第30話 ソータの役割
「えぇぇぇえええええぇえぇえぇえ!?!」
私は純粋にそれまた特大サイズの声を建物内に轟かせた。反響というレベルではない。驚いたまま私は一定時間固まってしまった。どうやら人間は驚きすぎると放心状態になり固まるらしい。
「ハッハッハ!ドッキリ大成功だな!まさかここまで驚くとは!ハッハッハ!」
私は心の奥の奥底で"この野郎。。。"と呟いたが、声に出していてもおかしくなかった。
「なんなんですか本当に。ドッキリなんてやめてください。私に国なんて無理ですよ。冗談きついです。」
「ん?あぁ。すまん。領主にならんかという話は本当だ。大事なことをテキトーに言ってみるというドッキリだよ!」
本当にこの暴君はなんなんだ。どうにかして欲しい。ふざけるにも程があるのではないだろうか。全くの赤の他人。それもまだ出会って日も浅い奴に国を一つ任せるだと?そんな馬鹿げた話を誰が了承するのだろうか。
「冗談よしてください。洒落にならないですよ。」
「冗談などではない。真面目な話だ。この国の領主になれ。」
もう手に負えない。私は諦めた。
「なんで急にそんなこと言い出すんですか?この国の領主をどうにかする話は聞いてます。ですが、次期領主がぽっと出の者など、国民に支持されないと思いますが。」
「大丈夫だ。なるようになる。それにこの国は現在壊滅的な状況だ。国力は愚か経済力もさほど残っては居ない。収入源がないのだから、再建の見通しもないのだ。」
国王の言い分もよく分かる。他にできる人間はいないのかと思いはするが、何故またこんなに無理難題を私に振るのだろうか。この異世界に来てからバゼル国王に振り回されている気がする。
「少し考えさせて下さい。時間を頂けないでしょうか?」
「いや、今ここで心を決めてくれ。他にできる人間は居ない。私はお主を認めている。強さも含めお主はできる奴だ。この国を再建してくれ。今、頼りになるのはお主だけなんだ。」
私は誰かに頼られることにとても弱い。理由は分からないがそういう性格なのだ。日本での会社員をしていた時も、色々な人から仕事を引き受けては残業続きであった。自分が悪いことはよく理解している。だが、懇願されてしまってはどうも断れないのだ。いいカモだと私も思う。
「・・・・・・・・・分かりました。」
私は了承してしまった。馬鹿げた話を誰が了承するのだろうかと思ったがこんな所に、こんな間近に居たのだから。
国なんて動かせるのだろうか。会社の経営ならまだしも、一国を担う所謂総理大臣だ。私にそれができるのだろうか。不安が募るばかりである。
「そうか!引き受けてくれるか!頼もしい!!であれば、明日からイズラート国領主はお主だ!明日現領主であるアイザス侯爵を捕らえる。その瞬間を持って颯汰侯爵をイズラート国領主に任命する。」
これまた大掛かりなことを話しているなと、半ば放心状態のままである私を気にもとめずに、色々なことを私に投げかけてくる。
「颯汰という文字は他国との関係上変更したい。すまんが、明日からお主は"ソータ侯爵"だ。宜しく頼むぞ。期待しているからな!」
恐らくダサいと感じたであろう。無理もない。当の本人もダサいと感じている。ソータ侯爵など笑われてしまうのでは無いだろうか。
「はい。期待に添えるよう善処します。」
私は完全に自我を失っていた。自分が発している声すらもよく聞こえないほどにド肝抜かれている。全く、本当に面白い国王である。
気がつくと翌朝であった。私はいつ寝たのだろうか。一種の記憶喪失を疑ったが、健康状態はむしろ良さそうてである。そう私のお腹は大きく食欲を顕にした。
「おはようございます。お食事の準備が整っております。」
私のお腹の音を聞きつけたのか、私の部屋の扉は数秒で開いた。
「相変わらずメイドさんはナイスタイミングですね。」
「はい。メイドです故。」
朝から不思議な会話をした後に、朝特有の重い足腰を使って地に足の裏を密着させた。この時が最も憂鬱である。ベットから起き上がる瞬間、そして立つために力を入れる瞬間、会社員時代に私が唯一嫌いなことであった。
「そう言えばメイドさんはいつ寝てるんですか?」
「颯汰様がお休みになられている時に私も睡眠をとっております。」
メイドさんは私が目を覚ました時や、ふとどこかに行こうかと考えた時に必ず現れる。まるでずっとそこに居たかのようだが、本当は今までもずっと居る訳では無かったのだろうか。まぁ、そんな小さなことは気にしても切りかないのだが。
と、ありとあらゆる様々な可能性を考えていた為、歩くことについては全く注意散漫であった。私は前を歩いてるはずのメイドさんが止まったことも気が付かずにそのまま壁にぶつかった。
「お、教えてくださいよぉ。。。」
「失敗から学ぶことも御座います故、それをお教え差し上げるのもメイドの役目でございます。」
一見普段と何も変わらないメイドさんだが、今この瞬間は何処となくクスクスと笑っているかのようであった。




