第50話 国王の狙い
「Aランク試験合格した事、なぜ私に言ってくれんのだ。」
そうあたかも頬を膨らませているような事を言ってくるのは、バゼル国王である。らしくないような、それでいて何故かキャラとしては成り立っているこの謎の人物に私は少々恐れを感じる。
「そこまで自慢するようなものでもないですよ。」
私は日本人らしい謙遜をする。前にも言ったが、相変わらずの上手な謙遜だと思う。
「私は分かっていたぞ、お主は強いということをだな!だからイズラート国の領主にと思ったのだ。」
「なんだか、まるで最初から私を狙っていたかのようですね。」
バゼル国王は暴君である。故に何を考えているのか、どういう行動をするかが全く読めないのだ。困ったものだと思う。
「あぁ、出会った時から決めていたぞ。だから護衛の仕事を頼んだのではないか。」
私はてっきり護衛の仕事は人員不足だった為と思っていた。もしかしたら、あの時から私の異世界ライフはこの暴君の手によって固められていたのかもしれない。とてつもなく恐ろしい。
「よく考えてみたまえ。お主の他に護衛は十分におったはずだぞ?別に人員不足でも何でもない。」
そう言われてみればそうだ。あの時の護衛は私以外にも複数人居た。それに当時メイドさんであったマナもついている。私が居なくともあの魔獣も盗賊も倒せたのでは無いだろうか。
「まんまと嵌められていたわけですね。ははは。」
私は驚きよりも何故か悔しさが勝った。この国王に、暴君に最初から付け狙われていた事実と、暴君の思うがままに手のひらの上で転がされていたのだと考えると、正直悔しくて堪らないのだ。
「だが、あの上級魔獣の出没については私も、その護衛も、マナも含めて予想外であった。アイザスを捕縛する任務として赴いた訳だが、まさかあそこまでするとは思っていなかった。多少の妨害は視野に入れておったぞ?私も馬鹿では無いのだ。」
国王なりにも色々と考えて居たのだろうが、アイザスの国王への恨みは相当なものであったのだろう。過去のことはよく知らないが、どれほどの恨みがあったかなど、分かりかねない事ぐらいは私にも分かる。それでいて、捕縛した時のアイザスの清々しいほど素直な姿は、私には異様に思う。
「結果論ですが、私がいて良かったんですかね?それでもマナさんならば倒せたのでは無いですか?」
「確かにマナは昔から魔法の素質があった。私も驚いたが、マナは相当な魔法の腕の持ち主だろうな。だが、恐らくマナにはあの魔獣は倒せなかったと思うぞ。」
マナの魔法に対する腕の良さを認めている実の父である国王。だが、国王はマナには倒せないとそう言った。何か理由があるのだろう。
「何故、そう思うのですか?」
「理由なんてない。父親として娘を見てきたからこそ分かる。そんなとこだ。」
何とも釈然としない答えではある。だが、父親の目線だからこそ分かることもあるのかもしれない。私には到底理解のできない目線だ。
「マナさんには私も相当助けて貰ってます。今は妹のミナにベッタリですが。彼女も彼女なりに色々思う事があったのでしょう。」
「はっはっは。娘を分かったつもりか?マナは少々固いぞ。落とすのは至難の業だ。落とせた時は挨拶に来るといい。壮大に祝ってやろう。」
何を勝手なことを言っているのだろうか。私とマナは領主と秘書の関係である。それ以上でもそれ以下でも無いはずだ。確かに綺麗で可愛い一面もあるのは分かる。だが私もそんな彼女に相応しい男だと思ったことは無い。
「面白い事をおっしゃいますね。普通は、娘さんを何処の馬の骨とも知らない人物に容易く渡そうなどと、思わないのでは無いですか?」
「イズラート国領主:ソータ侯爵殿であろう?何処の馬の骨か重々理解しておる。それに、マナは満更でもないと思うぞ。私の勘だがな!」
相変わらずの勝手な人である。だが、この国王なら私としても上にたった貰いたい。日本にいた時に大嫌いな上司は数え切れないほどいた。だが、中には好きな上司もいるもので、バゼル国王は好きな上司になりうる。
「では、私はそろそろおいとまします。」
「そうか。また寂しくなるな。」
国王に寂しがられても、何も心が変動しないのは恐らくどうでもいいからだろう。私はもしかしたら冷酷な心の持ち主なのかもしれない。だが、確かに会わないと話せないのは日本にいた自分からすると不便である。こちらの世界には魔法はあるが、携帯や電車、テレビ、ゲーム機などがない。それはそれで不便極まりない。
「復興がまだ始まっていません。これからとてつもなく忙しくなると思います。次お会いするのは会合ですね。」
「そうだな!また近いうちに会えることを待っているぞ!」
そう言い国王はスタスタと歩き始めた。ようやく国王から解放された。だが、国王との時間がいい感じに時間を稼げたと言うものだろう。そろそろマナとミナの感動の再会時間も終了と言った所ではないだろうか。
「あの二人、なんか心和むんだよな。。。」
そう独り言を呟きながら私は自分の身支度を再開するべく、部屋に足を向ける。




