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第38話 姉の想い

「私の名前はマナ・シャラベルです。年齢は42歳です。」


私はメイドさんにそう打ち明かされたその瞬間、周りの音が何一つ聞こえなくなり、静寂な世界が広がった。それほど驚いたのだ。確かに年齢的にも説明がつく。


「そうでしたか。教えて頂いてありがとうございます。」


「何故名前を入れ替えているのか気になりますよね。」


メイドさんは的確な事を言っている。私だけではないであろう。何故名前を入れ替え、長女であるマナはメイドとして身を隠しているのかなど、気にならないはずがない。


「それは勿論気になりますが、無理して言うものでも聞き出すものでもないです。」


私は辛い過去があるのだろうと自己完結し、メイドさんであるマナに対し優しく声をかけた。マナの顔色は普段と全く変わらない。表情も無表情そのものだ。


「大丈夫ですよ。心配しなくても辛い過去などございません故。」


「私の心を読まないで頂けますか?お恥ずかしい。」


私はマナに完璧なまでに心を読まれ、少々恥じらいを見せた。誰でもそうであろう。心を読まれて恥じない者は、それは心が読まれすぎて慣れている者であろう。


「失礼致しました。ですが、本当に何の変哲もない理由です。理由は、妹であるミナを助ける為です。ただそれだけです。」


マナは "ただそれだけ" という。だが、それは本当に "ただそれだけ" の事なのだろうか?ミナに何があったのだろうか。


「全てをお話します。もう済んだ話ですから。」


「済んだ話?どういうことですか?」


「すぐに分かりますよ。」


また相変わらずの意味深な返しである。正直マナのこの言葉には信用していない。なぜなら、今まですぐに分かった事や、いずれ分かった事がないからである。


「分かりました。話、お聞きします。」


私がマナに向かって話を聴く姿勢を見せたら、マナは一つ大きな深呼吸をした後に、背筋を整えて声を発し始めた。


「私が名前をミナと入れ替えている理由には、イズラート国との戦争にも関係があります。私が30歳、ミナが6歳程の時に事は起きました・・・・・・・・・



━━━━━━━━━『約12年前』━━━━━━━━━━



「お初にお目に掛かりますバゼル国王様。私はイズラート国の使者として、イズラート国領主であるアイザス公爵の代理を務めさせて頂いております。ベルクと申します。この度は王都との関係改善の為にお話をと思いまして、お伺いした所存でございます。」


「そうか。よく来たな、茶を出そう。アリス、すまんが客人にもてなしの品を揃えて持ってきてくれたまえ。」


「はい。畏まりました。」


「早速だが、ベルクと言ったか?関係改善を期待しているのは我々王都も同様でとても嬉しく思うが。これまた何故急に。」


「はい。アイザス公爵は自分の今までの行いについて反省をしております。自分達で開発した技術を王都に知られてしまうのがとても嫌であったがために、王都を迫害し嫌っておりました。」


「お主らイズラート国の技術力に関しては我々王都も認める物ばかりだ。それを容易く奪おうなどと思っておらんと何度も言っているであろう。それにその技術力をくれと言っている訳ではなく、それを使って王都にも素晴らしい物を交易してくれとそう交渉したはずだぞ。」


「はい。バゼル国王様のそのお言葉。私共もとても光栄に思っておりました。アイザス公爵もやっとそのお言葉の善意と有り難さを理解し、王都にお仕えしようとそう決断なさったのです。」


「そうか。まぁ、細かいことは良い。つまりイズラート国は我が王都シャラベル傘下に入り、王都直属第七都市になる事に従うのだな?」


「父上様!!」


「おーおーもてなしの品を持ってきてくれたか。ありがとうなぁ!!あぁ、そうだな、いい機会だから紹介する。娘のミナだ。」


「そうですか。ミナ様と仰るのですね。可愛いお子さんですから、ちゃんと守らないと危険ですよ。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


そう言うと、ベルクは私の妹のミナに向かって隠し持っていた刃物を投げ付けました。恐らくですが、私とミナは歳の差が20歳以上も離れています。私の事などメイドか何かだと思っていたのでしょう。私は魔法に優れていましたので、護衛も兼ねてベルクとの会談中は常に部屋の中にいました。それが不幸中の幸いでした。私はすぐに防御魔法で守ったので、ミナに怪我はありませんでした。


ですが、この一件で私の父上様・バゼル国王は大激怒し、その場でベルクを殺しました。この時の父上様も少々突発的な行動でした。ベルクが殺されたことを知ったイズラート国領主のアイザス公爵は、その事を切っ掛けとして、王都から喧嘩を売られたと主張しました。


そして、結局戦争にまで発展しました。私は妹であるミナを守るために、私がミナとして。ミナの存在を隠すためにメイドとしてずっと過ごしていました。これが全貌です。」


私はその話を聞いて人間の表すことのできる喜怒哀楽を垣間見た気がした。怒りは勿論であるが、バゼル国王に比べればこの怒りなど到底及ばないだろう。何せよ妹想いの素晴らしい姉の心に、私は心を弓で射抜かれた。私の言葉ではこれ以上は語れない程である。

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