第99話 伝説の敵
「誰か倒れてる!?!?!?」
指定危険区域のとある一角。辺りに草木は1つとない。だが、この開けた場所へと続くケモノ道すら存在せず、ただただ生い茂った草木が壁となっている。
そんな立ち入ることすら許されていなさそうな場所に、生命力と魔力を持っているものがそこには倒れ込んでいた。
「お、おい!!大丈夫か!?」
私は誰かが倒れていることを認識した途端、一目散にその誰かに近寄り安否を確認する。外傷の有無やその状態。脈拍など、あたかも医者の如く行動した。我ながら冷静な行動をできたと思う。
それはそうと、近寄ってみて初めて分かったことがある。倒れていたものは、"人間ではない"ということだ。
「これは・・・・・・・・・狐の耳・・・???」
外見を人目見れば分かる。人間の耳ではなく狐の耳をしているからだ。俗に言う妖狐と言うやつだろうか。なんともらしい姿である。
「おーーーい。起きろー。」
脈拍も正常。息もしっかりとしている。目立った外傷はなく、至って健康そうな身体をしていたのを確認した後、私は少し安堵する。そして、少し体を揺さぶるなどして目を覚まさないかを試してみる。
とはいっても性別は見るからに女性。見ず知らずの男にベタベタ触られるのも好まないだろう。それから、人間と扱うべきか、それとも狐として扱うべきなのか、私は少し判断に困ったが、ここは人として扱うことにした。
「まるで目を覚ます気配がないな。にしても何故こんな所に。。。」
私はふと周囲を見渡す。何の変哲もない平々凡々な木々が壁となり、この何も無い空間を閉ざしている。所々木が折れていたり、倒れていたりと、まるで戦闘を繰り広げたかのような痕跡もあった。
「何があったかは知らないけど、ここにいるのは正直危険すぎる。。。なにか守れるものがあればいいんだが。。。」
私は近くに小屋や休めそうな場所がないかを探してこようと立ち上がる。その瞬間、猛烈な魔力を感じ取った。珍しく地中察知スキルが危険を知らせる。
「下か!?」
猛烈な魔力は下から地響きと地震とともに徐々に私と妖狐のいる場所へ向かってくる。私は身の危険を感じ、咄嗟に妖狐を抱き抱えて広場の端に避ける。避けた先にはたまたまなのか、ちょうど妖狐1人分が入りそうな窪みがあった。私は咄嗟にその窪みに妖狐を優しく隠す。
あと少しでも遅れていたら攻撃を受けていたであろう。避けた途端に地中から飛び出してきたのは、とてつもなく大きな蛇のようであった。
「な、なんなんだよこいつ。。。」
『名称:闇炎魔獣ヤマタノオロチ ・性別:雄 ・ランク:神話級 ・討伐推奨ランク:A以上』
私は咄嗟に魔獣識別をする。そこに表示された名前を見るや驚いた。ヤマタノオロチ(八岐大蛇)と表示されたのだ。私のような日本人であれば誰もが聞いたことのある名前だろう。それもそのはずだ。ヤマタノオロチは日本神話に於ける伝説の生き物である。
「どうしてまた、、、こんな。。。」
魔法名や魔獣の名前など、増して魔人語までもが日本に由来したもの。妙である。何故ここまで日本の話がこの異世界にまで繋がっているのだろうか。最大で最悪な疑問点が残る。
「こいつと闘えって言うのか。。。?こいつ神話級魔獣だろ。。。?超上級でも苦戦したってのによ。。。」
魔獣のランクは細かく決められている。
下位➡︎中位➡︎上位➡︎下級➡︎中級➡︎上級➡︎超上級➡︎超絶級➡︎極級➡︎超極級➡︎天災級➡︎神話級
の順番で強さが増していく。神話級魔獣は魔獣界において、最強レベルだ。対して私の経験値では、上から数えて6番目のレベル。全体で見れば中間である。そんな私に、ここまで強い魔獣を倒すなど、正直無理難題にも程があるのだ。
「どうする。どうしたらいい。逃げ切れるか?逃げても助かるものか?何が最善だ。最善手はなんだ。」
私は焦っていた。自分でもどうかしていた。冷静さを失うのは、敵を前にして最もしてはならないこと。怒りも同様だ。冷静さを失うことは、負けを意味すると言っても過言ではない。冷静沈着さとは、その人間性と心の強さ。即ち、実力に直結するのだ。
「あ!?まずい!?!」
私は冷静沈着さを失っていた。攻撃察知スキルは私に危険を知らせる。攻撃が繰り出される少し前に攻撃察知スキルの猛烈な危険信号を受け私は身構えようと体制を整える。
冷静を失っていると、目の前にいる敵にすら意識が乏しくなってしまう。現に今こうして最初から身構えておけば良かったものを冷静さを失ったことにより、行動が遅くなっている訳だ。冷静さを失うことの代償はそれほど大きいという事である。
そして、攻撃察知スキルの危険信号に答えようと身構えるべく体制を整えている正にその最中に、ヤマタノオロチの攻撃は既に目の前に迫っていた。つい先程まで攻撃態勢に入っていなかったヤマタノオロチだったはずだが、現状ヤマタノオロチは攻撃を私に向けて放っていた。時すでに遅しとはこの事である。
・・・・・・・・・・・・死んだ・・・・・・・・・・・・・
私は死を悟った。ヤマタノオロチの素早さは私には到底追いつくことの出来ない領域であった。気がついたらもう手遅れなのだ。そんなレベル差である。神話級魔獣の強さを知らなかったとはいえ、逃げるという判断を素直にできなかった私はこの状況を受け入れるしかなかった。




