第7話 脱出に向けて旅立ちました。1日目
情景描写だ。特に代わり映えのない、赤黒いカベの道。幅は人が3人並んで楽に歩けるくらいか。女子の肩幅が50cmとして、余裕持って幅70cm ×3人で 2m少々。通常家屋の玄関のドアを2つ並べたより、少し広い感じだ。
いかにもダンジョン…というより、ただトンネルの中を進んでいる感じだ。
やはりエリラがかけた知覚制御のおかげか、あまり暗いとか言う感じはない。遠くが見通せるわけではないが、いわゆる夜目が効く夜行動物ってのはこんな感じなのだろうか。
天井も2mくらいあるせいか、あまり閉塞感もない気がする。これがほんとに真っ暗で、懐中電灯で照らして歩く…となったら不安は計り知れないだろう。
それに… 常に自分と一緒にもうひとりいるという感覚。やっぱりなんか心強いというか、安心感がある。常に監視されているとか、心を読まれるんじゃないかなんて考えたら精神を病みかねないだろうけれど、全くの別人格なのに、もうひとりの自分-そんな気さえする。
いやー、そんなふーに思って貰えるとうれしーよ(え
いつもなら、もっと照れてギャアギャアという感じにもよくなるし、それも悪くないが、こんなふうに静かな《声(思念)》も悪くない。優しい気分になる気がするのが不思議だ
「何か随分歩いたねー」(え
そうでもない。未知の道に入ってまだ…(な
「なに?」(え
…腹が減ってないくらいの距離だ(な
「そだねー 考えてみたら、おなかがすく距離より遠くに行ったことなかった」(え
今のところ、道が変わるとか、新しく道が生まれてる、ってことはないな(な
「いきなり道がぐーっと狭くなったりしてもやだね落とし穴とか毒の沼とか…」(え
それは、こっちの世界の知識かな?(な
「そ、そーだよー♪ じょーしき常識! にへへ~」(え
………………(な
「ななななんだよー ほーちプレイはんたーい!」(え
まあ、楽しい道中になりそうだ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、仮に朝早く、7時頃から出発したとして(な
「そんなに早く起きられないよー」(え
まあ、10時ぐらいには軽く何か食べたくならないか?(な
「うーん」(え
つまり、起きてから歩き出して3時間!(な
「おかなすくねー」(え
6時に起きて何か食ってでても…起きれないからくわねーででるよな(な
「当然!」(え
今朝はくったな(な
「うん。でも、少しだったね」(え
腹減ったか?(な
「ううん」(え
てことは、まだ1~2時間くらいしか歩いてないってことだ(な
「そだね」(え
次に、人がだいたい1時間に歩く距離というのが..(な
「しってるー。4~5キロ」(え
ちなみに、拠点にいる時は、なんか不安でちょっと行っては帰ってくる感じで(な
「そーだね。考えてみたらほとんど遠出しなかった」(え
とゆーわけで、今日はじめて気合い入れて探索に動き出して1~2時間(な
「およそ4~10㎞ …随分幅あるね」(え
たらたら警戒しながら歩いてきたから…、いーとこ7~8㎞くらいじゃないかな(な
「うわーそんなに歩いたんだ!」(え
俺のいたところは、歩数でがたがた健康法だのなんだのやってて…確か1日の歩数がふつー…4~5000歩とか7~8000歩。距離にして、3㎞ 多くて6㎞くらいって計算か(な
「なにそれ」(え
けんこー…あ、まあ変な世界にいたんだ。ちなみに、昔歩いて旅をしていた時代は、1日6里とか8里 20キロから30キロ以上…。そー考えると、俺たちのペースだと…歩くのが目的じゃないからやっぱ10㎞未満じゃないかな(な
「センセー質問!」(え
なにかな?(な
「きろめーとるってなんですかー?」(え
………最初に人の歩く速度が時速4~5㎞って答えてなかった?(な
「せんせーのビジョン読みましたー」(え
そーだった…。そーだ、まだすぐ戻れる距離だし、一本道だし…今のうちにマップ作るか(な
「まっぷ?」(え
地図
「どやって? どこに?」(え
……ノートとペン…つくれるか?(な
「なにそれ」(え
メモ帳と筆記具(な
「あー、それならできると思うよ~」(え
ダンジョンといったらマップだ。うっかりしていた(な
「こんな感じ?」 (え
光とともに、羽ペンと一応紙っぽいノートが現れる
…これは?(な
「ペンだよ」(え
インクは?(な
「あ」(え
こりゃあ、…全部芯になってるアレがいいな(な
「何?」(え
あらためて、全部芯状のデッサン用の筆記具をだしてもらう
ありがとう。で…なんでノートがこんなに分厚いんだ? 本じゃね?(な
「あたしんとこだとこーゆー...」(え
それ、部屋で使うんだろ(な
「とーぜんじゃん」(え
ここはどこだ? こんなかさばるもん、重いし邪魔だろ(な
「ポシェットあるじゃん」(え
あ(な
「キミもけっこー抜けてるんで、おねーさん安心しちゃったー」(え
はいはい(な
ともかく、簡単に図を描きこんでみた。悪い描き味じゃない
「わー、ほんとに書くんだー めんどくさー」(え
書くっていったろ。好きじゃないが、必要ならできることだからな(な
「うっわー、めんどくさい性格」(え
ほっとけ(な
「うっそー 頼りにしてるー」(え
思念でまた抱きついてきた。だんだん、柔らかい感触が生まれている なんかムダにどきどきする。
「上手になったでしょ♪」(え
ならんでいい..といおうと思ったが打ち消した。あいつなりの好意だし、わるいもんじゃないし
「へへ この正直者~♡」(え
遊ぶな(な
「だってー、やっぱりけっこうたいくつだよー。ずーっとトンネルだし」(え
まあなあ(な)
今から思えば、俺にいろいろ考える余裕を与えないでたたみかけてくるのは、あいつなりの思いやりだったのかもしれない
聞こえてるよー(え
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それにしてもこの7~8キロ、分岐点ひとつない。ただ平坦な道が続いている。
「分かれ道とか、四つ角とかあってもいいよね こんな一本道、外にはあんまりないよ。郊外なら別だけど」(え
そもそも、なんでこんなトンネルがあるんだろうな(な
「まー考えてもしかたないよー」(え
巨大な丸石が転がってくるとか、水が流れてくるとか、怪物が襲ってくるとか(な
「挟み撃ちとか。なにがあってもイチコロだね」(え
…イチコロだな。…やっぱり、エリラの隠密魔法…だっけか?(な
「隠遁ね。ま、たぶんナシくんの増幅も大きいと思う。完全にあたしたち、いないことになってるんだと思う」(え
それからほどなく、大きくカーブした道沿いに歩いて行くと、トンネルの途中に、木の根っこのようなものがつきだしているのが見えた。
おい、アレなんだ?(な
なにかあるね!(え
俺たち(1人なんだが)はそこに向かって走り出していた。