..)
これなら、少々の敵が来てもこわくない! いっただっきまーす!」(え)
おい、その前に…
「なにー?」(え)
あっちにお客さんみたいだぜ
「きゃー! 何 かっこつけてんのー! これがオタクってゆーのー? バカだねー! キミさいこーじゃない!」(え)
やれやれ …て、なんでこいつ、オタクなんて言葉知ってんだ?